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健康まめ知識

裸足歩行を忘れた現代人を襲う踵(かかと)の痛み(2013年8月)

 

     
 
8月のテーマ:
裸足歩行を忘れた現代人を襲う踵(かかと)の痛み

 若い頃にやっていたスポーツを、40代、50代になってからもう一度やりたくなるという人も多いことでしょう。水泳や、野球、サッカーなどのスポーツの他に、剣道や空手、柔道など、一時期懸命に取り組んでいたものは、何かのきっかけで突然やりたくなってしまうようです。ただこの時に気を付けていただきたいのは、昔のイメージで突然身体を動かしてしまい、長年鍛えられていない箇所に過度な負担をかけてしまい、故障を引き起こすということです。

今回は、中学生の時にやっていた剣道を約30年ぶりに再開したところ、踵をいためてしまったというAさんの症状について紹介しましょう。この踵の痛みは、剣道だけでなく、固い道路を長い時間走るランニングなどについても、同様に起こりやすいものです。

 
     

 

扁平足と足底筋膜炎
 

 Aさんは若い頃から、扁平足が悩みの種だったといいます。扁平足の原因は、遺伝的なものと、子供の頃に裸足での十分な運動が足りず、土踏まずの形成が不十分だったことがあげられます。8歳頃までは誰もが扁平足の状態ですが、成長とともに土踏まずが形成されていきます。ところが、Aさんは、中学生になっても扁平足のままでした。運動も苦手だったAさんですが、顧問の先生に勧められたのがきっかけで、中学1年生で剣道を始めました。最初は、竹刀を振るのもぎこちなかったといいますが、努力の甲斐があって2年生の時にはレギュラーとなって試合に臨むようになりました。

しかし、この頃から踵の痛みに悩まされ、毎日学校に歩いて行くのも苦痛だったと言います。この症状は、足底筋膜炎と考えられますが、原因はAさんの足の元々の状態と外的な要因として剣道を行なっていた中学校の体育館の床にもあると考えられます。

体育館の床は、球技など多目的に利用するため、ボールが弾むように固く作られています。クッションの入った靴で、走り回るように設計されたものなので、裸足で剣道の練習を行なうには床が固すぎてしまうのです。この固過ぎる床と、土踏まずの形成が十分でないAさんの足の構造があいまって足底筋膜炎を引き起こしたと考えられます。裸足で利用することが前提で設計された剣道場などは、床材の下にクッションが施され、床材自体も踵や膝のために衝撃を吸収する素材が使われていますので、そうした故障を引き起こすことは比較的少ないと考えられます。
 

さて、この踵痛のため中学卒業と同時に剣道をやめてしまったAさんですが、それから約30年後に、また剣道をすることになりました。運動不足を解消するために何かスポーツをやろうと考えていたときに、ご子息が剣道教室に通うようになり、それにつられて始めたということでした。

今度は立派な剣道場での稽古でしたが、残念なことに中学生のときと同様に踵に痛みが出てしまいました。毎日車で通勤し、あまり歩くこともない生活で陥った運動不足、さらに扁平足のまま大人になったAさんの場合、足底筋が人より弱く、裸足で稽古するように設計された剣道場でも足底筋膜炎を起こしてしまったと考えられます。

同様に、固いコンクリートの上を走るランニングでもこの症状は、多くの人に見られます。現在、国内に1000万人もいると言われるランナー。華麗なウエアや、派手に演出された東京マラソンなどの人気に刺激され、いきなりランニングを始めて踵痛を起こしてしまう人が後を絶たないようです。
 走る前にまず一定の期間ウォーキングを行い、歩く距離を徐々に伸ばすことで、足や膝にある比較的小さな筋肉を強化してあげることが故障を起こさないためには大切なのです。

強い負荷のもとでは、大腿四頭筋などの大きな筋肉は鍛えられるのですが、小さな筋肉を強化することはできません。ウォーキングなどの、負荷の低い運動で、小さな筋肉群を強化し関節の動きなどを安定させることが、ケガを予防すると考えられるのです。

しかし、華麗なウエアに身を包んだらまず、走り出してしまいたくなってしまうのでしょう。特に若い頃運動部に所属して、過激なスポーツをこなしていた記憶のある人は、この誘惑に勝てないようです。

 

   
足底筋膜炎の診断
 

 朝起きて、最初の一歩目に踵に強い痛みを感じ、歩いているうちに痛みが引いて行く、というのが足底筋膜炎の特徴です。これは、寝ている間に傷ついた筋膜がある程度修復され、歩き始めにまた小さな亀裂が入るため痛みが出ると考えられます。足底筋膜炎の診断は比較的容易なので、痛みが数日続くようであれば整形外科でレントゲンなどを使った診断をあおぐようにしてください。レントゲンで踵の骨に骨棘が認められることもあります。

自分でできるケアとしては、アキレス腱を伸ばすストレッチと、ふくらはぎのマッサージが有効です。ふくらはぎの上部である膝の裏側から、ふくらはぎ全体に圧痛点を揉み解すようにマッサージすると良いでしょう。また、足底筋膜炎を起こす原因となった運動は、しばらく休んで安静にすることが大切です。

痛みがなくなったら、素足の下にタオルを引き、足の指でタオルをつかむようにして足底筋を強化すると良いでしょう。足のアーチの状態も良くなることが期待できます。

この他に踵に痛みを感じる疾患として、アキレス腱滑液包炎、踵骨骨端炎、踵骨骨髄炎、単発性骨嚢腫などが挙げられます。いずれにしても専門医の診断で、適切な治療を行なうことが大切です。

   
裸足が世界最速のランナーをつくる?
 

 裸足で歩く習慣が足底筋を鍛え、形成してくれる足のアーチ。このアーチの役割は現在完全に解明はされていませんが、歩くときや走るときのクッションの役割をしていると考えられています。裸足のアベベが、始めて東アフリカの選手のスピード、強さを照明したのが1960年のローマオリンピック。それから半世紀でエチオピアやケニアの選手が、世界最速の称号を独占しています。あるデータによると、それらの選手を排出する地域の子供達は、EU圏の子供の10倍もの距離を毎日裸足で走っているということです。

日本人もそう遠くない昔は、下駄や草鞋で未舗装の道を長距離歩いていたのです。このような時代には、足底筋膜炎になる人もきっといなかったに違いありません。

   

 

2013年08月28日