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健康まめ知識

ブームの中高年登山で気を付けたい健康のポイント(2012年7月)

 

     
 
7月のテーマ:
ブームの中高年登山で気を付けたい健康のポイント

3000メートル級の山々の残雪も消え、いよいよ本格的な夏山シーズン。ここ数年、中高年を中心とした登山愛好者は増える傾向にあるようです。夏に、登山デビューを予定している人も多いことでしょう。なぜ山に登るのかと聞かれて「そこに山があるから」と答えたイギリスの偉大な登山家マロリーは、果たしてエベレスト初登頂を成功させたのかという謎を残したまま、帰らぬ人となってしまいました。

なぜ山に登るのか、この同じ問いに「健康のため」と答える中高年登山者は多いのではないでしょうか。確かに多くの登山者は山で鋭気を養い、元気と健康を伴って下山してくることでしょう。しかし、一方で山岳遭難者数も増加しています。平成13年以降40歳以上の遭難者数は一貫して増加傾向にあり、全遭難者の8割り前後を占めているといわれます。登山も安全に長続きさせてこそ健康のためと言えます。そのためは日頃の身体作りは大切です。今回は山に行く前に知っておきたいいくつかのポイントを紹介します。

 
     

 

なぜ登山をすると健康になるのか
 
イラスト 長い上り坂を荷物を担いで数時間。目的地までの道のりは、特に中高年の身体に良いとされる有酸素運動の連続です。予定のルートをたどって目的地に到達するまで、水泳やジョギング、自転車といった他の有酸素運動と比べてはるかに長時間運動し続けることになります。

しかも、1000メートルを超える高度に達する登山であれば、マラソンランナーなどの一流選手が取り入れることで話題になる「高地トレーニング」と同じ条件下での運動になります。高地トレーニングは標高1000メートル以上の空気中の酸素の薄い環境で行い、身体が低酸素状態を回復しようとして、呼吸循環の機能を高めようとする働きを利用します。空気の薄い標高では、普通に呼吸していては苦しいので、より多くの酸素を効率よく取り入れられるよう呼吸機能が高まります。同時により多くの血液を全身に送り出せるよう循環機能も高まり、酸素を運ぶ赤血球やヘモグロビンも増産されます。この状態は平地に下りてもしばらくは保たれるため、運動競技で利用されるわけです。登山をすると疲れにくい身体になると感じるのは、この高地トレーニングの効果によるものと考えられます。

また、脳や心に及ぼす効果もあります。足元の岩や斜面に集中しながら無心にリズミカルに運動することで、悩みから開放されて心が健康になったと感じる人も多いことでしょう。美しい山々を望みながら稜線を歩く爽快感、楽しさは他では得難いものです。次の山行を心の支えに仕事を頑張ろうという人もいるに違いありません。

 
まず足元が大切
  こうした登山の優れた面は、事故もなく健康な身体で下山してきて初めて生かされるものです。登山の事故で最も多いのは、下り道での転倒、滑落、転落です。足腰の弱っている人がいきなり山に登れば疲労で下山中に怪我をしやすくなります。日頃運動をしていない人が運動のためとして、いきなり山に行くのは無謀と言う他ありません。まず準備として「足作り」をしましよう。
 

まず登山用の靴を用意します。専門店で足首まできちんと固定できるものを選んでください。山道で浮き石などを踏んだとき、石が動いて捻挫することを防ぎ、また堅い木の根や岩の先端を踏んでいけるので、疲労を軽減することができます。靴を手に入れたら、この靴でウォーキング。足と靴を馴染ませ、タウンシューズより重量のある靴で歩くため、足首などの小さな筋肉を鍛えられます。スクワットなどで大きな股の筋肉を鍛える前に、まず空荷で歩き小さな筋肉を鍛え、同時にストレッチで柔軟性を高めます。平地ではただの捻挫でも、山では遭難に繋がります。くれぐれも買ったばかりの靴でいきなり山に行くのは止めましょう。平地のように靴擦れで痛い思いをするだけでは済みません。

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  また、登山予定日の1ヶ月程前から、軽いジョギングなどを週3回程度行うようにすると山に入ったときに、登りをより楽しめるようになります。何人かのパーティで山に入ったときに一人だけ苦しくて下を向いてばかりいては、楽しさも半減してしまいます。
呼吸を楽に
 

 山道を登り始めて思うのは、登山は息切れのするスポーツだということでしょう。足の運びに呼吸を合わせるようにするとだいぶ楽になりますが、酸素の薄い山での呼吸を、胸郭を広げる胸式呼吸で行おうとすると大きな筋肉のエネルギーが必要になります。そこで、比較的少ないエネルギーで横隔膜を動かして呼吸する腹式呼吸を意識的に行うようにします。よく声楽の人が練習で行うように、息を吐きながら手の平でお腹を押し、息を吸いながらその手をお腹で押し出すように練習すると良いでしょう。仰向けになってお腹の上に重い辞書などを乗せ、それを呼吸と共に上下させるようにするとより効果的な練習ができます。

また、息を吸うときは鼻から。吐くときは少し口をすぼめるか唇の上下に少し力を入れて抵抗をつけながらゆっくり吐くようにします。こうすると吸気のとき山の冷たい空気が鼻の中で加湿・保温されて身体の負担が軽減されます。呼気のときは、肺に空気を残さずゆっくりと息を吐ききることができるので効率よく酸素を取り込むことができます。筋肉内が酸素不足になると乳酸がたまり筋肉疲労を促進します。薄い空気の中で少しでも上手に酸素を吸い身体の疲労を軽減することが、下りでの思わぬ事故を防ぐためにも大切です。

自分のペースをつかむ
  自分のペースで歩きなさいと言われても、どのぐらいの早さが自分のペースなのかわからないという人も多いでしょう。目安になるのは心拍数です。アスリートが健康体を取り戻すためのエアロビック理論で知られるアメリカのマフェトン博士は、180公式という分かりやすい心拍数管理方法を提唱しています。

180から自分の年齢を引いた数を1分間の最大心拍数とし、そこから10を引いた心拍数との間で運動を行えば、最も身体に負担が少なく効率的な有酸素運動ができるというものです。例えば50歳なら180から50を引いた数、130拍を最大心拍数として、それから10を引いた120拍との間となります。日常的に運動習慣のない人は、そこからさらに10を引いた心拍数をターゲットとします。ときどき立ち止まって首か手首で15秒間脈を計り、それを4倍すると良いでしょう。ほとんどの場合、オーバーペースであることに気付くと思います。

 

山のルールとして、細い山道でのすれ違いは、登りの人を優先させて、下りの人は脇に避けて道を譲るという美風があります。このとき下山の人が立ち止まって待っていてくれていると、申し訳ない気持ちが先に立って、それまで良いペースで歩いていたところを無理に頑張って登ってしまい、呼吸を乱してしまうことになりがちです。

そこは正直に「辛いので、お先にどうぞ」と声をかけて、下山者に道を譲るのが大人の対応というものでしょう。

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2012年07月28日