人類の歴史は、ウイルスとの戦いの歴史だとされます。一説によると美男や美女が異性にモテるのは、ウィルスに負けない免疫機能を持っている人が、左右シンメトリーな身体や美しい容姿を有するからだと言われます。美しい容姿を持つ人ほどウイルスに負けない健康な子孫を残す確率が高いので、自分の子孫を残そうという本能によって、そうした伴侶が求められるというわけです。
天然痘というウイルスによって、顔に痘痕(あばた)を残すということも一昔前までは珍しくありませんでした。歴史上の人物では、戦国大名の伊達政宗は天然痘で右目を失い独眼竜と呼ばれ、吉田松陰やモーツァルトにも痘痕があり、夏目漱石は痘痕のため自分の容姿に劣等感を抱いていたといいます。この天然痘を根絶させたのが「近代免疫学の父」ジェンナーが考え出した種痘法というワクチン療法でした。この天然痘に対するワクチンは改良されて世界中で使用され、ついに1980年には根絶が宣言されました。
しかし、人類は、毎年のように新たなウイルスの脅威にさらされ、今年猛威を振るうエボラ出血熱のように効果的なワクチンが未開発な病気も少なくありません。
今回は、こうした様々な感染症からできるだけ身を守るために心がけておくべきことを紹介します。
新型インフルエンザ
毎年寒い時期になると流行する季節性のインフルエンザの他に、遺伝子組み換えなどによって発生する新型インフルエンザというものがあります。これは本来、動物にしか感染しないインフルエンザの遺伝子が変異しヒトに感染するようになったものです。誰も免疫をもっていないので、感染が急激に拡大することもあります。過去には世界中で6億人も感染し、4000万人もが亡くなったスペインインフルエンザ(1918年)や死者200万人のアジアインフルエンザ(1957年)、死者100万人の香港インフルエンザなどがあります。
これらは、それぞれ別の型の遺伝子のインフルエンザですが、1977年に流行したソ連インフルエンザは、1918年に流行したスペインインフルエンザと同じものです。このように、いったん終息してもまた流行するものや、さらに抗インフルエンザ薬の効かない遺伝子への変異が懸念される恐ろしいものもあります。
世界的な大流行(パンデミック)が怖れられている高病原性鳥インフルエンザもその一つです。鳥インフルエンザは、ニワトリやウズラ、アヒル、七面鳥など人間が飼育する家禽がもっているA型インフルエンザウイルスによる感染症で、ヒトの季節性のインフルエンザとは感染症法上で区別されています。このうち鳥に対する病原性の強いものが高病原性とされます。
この高病原性ウイルスのヒトへの感染は、家禽との濃厚な接触によっておこり、高病原性H5N1ウイルスの場合は、致死率が60%といわれる恐ろしいものです。このウイルスが突然変異によりヒトからヒトへ感染するようになることが最も懸念されているのです。
パンデミック時の備えをしよう
こうした、ウイルスによるパンデミックが起こった場合、自衛手段としてもっとも有効なのは、なるべく外出を避け感染者との接触を極力減らすということになります。特に発生した直後は、医療体制や対処法などが確立されていないということを想定して、不要不急な外出を控えるということが必要になります。しかし、外出を控えるとすぐに日常生活に支障をきたすことになります。そうした場合に備え、必要最小限の備蓄をしておくことが大切です。何をどれぐらいというものについて、4人家族が2週間生活をするための備蓄品のリストが農林水産省のホームページで紹介されていますので参考にしてください。最低限必要になるカロリーから割り出した食材の量等が目安として紹介されています。
これらのいざという時の備えは、地震などの災害時にも同様に必要なものです。
下記は、その一部ですが、このような品目を表にして、在庫数や、保存期限などを一目で分かるようにしておくといざというときに大変役立ちます。
●衛生用品
- 常備薬(胃薬、痛み止め、その他持病の処方薬など)
- 絆創膏(大・小)
- ガーゼ・コットン(減菌のものとそうでないもの)
- 解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)
※薬の成分によっては、インフルエンザ脳症を助長する可能性があります。
購入時に医師・薬剤師に確認のこと。 - マスク、ゴム手袋(破れにくいもの)
- 水枕・氷枕(頭や腋下の冷却用)
- 漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)
- 石けん、消毒用アルコール、うがい薬、体温計
●日用品
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●食糧(長期保存可能なもの)
【主食類】
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【その他】
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その他必要な食料(介護食、ベビーフード、粉ミルク、サプリメント、ペットフードなど)
予防-生活の中で気をつけたいこと
外から帰ったら「手洗い」「うがい」をするということを日本人は子供の頃から躾けられていますが、海外では意外に「うがい」は一般的ではないようです。その効果の検証が十分されていないということがあるようですが、日本では神社にお参りするときに行う「手水」(てみず)が手や口を清める作法としてあるように美しい文化の一つとして継承したいものです。
ただ、ウイルス対策としては、手水のように水をかけただけでは役に立ちません。しっかり洗剤と流水を使って洗う必要があります。正しい方法は、やはり農林水産省のホームページでも紹介されています。
●正しい手の洗い方
- 流水で汚れを簡単に洗い流す。
- せっけんをつけて十分に泡立てる。
- 手のひらをあわせてよくこすり、次に手のひらと手の甲をあわせてよくこする。
- 両手を組むようにして指の間をよく洗いましょう。
- 爪の間も十分に洗う。
- 親指は、反対側の手でねじるようにして洗う。
- 手首も忘れずに、反対側の手でねじるようにして洗う。
- 洗った手が再び汚れないように、蛇口をせっけんで洗い流してから水を出し、流水でせっけんと汚れを十分に洗い流す。
- 清潔な乾いたタオルなどで水気を拭きとる。
感染症が流行する寒いこの時期、当たり前の健康法ですが、正しい手洗いでウイルスの侵入を防ぐこと、暴飲暴食を避け、免疫機能を落とさないように睡眠と休息をしっかりとること、栄養バランスに留意し、軽い有酸素運動を習慣づけるなど、日々の正しい生活習慣に気を配り工夫して過ごしましょう。