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健康まめ知識

食後にすぐ横になるのは良い? それとも悪い?(2013年3月)

 

     
 
3月のテーマ:
食後にすぐ横になるのは良い?

それとも悪い?

 昔から「食事をしたあとで、すぐ横になると牛なる」とよく言われたものです。子ども心に、牛のような姿にはなりたくない、お腹いっぱいものを食べて、ごろごろしている怠け者にはなりたくないと考えた人もいたことでしょう。

主に、行儀の悪さを戒めた躾だったわけですが、同時に、そこには食事後にすぐ横になってはいけないという健康のための古人の知恵が秘められていたようにも思います。

一方で、ある剣豪小説に、若い武芸者が食べたものを効率よく消化して身体の栄養とするため、食事の後に真上を向いて静かに横たわることを日課にしているという場面がでてきたりします。

実は、消化という作業は、生き物にとって大変な力仕事なのです。元々固体であったものを噛み砕いて、消化液で溶かし、さらに酵素で分解し、血管を通れる栄養素にするという作業を驚くほど短時間でやってのけているのです。身体の血液を消化のために内蔵、消化器官に集中するために静かに横になるというのも合理的に思えます。さて、身体にとって食後にすぐ横になった方が良いか、ならない方がよいのか、今回はこのことをテーマとしてみました。

 
     

 

逆流性食道炎について
 

 
逆流性食道炎とは、食べ物を消化するための胃酸や十二指腸液が、食道に逆流することで食道の粘膜にびらんや炎症を引き起こす疾患名で、食後すぐに横になることが、この病気の要因の一つとされています。

食後にすぐ横になってはいけないという古人の教えは、この疾患に対する戒めだったのでしょうか。では、少しこの疾患について説明しましょう。

逆流性食道炎の症状としては、胸焼けがしてみぞおちのあたりに痛みがあったり、食事中や食後に横になると喉や口の中に胃酸が逆流して酸っぱいものがこみ上げてきたりします。胸のあたりに違和感・不快感があったり、腹部に膨満感があるという症状もあります。

また喉に違和感があったり、声がかすれる場合があります。食べ物が食道を通るときに痛みを伴うこともあります。怖いのは、就寝中に逆流物が気道にはいり、呼吸器疾患を起こすことです。

要因としては、ストレスや暴飲暴食、喫煙、飲酒。噴門とも呼ばれる食道下部括約筋の弛緩や喫煙や加齢による機能低下。食道裂孔ヘルニアという胃の一部が胸腔内に入り込んでしまう病気。妊娠、肥満、便秘、運動による腹圧の上昇、消化不良などとされていますが、一般的には「高齢化などによる噴門の機能低下」が最大要因として知られています。

食べ物を消化するための胃液は、一日に1.5?2リットルも分泌されます。この強い酸である胃液への耐性が弱い食道に胃液が逆流しないように蓋をしているのが噴門と呼ばれる部位です。この噴門が緩んでしまうと食べ物が逆流してしまうのです。

噴門の機能低下は、高齢化ばかりでなく、一回の食事量が多すぎたり、食の欧米化で油分の多い食事ばかり摂りすぎると下部食道括約筋の締まりが弱まり、噴門が開きやすくなってしまうのです。最近、若い人にもこの疾患が増えているのは、この食習慣の欧米化や遅い時間の食事、肥満により脂肪で胃を圧迫するなどの原因が考えられます。これらの原因に、食後すぐに横になる習慣が重なるとリスクが高まると考えて良いでしょう。

次にその予防と治療について紹介します。

 前述のような症状が気になり、肥満している場合は、医師に相談して体質改善と減量を行うこと、生活習慣を改善することが何より大切です。辛いものや脂っこいものを好んで食べたり、遅い時間の食事は消化系に様々な負担をかけます。

治療は、生活改善とともに薬物治療を行います。症状の緩和には食道を刺激する胃液の産生を抑制する薬物を使用します。薬物での治療は中断すると発症時と同じような症状になることが多いので、症状の進行状況をみながら治療薬の増減を行います。

治療薬は、胃酸の分泌抑制剤や消化管運動機能改善剤、胃酸の濃度を中和する制酸剤などを使用します。こうした薬による治療の効果が現れない場合や、食道狭窄などによる出血があるときや食道裂孔ヘルニアが確認されたときは、外科治療を行うこともあります。

手術は機能が低下した噴門や下部食道括約筋の修復や食道裂孔ヘルニアによる裂孔した横隔膜の縫合などを行います。また、高齢者の場合、加齢により緩くなってしまった食道裂孔の縫合などを行う噴門形成術を行うこともあります。

   
食後の安静
  食後に横になって安静にするのは、高齢者の場合上半身は起こした状態で安静にするというのがベストでしょう。この姿勢であれば逆流性食道炎の予防にもなります。もう一つ肝臓という臓器にとっても食後の安静は大切だということも説明しておきましょう。

肝臓には胃や腸で栄養を吸収した血液が集まってきます。この血液が肝臓の中を通過するときに肝臓に栄養が吸収されます。この血液の量が横になると立っているときの2倍から4倍になるといわれます。食後に30分から1時間ごろ寝をすると栄養たっぷりの血液が肝臓に集まり、慢性肝炎などの肝臓病がある人に良いだけでなく、肝臓病を未然に防ぐ効果も期待できます。腹八分目に和食をいただいて、食後にクッションを背に長椅子にゴロンと横になるというのは最高の贅沢かもしれません。

 

2013年03月28日