突然死の予防にはメディカルチェックを(2013年6月)
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「突然死」の原因 | |
屈強なJリーガーがサッカーの練習中に突然倒れ、急性心筋梗塞で死亡したということを覚えている方も多いのではないでしょうか。突然死とされるものには、心機能に起因するもの、脳梗塞や脳出血によるもの、呼吸系に起因する窒息死、原因のわからないものもありますが、心機能に由来する循環器疾患によるものが全体の6割以上と多くを占めています。 この心機能に由来する突然死を心臓突然死と呼びますが、健康になろうとして行う運動にもその危険は潜んでいるのです。血液は、身体中の毛細血管から集められ、静脈に入り上下の大動脈から右側の心房、右側の心室、肺、左側の心房、左側の心室、大動脈、動脈、毛細血管という順路で流れていきます。もし心臓に血液を送る冠動脈に障害が起き、左側の心室の心筋が動かなくなると血液が、左側の心室でせき止められた状態に陥ります。このときに運動によってさらに心臓に負荷をかけると肺は鬱血状態になり、心臓は疲労し不整脈を起こします。これが心臓突然死の引き金となるわけです。 心筋梗塞で不整脈を起こした場合は、心臓に栄養と酸素を送る冠動脈の動脈硬化が進行し血管の内側が狭くなります。その狭くなった部分に血栓という血の固まりが詰まると致死的な不整脈である心室細動が起こり、心室筋が適切に動くことができなくなってしまい心臓は血液を送り出す機能を失います。脳に行く血液も止まり死に至ることになります。こうした心臓突然死は、年間約5万人と言われ、この心筋梗塞によるものが最も多いとされています。 |
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スポーツと突然死 | |
ここ20年間に開催された国内のマラソン大会で、120名を超える方が主に急性心筋梗塞が原因で亡くなっています。マラソンで急性心筋梗塞を起こすことが最も多いのは、ゴール直前とゴール直後で約7割の人がここで倒れています。ゴールが見えたところで、無理をしてきた身体に最後のムチを入れてしまったことが考えられます。どんなに無理をしないように自分に言い聞かせても、長い間準備をして臨んだ大会で、最後に頑張ってしまう自分を止めることは難しいに違いありません。しかし、競技の途中で胸に痛みを感じたとき、それが心臓へ送られる血液が不足しているということを知っていれば自重できるはずです。まず、こうした突然の不調が自分にも起こりうるということを認識することが大切です。 こうした運動中の突然死の大多数が、これまでの研究では心疾患に由来する循環器系の病変が占めているということが明らかにされています。つまり、こうした病変を運動前のメディカルチェックで見つけることができれば、多くの突然死は防げるということです。 40歳を過ぎると喫煙、飲酒、過食、疲労の蓄積などから、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病を発生し、動脈硬化の進行に伴い心臓に栄養を送る冠動脈が狭くなっていることが少なくありません。自覚症状としては、締め付けられるような胸の痛みや圧迫感、冷や汗、息が苦しいなどです。 運動を始める動機が、こうした自覚症状により体質改善を目指して、いわゆるメタボリックシンドロームから脱出したいというものである場合、すでに心臓血管系に病変があれば、それが命取りになることもあるのです。まず、医療機関で適切な検査を行うことをお勧めします。 心臓血管系のメディカルチェックには、通常の血液・尿検査に始まり胸部X線、安静時心電図、運動負荷心電図、ホルター心電図などの検査を含め10数項目のチェックが用いられます。一例としては、病気の既往症や家族歴、自覚症状の有無などの問診、聴診、触診の後に血液検査と尿検査を行います。心臓超音波検診で心臓の形態的異常の有無の確認し、無ければ自転車エルゴメーターなどを使って運動負荷テストを行います。ホルター心電図を24時間つけてもらいその記録をチェックすることもあります。呼吸器系の病気が疑われる場合は、呼吸器検査を行うなどの必要が生じます。これらの検査は別に痛い思いをするわけでもないので、身構える必要はありません。 継続的にレースなどに参加していて、これまで何のトラブルも感じていないという人も、一度チェックしておくことが突然死を免れるためには大切です。 古代エジプトでは、非常に勇敢な人には実際に心臓に毛が生えていると信じられていて、尊崇の対象だったといいます。確かに現代でも心臓が健康的で強いのであれば羨ましい限りですが、心臓に毛が生えているという表現は尊敬を集めることとは別の意味になってしまったようです。 |
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