一般財団法人 茨城県メディカルセンター

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健康なランナーを目指そう(2015年3月)

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毎年、春を目前に行われる東京マラソン。参加する人も応援する人もこれほど楽しめる大会はないかもしれません。東京の街並みを普段とは違った目線でじっくり味わいながらのラン。こうした大会に参加して、もう二度と走りたくないと思う人と、初参加で病みつきになる人がいるといいます。今回参加した知人にその典型のような二人がいましたので、その顛末をご紹介しながら、ランニングで健康になる方法を考えてみましょう。

 

運の良いA氏、頑張り屋のBさん

A氏は、元水泳選手で水泳のコーチもしていたという颯爽としたスポーツマン。東京マラソンには過去に2回続けて当選したという幸運な男です。今回は残念ながら抽選にもれ、それまで行っていた練習のモチベーションが一気に下がってしまっていました。ある日、会社の上司との飲み会の席でその話しをすると、なんと会社の後押しでチャリティーランナーとして参加することになりました。どこまでも運の良い男です。

 

Bさんは、頑張り屋のキャリアウーマン。毎日早朝から猛勉強、仕事で使う資格取得を目指していました。その試験に合格したBさんは、空いてしまった早朝の時間を走ることにしました。それが昨年の8月。初めてのフルマラソンにチャレンジする半年前のこと。たまたまギリギリに申し込んだ東京マラソンにも当選してしまったのです。それまで、マラソンはおろか短い距離のレース経験もありません。早速、ランニングシューズを買い求めました。

 

まったく異なる練習法

イラストさて、この二人の練習内容は、まったく異なっています。A氏は、一般応募で落選してからしばらくの間、練習に気が乗らず、さらにチャリティー枠での出場が決まってからも年末年始に例年より多い宴会が重なり、思うように練習できない日々が続きました。過去に4時間を切ってフィニッシュした経験があるので、1月に入ってからの短期間のコンディショニングでも4時間程度で走れる自信があったのです。1月の中旬には、徐々にペースをあげて走れるようになりました。

 

一方のBさん。11月に20キロレースに出場して、1月には30キロレース。物事を計画通りに進めることが得意なBさんは、ランニングの大会でも着々と距離を伸ばし、それぞれ10キロを約1時間で走ることができました。初めてにしては出来過ぎの感がありますが、これには理由があります。友人から勧められた本で体幹トレーニングとストレッチがランのフォームを作る上で大切なことを知り、毎日欠かさず練習に取り入れました。アスリート専門のトレーナーの講習会にも参加し、さらに知識を深めました。

 

大会直前のアクシデント

イラストこうしてそれぞれ本番を一ヵ月後に控え、練習に気合いが入る日々を過ごしていました。ところが、二人とも身体に問題がおきてしまいました。

 

A氏は、1月の末にひどい風邪を引いて体調を崩してしまったのです。せっかく練習も調子に乗ってきて、これからさらにペースを上げようとしていた矢先です。

 

Bさんの方は、足に問題が起きました。左足の踵のあたりが毎朝痛むようになったのです。

 

 

A氏の場合

まず、A氏の方から体調を崩す原因になったことを推測してみましょう。彼は経験も自信もあったので、比較的短期間にコンディショニングをあげられると考えていました。ここ何年かマラソンに参加してきた練習の蓄積もあります。しかし、彼のようマラソンの経験があっても日頃コンスタントに走っているのでなければ、大会本番に向けて最低でも3ヵ月はかけて基礎的な代謝機能を高め、衰えている筋力などを強化する必要があります。しかし、大会まで時間がなかったために、実際のレースでの走行スピードをイメージしたトレーニングに集中することになったのです。キロ何分という設定で練習していました。こうした練習では、心肺機能は高まるのですが、基礎体力が落ちてしまうことがあります。

 

皆さんもご存知の有酸素運動レベルでは、体内の糖質と脂肪の燃焼割合は50%ずつです。ところが、比較的早いスピードでの練習をすると酸素摂取量を酸素消費量が上回り酸素不足になります。酸素不足では脂肪をエネルギーにすることができません。この状態での練習を続けると身体は次第に脂肪をスムーズに燃やせなくなってくると考えられるのです。脂肪が使えないとなると、エネルギーは糖質に依存することになります。しかし、糖質は脳で常に大量に使われる上、体内の備蓄が少ないので身体は常にエネルギー不足の状態になり、疲れやすくなってしまいます。

 

A氏が早いスピードの練習で調子が上がってきたと思ったところで、ひどい風邪を引いてしまったのはエネルギー不足で基礎体力を失い、免疫機能を低下させたのだと考えられるのです。

 

この事態を避けるには、どうしたら良いのでしょうか。一つの方法が、トレーニングに心拍計を使うこと。心拍計を使うと脂肪を燃焼するゾーンで練習するエアロビックトレーニングを確実に行うことができます。このエアロビックトレーニングで脂肪を燃焼するエアロビックシステムを身体の中にしっかりと構築した上で、スピードを上げるトレーニングをすれば、A氏のように体調を崩すことはなかったと思います。

 

こうしたアドバイスをしたところ、A氏は大会本番で心拍計を付けて走ることになりました。今回は準備不足でエアロビックシステムが強固でないため、心拍計を確認しながらエアロビックゾーンで走り終盤にエネルギーを温存すると良いということも伝えました。本番では、15キロ地点まではゆっくり走っていたのですが、その後体調が良いと感じて30キロあたりまでスピードを上げてしまったということでした。ここでエネルギーを使い果たしたA氏は、35キロ過ぎからは足も動かずとても辛い思いをしながら歩いてフィニッシュラインに辿り着いたということです。走り終わっての感想は「もう二度と走らない」でした。

 

Bさんの場合

一方Bさんの足はどうだったのでしょうか。朝起きると踵に痛みがあって歩いているうちに消えるということでしたので、初期の足底筋膜炎だと思われます。これは、足底の筋肉の膜に炎症が起きるものです。長距離を走るようになって半年近く経過し、疲労から足のアーチが落ちてしまったことが原因です。Bさんには、このアーチを作るために足の指で靴底を掴むようにして歩くこと、裸足でタオルの上に足を置き、足指でタオルをたぐり寄せる練習をするというアドバイスをしました。この訓練でアーチを高くするのです。この後、幸いなことにこのことでBさんの足の痛みはなくなったということでした。

 

さて、大会本番。Bさんは女性らしいコスチュームに可愛らしい縫いぐるみのキャラクターを冠って走っていました。大会参加者の中には、全身に映画のキャラクターの衣装で着込んでフルマラソンを走るという強者もいて、皆さんサービス精神満点です。

 

Bさんの腕には、最新型の脈拍計が付けられています。これは、胸にセンサーのベルトをつける形の「心拍計」ではなく、腕の血流をセンサーで測定するもの。気軽に付けられるという点に特徴があります。初めて一人で走るマラソンが不安だという彼女に、一緒に走ってくれるトレーナー役をこの脈拍計に託したのです。Bさんにもエアロビックゾーンで走れるよう目標にする心拍数の上限と下限を設定し、それぞれの心拍数を超えるとアラームが鳴るように設定しました。走っている間、このアラームの音に支えられてとても心強かったとBさん。見事に笑顔で初マラソンを完走しました。

 

エアロビックトレーニングの活用

イラスト大会の翌日、A氏とBさんに会いました。二人とも筋肉痛で階段の上り下りが辛いようです。A氏はレース直後に、もう二度と走りたくないと思ったが、時間が経つにつれて悔しさがこみ上げてきたと言います。もう一度、身体を作り直し、エアロビックシステムをきちんと構築してからレースに臨みたいとのこと。Bさんは、レース後もアミノ酸を摂ったりストレッチをしたりして身体のケアにも気をつけている様子。もう次のレースをどこにしようかと目を輝かせていました。

 

マラソンを趣味にしている人、これから参加しようという人はたくさんいます。楽しくフィニッシュするには、どうしたら良いかもうお分かりでしょう。本格的に走り出す前にエアロビックゾーンでの練習をじっくりと行い、脂肪を燃やしながら走れる身体を作ることが大切です。体脂肪の燃える身体にすれば、自然に普通体型になりますので無理なダイエットをする必要はありませんね。

2015年3月