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まめ知識カテゴリ: 骨・関節

姿勢年齢を若く保つ(2014年12月)

 

図 先日なにげなくテレビをつけたところ、とても姿勢の良い初老の男性がでてきました。別に芸能人でもなければ、体操の先生でもないようです。しかし、その姿勢の良さが生み出す雰囲気がとても若々しく、歌声もなかなか素敵で、実際の年齢を聞いてたいへん驚きました。「姿勢年齢」という言い方があるとすれば、その若さを保つということは大切なことでしょう。今月は、その方法についてご紹介しましょう。

 

良い姿勢はなぜ大切か

 地球上に生息する我々は、常に重力によって地面に向かって押さえつけられています。普段は意識しないことですが、長いこと風邪等で寝込んだ後に起き上がると重力に逆らって立ち上がることがとても辛く感じられたりします。この重力に逆らって身体を支えている筋肉を抗重力筋と呼ぶこともあります。この抗重力筋は、日常生活を送る上で常に活躍を強いられているのですが、姿勢が悪いとさらに負担が増え疲労やコリの原因にもなってしまいます。そのため慢性的な腰痛や肩こり、頭痛などの症状が、悪い姿勢と相関関係にあると言われます。
図 肩こりを例にあげれば、約5kgもある頭部を首と肩甲骨周辺の筋肉が抗重力筋として支えているということがそもそもの出発点です。通常は、脊柱の自然なS字カーブで頭部の重みを上手に分散して支えていますが、姿勢が悪いと頭部の重さは、脊柱の上に上手く乗らずに首と肩の筋肉で主に支えることになります。5kgの重さというと2ℓ入りのペットボトルを2.5本分。片手で持ったら5分もしないうちに下に置きたくなる重さです。
 さらに首と肩の筋肉は腕の重さも支えているというのをご存知ですか? 腕は肩の関節で身体に繋がっているというイメージを持つのが当然ですが、実は肩の筋肉が身体に繋ぎ止めているのです。その証拠に腕を大きく動かすと肩も一緒に動くはずです。この腕が一本で約3.5kg。2本で7kg。頭部と合わせると10kg以上の重さが常に首と肩周りにかかっているということになります。
 つまり人類は、二本足で歩き始めたときから良い姿勢で立つということが宿命づけられているということになります。

 

自然体の作り方

 自然体は、最近大ブームのスポーツでも取り入れられています。ランニングがそうです。今や1000万人とも言われるランニングブームも、最終的に良い姿勢で走るということに行き着きます。なぜなら、42kmを走るマラソンでは何より脚や腰、膝などの一部の筋肉や関節に過度の負担をかけないことが大切だからです。このマラソンのフォーム作りでも取り入れられている方法を紹介します。
 1.真っすぐだと思われる姿勢で立ちます。
 2.そのままの姿勢で軽く膝を曲げ、真っすぐ上に軽くジャンプします。
 3.それを2~3回繰り返し、真っすぐに着地するようにイメージします。
 このジャンプで、頭部が脊柱に真っすぐに乗ります。ランニングでは、この姿勢のまま走り出すことで、自然体でのランニングフォームを作って行きます。
 全身の映る鏡の前で、身体の側面を鏡に映してジャンプしてみてください。着地して自然に立った時、耳、腰の骨、くるぶしの3点が一つの軸上にあればこれが「自然体」です。
 もう一つの確認の仕方が、壁を利用する方法です。あごを引いた状態、つまり首の後ろを十分に伸ばして後頭部と背中とお尻、ふくらはぎ、踵を壁に付けて立ちます。自然体で立てれば無理なく全てが壁につきます。

 

椅子に座って良い姿勢を保つには

図 デスクワークの長い人は、1時間に一度ぐらいは立ち上がって自然体で少しでも歩くようにしましょう。また、良い姿勢で座るということも大切です。椅子に座った良い姿勢というのは、背もたれとの間に隙間を作らないように深く腰掛け、骨盤の下にある座骨で椅子に座りこの座骨の上に骨盤から脊柱を真っすぐに乗せます。腰を引かずにやや骨盤を前傾させるようなイメージで椅子に深く座ればこの姿勢になります。

 

正しい歩き方は、正しい姿勢から

図 健康のためにウォーキングを始めても長続きしないという人は、姿勢と歩き方に問題があるかもしれません。特に、歩くための筋力をアップしようと、足腰の筋肉を意識して早歩きしようとすると、すぐに疲れてしまいます。最悪の場合、筋肉がコリ固まりケガをしてしまうこともあります。
 まず、先に紹介したように自然体で立ちそこから歩き始めます。歩くときは、筋肉の力ではなく、重心を前に倒し、重心が移動する力で歩くようにします。

 具体的には、以下のようにします。
 1.まず自然体を上の「自然体の作り方」の方法で作ります。
 2.身体を一本の棒としてイメージします。
 3.この棒が前に倒れるイメージで身体を前に倒すと、身体の真下に一歩前に足がでます。
 4.この自然に前に出た足に重心を乗せる動きの繰り返しで歩きます。
 こうすると、筋肉の力に頼らずにある程度の距離をラクに歩くことができます。心拍数も上がりすぎない運動強度で歩くことができるので、身体の様々な機能が改善され、健康の維持にもつながります。

 

 良い姿勢は、若々しく見えるだけでなく身体を本質的に若々しくしてくれるのです。自然体を身につけ、いつまでも若さを保ち、生き生きと充実した日々を過ごしましょう。

 

 

中高年に人気の「ラジオ体操」(2014年10月)

 

イラスト今年の夏は異常な暑さが印象的でした。それに続く急激な気温の変化と天候の不順。気持ちの良い日本の秋の到来が待ち遠しいところでしたが、10月に入り、やっと身体を動かすにはちょうど良い季節がやってきました。

 

最近、中高年に何故か人気なのが「ラジオ体操」。子供の頃、夏休みにスタンプを押してもらうことが楽しみで、毎朝眠い目をこすりながら参加したあの「ラジオ体操」です。この2年あまりで関連本が10冊以上、中にはシリーズで数十万部も売れている本もあるようです。

 

今月の健康コラムは、この「ラジオ体操」の人気の秘密、その効用などについて紹介したいと思います。

 

「ラジオ体操」とは?

ラジオ体操という名の通り、ラジオ放送局が健康のための体操指導を行うというのが始まりです。1920年代からアメリカやドイツで放送されており、日本でも徒手体操を指導員の号令で行う番組がありました。

 

現代のラジオ体操の原型になるのは、アメリカの保険会社が健康増進のために始めたラジオ体操番組”Setting up exercise” だと言われます。

 

日本では、昭和天皇の即位を祝う事業としてラジオ体操が提案され、文部省に委嘱。国民健康体操の名称で天皇の御大典記念事業の一環として放送が始められたといいます。その後、全国放送として定着し今に至る「ラジオ体操」は当時の日本人の健康増進のためにスタートした、肝いりの番組だったわけです。子供の頃は、夏休みのイベント以外にも様々な機会に行っていたように思うのですが、いつのまにか、ストレッチや体幹トレーニングなど、新しいメソッドに比べ時代遅れの運動というイメージが定着した「ラジオ体操」。

 

それがなぜ復権したのでしょうか。

 

かつてのマイナスイメージはどこから?

イラスト「ラジオ体操」は、運動競技や日常生活をスタートする前の軽いウォーミングアップとして広く活用されていました。ところが「ストレッチ」が、1970年代後半スポーツの指導者などにより急速に広まり、まずアスリートの準備運動がこの新しい科学的なスポーツメソッドに取って代ったのです。

 

動きに反動をつけた「ラジオ体操」のような準備運動は、暖まっていない筋肉や関節に有害だといったことが、あらゆるスポーツシーンで語られました。学校のクラブ活動など、身近なところでも必ずそうした話題が出た程です。

 

こうした反動で弾むような動作で筋肉を伸ばす方法を「バリスティックストレッチ」(動的ストレッチ)と言い、現在「ストレッチ」呼ばれている「静的ストレッチ」と比べて、急激に伸ばされた筋肉が起こす「伸張反射」と呼ばれる防衛反応のために、かえって筋肉が反射的に収縮してしまうとされました。

 

こうしたマイナスの情報は、現在の「ラジオ体操」の盛り上がりの中では、あまり話題にはならないようです。現代では、「静的ストレッチ」、「動的ストレッチ」ともにそれぞれの良さがあるという認識が一般的です。どうやら、「静的ストレッチ」の優れた点を強調するために、ことさら「動的ストレッチ」が悪者にされたというのが真相なのかもしれません。いずれにしても現在では、「ストレッチ」を専門に教える教室などでも「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」、それぞれの良さが紹介されることが多いようです。

 

「ラジオ体操」の効果

イラストでは、「動的ストレッチ」でもある「ラジオ体操」のどこが現在の人気を呼んでいるのでしょうか。その理由のいつくかを挙げてみましょう。

 

まず、運動としての効果そのものよりも分かりやすい理由がいくつかあります。

 

一つは、「ストレッチ」(静的ストレッチ)や「ヨガ」、「ピラティス」、「リポーズ体操」、「フェルデンクライス」などと比べてエクササイズの動作が分かりやすいという点。子供の頃から慣れ親しんでいる「ラジオ体操」の動作は、特に中高年の方で知らない人はいらっしゃらないでしょう。

 

先生の指導を受けないと身体の動かし方が分からないとか、どこかの教室やスポーツ施設に通わなければならないということは、ありません。もちろん費用もかかりません。これも大きな要素でしょうか。毎日、決まった時間にラジオの前に居ればいいだけですから。

 

次に効果ですが、どれも簡単な分かりやすい動きで構成された「ラジオ体操」ですが、一通りこの運動を行うだけで、400以上の筋肉が刺激を受け活性化されるといいます。毎日ラジオの前で決まった時間に行うということも、生活のリズムを作ってくれます。筋力が刺激を受けて高まり、柔軟性も保てますし、血流が良くなって代謝も高まるといった生活習慣病を気にしなければいけない中高年にとって、とても良い効果を生むのです。

 

イラスト運動強度としても、ある程度のスピードで歩くウォーキングと同程度。体脂肪を燃焼させ、免疫力を高めて病気になりにくい体質にしてくれるちょうど良い強度ということになります。

 

さらに「ラジオ体操」は、姿勢を良くするという動きが多いのも大人向けと言えます。筋力や柔軟性の低下、あまり歩かない生活などは、背骨のゆがみや悪い姿勢を生む原因となりますが、良い姿勢をサポートする軽い運動はとても効果的です。

 

また一般的に「ラジオ体操」というと第一を指しますが、これは「子供からお年寄りの一般の人が行うことを目的」とし、第二は筋力の強化をポイントとした動きで、第一と比べて運動量も多くなっています。相当な運動効果があるということになりますので、通院やリハビリ中の方は、運動の可否を医師に相談してください。

 

ぎっくり腰にはご用心(2013年7月)

 

     
 
7月のテーマ:
ぎっくり腰にはご用心

 「ぎっくり腰」を西洋では「魔女の一撃」とも言います。なるほどとうなずかれた方も多いのではないでしょうか。それほど突然、激痛に襲われるのが「ぎっくり腰」です。経験者は、重い物を持ち上げる際には気をつけているはずなのに、腰の入らない姿勢で何かを持ち上げてしまい、また「ぎっくり腰」を経験してしまう……そうした人も多いことでしょう。

今回は、このなんとも理不尽な症状について、その原因と対策法、治療法などをご紹介しましょう。

 
     

 

ぎっくり腰の原因
 

 ぎっくり腰は、「魔女の一撃」と言われるように、急激に起こる腰痛の総称ということになります。一番多いのは腰椎のねん挫で、筋肉や筋膜の一部が切れて背骨の両脇に強烈な痛みが出ます。詳しく言うと、骨盤にある筋肉や筋膜、靭帯や軟骨が損傷して起こるもので、特に多いのが骨盤の仙骨と腸骨からなる仙腸関節に付着している軟部組織の損傷ということになります。

この軟部組織の損傷は、骨盤を支えている筋肉が弱くなり、仙腸関節の身体を支持する能力が低下したことによって生じると考えられています。骨盤を支えている筋肉が弱くなる原因は、腹直筋などの上から支えている筋肉と大腿四頭筋など下から支えている筋肉、そして前後左右から支えている筋肉が、疲労の蓄積やストレスなどで徐々に弱っているところに、急激な動きなどでダメージを受け軟部組織が傷つくのです。

また、栄養分の不足も原因の一つとなります。関節の中のビタミンCが不足すると関節の支持能力が落ちて関節がズレ、ぎっくり腰になると考えられます。特に寒い時期には、身体が寒さに対抗するために副腎からホルモンが分泌されます。このホルモンの生成にビタミンCが必要となり、食生活などでビタミンの摂取が少ない人は、身体の中の組織や細胞中にあるビタミンCが使われ、関節の中のビタミンCが不足してしまうのです。

   
ぎっくり腰の対処法
 

 ぎっくり腰になる人というと、引っ越しや力仕事を日常的に行っている人というイメージですが、意外なことにデスクワーカ-や車好きに多いというデータがあります。悪い姿勢で長時間椅子に座り続けるというのは、腰に悪影響を及ぼしますので、定期的に血液の循環を促すような軽い運動をお勧めします。

また、最近急に体重が増えたという人は、増えた分の体重の負担が腰にも来ているということを認識しなければなりません。体重が増加した後にぎっくり腰を起こしたという人は、また同じ症状を起こす前に体重を減らすことが、一番の予防になります。

一人暮らしでぎっくり腰になると、事は重大です。重傷の場合、全く動けなくなることもあるので、まずメールや電話などの通信手段を確保しましょう。同居している家族などがいない場合は、友人などに症状を話しておくと良いでしょう。

また、次のようなケースでは、内臓疾患も疑われますので、緊急性があると感じた場合は、救急車を手配します。それ以外は、動けるようになったら一度病院の診察を受けてください。

  1. どんどん痛みが強くなってきており、絶え間なく痛む
  2. 熱が出て、冷や汗がでる
  3. 排尿や排便に異常がある
  4. 足にしびれがある
  5. 横になっても、痛みの和らぐポジションが見つからない
  6. 動きと痛みが無関係である
  7. お腹を強く打つなどの大きなケガを最近した

 ぎっくり腰になって最初にすべきことは、アイシングと痛みの少ない姿勢で横になって安静を保つことです。痛みの少ない姿勢は、横向きで膝を抱えるようにします。

ぎっくり腰も手や足のねん挫と同じように障害が起きた当初は、幹部が炎症を起こし症状が悪化していきますので、アイシングが有効です。アイシングは、ビニールの袋に氷を入れて一度水を入れてから、水を捨てます。これで少し温度が上がり凍傷を起こしにくくなります。それでも凍傷予防のためには、一度に20分以上連続で幹部にのアイシングをしないでください。

痛みの起きた直後から、幹部が熱を持っていると感じる2?3日は、断続的にアイシングをします。また、安静にしなくてはなりませんが、食事やトイレなどは、動ける範囲でなるべく動くようにしましょう。完全な安静状態よりも回復が速くなります。お風呂も数日の間はシャワーだけにし、湯船で身体をあたためることは避けましょう。

   
どうしても数日の安静ができない人は
 

 ぎっくり腰は、数日の安静が何より大切ですが、どうしても仕事などで休むことができない場合、神経ブロック注射という治療手段があります。

これはペインクリニック科や麻酔科の外来通院で行われます。消毒後に皮膚の痛み止めの注射をした後、やや太めの針でブロック注射を行います。効果としては、痛む場所の近くの神経をブロックすることで痛みの悪循環を断ち切り、ぎっくり腰の痛みを早期に取り去ることが可能になります。痛みの悪循環とは、患部が痛みにより血流が悪化し、筋肉を固くしさらに痛みを増幅するという状況で、この循環を麻酔でブロックするのです。

その結果、血管の拡張を促し血流を改善し患部に溜まった乳酸、インターロイキンを排出し、痛みを取るとともに酸素や患部を修復するタンパク質を運び込み治癒力を高めてくれます。以前、オリンピック本番直前に腰を痛めた選手が、この神経ブロック注射をしたという報道がありました。安静にしていられない、象徴的な例ですね。この注射自体の痛みが怖いかもしれませんが、ぎっくり腰の痛みそのものが、注射の痛みを和らげてしまうと言います。

熟練の麻酔科医師が行う場合、副作用もそれほど心配ありません。まず、医療機関に相談してください。

   
ぎっくり腰の予防はストレッチで
 

 腰の筋肉に疲れがたまったまま眠ってしまうと、起床時やその直後にぎっくり腰を起こすリスクが高まります。1日の筋肉疲労を緩和させるためにも、寝る前のストレッチが有効です。入浴後や就寝前のストレッチ(ひざストレッチ・両ひざストレッチなど)を習慣にしておくと、予防に効果的です。

ぎっくり腰は経験者でないと、そのつらさはわかりにくいものです。ねん挫や脱臼などは同情されるのに、なぜかぎっくり腰になったというと笑いを誘うことが多いように感じます。なってからでは遅いので、普段からストレッチやビタミンCの補給など、予防にも努めておきましょう。

   
   

 

高齢者以外も気をつけたい「骨粗しょう症」(2012年12月)

 

     
 
12月のテーマ:
高齢者以外も気をつけたい「骨粗しょう症」

 「骨粗しょう症」と聞くと、老人の病気だと思う人が多いかもしれません。しかし、普段から日常的に運動をしている働き盛りの人でも、ある一定の条件下では、「骨粗しょう症」を発生する可能性があります。

今年50歳になるAさんは、学生時代は登山に夢中になり、30代では自転車競技、40代ではマスターズ水泳大会に出場するほど水泳にのめり込むスポーツ愛好家で、健康には自信満々でした。ところがある日、路地から急に出てきた車をよけようとして身体を捻ったときに、股関節に痛みを感じ、その後あまりの痛みに耐えかねて整形外科で診断してもらうと、大腿骨の最も太い骨が亀裂骨折を起こしていたのです。

医者によると高齢者が「骨粗しょう症」が原因で起こす大腿骨頸部の骨折と同様だとのこと。Aさんは日頃運動もして健康なはずの自分が高齢者と同じ症状だと言われて驚いてしまいました。なぜこんなことが起きるのでしょう。

今回は、他人事ではない「骨粗しょう症」について、その発生原因と予防法について紹介します。

 
     

 

「骨粗しょう症」とは
   骨は、カルシウムやコラーゲンなどの繊維によって構成されていますが、この構成比は変わらなくても絶対量が不足し、骨の微細構造が劣化した状態を「骨粗しょう症」といいます。初期の症状は、背骨や腰の痛みを感じる程度ですが、進行すると骨がつぶれてきて背中や腰が丸くなってきます。

骨密度の基準値は、骨密度がピークを迎える20歳から44歳までの間の平均値を取り、その基準値から80%以下を「骨減少域」、70%以下を「骨粗しょう症」と判断します。男女ともに生理現象として、自然に骨量は減少してきますが、女性は閉経を境に減少量が増加し、60歳代で約3割、80歳代では約6割の人が発症すると言われています。

一般的に「骨粗しょう症」の原因、または危険因子とされるものは、加齢、性別、早期の閉経、やせた体格、薬物による影響、運動不足、カルシウム摂取不足、ビタミンDの摂取不足、喫煙、アルコールの過剰摂取、偏食等があげられます。

しかし、Aさんの場合は、多少アルコール摂取量が多いという程度でこうした例にはあてはまりませんでした。もう少し、要因について掘り下げてみましょう。

   
代謝による骨量の低下
   様々な栄養素は、身体の中に取り込まれ、必要な箇所で利用された後、不要となったものは排泄されるという「代謝」が行われます。カルシウムも同様で、身体に取り込まれ硬い骨としての役割を果たし、また身体の外に排出されることを「カルシウム代謝」といいます。このカルシウム代謝が激しいスポーツやある種の薬物により過剰に促進されることがあります。良く知られる薬剤でステロイドというホルモン剤もこれにあたります。ステロイドは抗炎症剤として効果的な薬ですが、その利用には注意が必要で、常用すると1年程で骨量が著しく減少するとされています。どうしてもステロイドを使わなければならない場合、カルシウムとビタミンDを補給して副作用を押さえる必要があります。

また、骨折してギプスで固定すると1日に1~2%の筋力低下とともに骨量の低下も起こります。宇宙飛行士が無重力の環境で、1日あたり200mgのカルシウムが骨から失われるというのも骨に刺激を与えないという同様の要因からと考えられます。初期の宇宙飛行士は、このため地球に帰還すると筋力と骨量の低下でまず立って歩けないという状況になっていました。骨に刺激のない無重力の環境では、身体が骨のカルシウムを不要なものとして、代謝してしまったわけです。

逆に、骨に加重による力が加わるとその骨はストレスで変形します。変形の割合が一定の範囲を超えたとき、骨はそのストレスに負けまいとして骨量を増やします。骨の量が増えてそのストレスによる変形の割合が一定範囲内に収まるまで、骨は強くなり続けるという性質があるのです。
 これにあてはめると、Aさんは、あまり骨に体重や重力での刺激のない水泳を、それも激しいトレーニングメニューで何年も続けた結果、代謝により骨量を減らしてしまったということも考えられます。日常、歩く距離より泳ぐ距離の方が長いというオリンピック選手のような生活は、一方で骨量の低下に気をつけなければならないかもしれません。骨量を保つためには、水泳だけでなくウォーキングや軽いジョギングで骨に刺激を与える運動の併用が必要だということになります。同時にカルシウムだけでなく、タンパク質やビタミンDなどを含んだ食べ物を積極的に摂るようにすることが大切です。

   
転んで骨を折らないために
   高齢者の約3割が年間に1回以上転倒を経験するというデータがあります。その数%が骨折を起こしていると考えられ、その2割以上が、大腿骨頸部骨折だとされます。

Aさんは、幸い50歳という比較的若い年齢だったため、1ヶ月安静にし、食事と投薬で骨は元通りに回復しましたが、高齢者の場合、治療に時間がかかる場合もあり、そのまま寝たきりになってしまうケースも少なくありません。

「骨粗しょう症」の予防のためには、骨量を増やす目的ばかりでなく、できるだけ転倒しないような身体作りも大切になってきます。転倒は、バランスを崩したときに起こりますので、バランスを保つための反射神経に連動する筋力をつけましょう。

   
正しいスクワット
   どこでも簡単にできるスクワットで、身体の重量を十分に支えることができる筋力を養います。

肩幅より少し広く足を開き、足先を外側に開いて立ちます。手を腰か太ももに置いて、息を吸いながらお尻を突き出すようにして太ももが床と平行になるようにしゃがみます。大切なのはこのとき背筋を伸ばしておこなうこと。息を吐きながらゆっくりと立ち上がり、膝が伸びきらないところで止まって、またしゃがみます。

膝を伸ばしきると膝の負担が大きくなるのと筋肉に対するトレーニング効果が少なくなるので、必ず膝を伸ばしきらずに続けてゆっくりしゃがみます。これを無理のない回数行い、毎日継続するようにしましょう。

 

冬場に増える腰の痛みは、正しい「姿勢」で予防しよう(2009年11月)

 

     
 
11月のテーマ:
冬場に増える腰の痛みは、正しい「姿勢」で予防しよう
 寒さが厳しい季節になってきました。身体が冷えると、血行が悪くなり筋肉が収縮してしまうため、関節などの痛みが出やすくなります。日本人の多くが抱える腰の痛みにも寒さや冷えは大敵。筋肉が収縮して固くなっている状態で急激な負荷が加わるといわゆるぎっくり腰になりやすいので、冬場は特に注意が必要です。ぎっくり腰に限らず、腰痛は脊柱(せきちゅう)のS字カーブが崩れることで生じます。脊柱を支える腹筋や背筋をしっかり鍛えると共に、普段の生活から「姿勢」を正しく保つことが大切です。
 
     

 

腰痛の原因と症状
   ひと口に「腰痛」と言ってもさまざまな症状があり、その種類には以下のようなものがあります。

椎間板(ついかんばん)ヘルニア

年齢による骨や筋肉の変化、スポーツなどによる負荷がきっかけで、椎間板の中身がとびだして神経根(しんけいこん)や脊髄(せきずい)を圧迫し、腰の痛みや足のしびれを引き起こします。手術が必要なこともありますが、軽度の場合は姿勢や動作に気をつければ自然に治ることもあります。

 
ぎっくり腰

中腰で重いものを持ったりしたときなど、急に腰が痛くなり動けなくなった状態を、一般的に「ぎっくり腰」といいます。また、軽い腰痛や、原因がはっきりしない腰痛などを総称して、いわゆる「腰痛症」といいます。

 
腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)

比較的高齢者に多い疾患で、脊柱管内が狭くなり、神経を刺激して起こります。初期は腰から足に痛みやしびれが発生して歩きづらくなるものの少し休むとまた歩けるという間歇跛行(かんけつはこう)という症状が出て、しだいに一度に歩ける距離も短くなってきます。

 
筋・筋膜性腰痛

スポーツの後や長時間同じ姿勢でいたときなどに、腰背筋に負担がかかることで起こる症状です。

 
腰椎分離(ようついぶんり)・すべり症

激しいスポーツなどで腰椎の一部の骨が断裂したものが腰椎分離症で、分離した腰椎が前方にズレたものが腰椎すべり症です。

 
変形性腰椎症(へんけいせいようついしょう)

椎間板内の水分が減少することでクッションの役割が低下し、椎体が刺激を受けて骨棘(とげ状の骨)が出てきます。これが神経を刺激し痛みやしびれを引き起こすケースです。40代半ば以上の人に多くみられる症状です。

 
骨粗しょう症(こつそしょうしょう)

骨の密度が減少し、もろくなって起こる「骨粗しょう症」によって腰が痛むケースで、ある程度以上の負担がかかると圧迫骨折を起こすこともあります。高齢の女性に多くみられます。

 
ぎっくり腰や腰痛を予防するには
 
 腰痛には、姿勢や生活習慣、運動やケガなどによる骨の変形や筋肉疲労、内臓疾患、精神的なものなどさまざまな要因があり、専門医の治療が必要な場合もありますが、骨や筋肉などの整形外科的要因から生ずる腰痛は、以下のように普段の姿勢や動作に注意すれば予防・もしくは症状を緩和できます。
物を持ち上げるときは前かがみで持ち上げず、しゃがんで腰を伸ばし、下半身の力を使って持ち上げる。
高い所から物をとるときは、背伸びせずに踏み台を使う。
長時間立ち仕事をする場合は、片足を台にのせ、前屈姿勢になるのを防いで腰への負担を減らす。
長時間運転する際は、シートを立て、腰をまっすぐな姿勢に保つ。また、1時間ごとに車外で軽い運動をするのも効果的です。
長時間デスクワークをする際は、足を組み、時どき左右の足を交互に組みかえるようにして腰が前に傾くのを防ぐ。
高いヒールの靴は腰を前に傾けてしまい悪影響があるため、ヒール高は3cm以内に。
きつい下着を着けていると血行が悪くなるため、身体に跡の残るようなサイズのものは使用しない。
ベッドや布団は柔らかすぎると腰とお尻が沈み、また、硬すぎると腰椎の前彎がなくなり腰に負担がかかるため、脊柱のS字カーブが維持される硬さのものを使用する。
   
腰痛になったときは
 
 腰に痛みを感じたら、マッサージなどを行うよりもまずは休ませましょう。軽度の腰痛なら、腰を支える腰サポーターの使用も有効です。また、痛みがひどい場合は自己判断せず、速やかに医師の診察を受けるようにしましょう。

腰を休ませるには、腰に負担のかかる姿勢や動きを避けることが大切です。

腰をくの字にして、横向きに寝る
お腹の下に座布団を入れてうつぶせに寝る
足の下に座布団を入れてあおむけに寝る

などの姿勢で安静にしましょう。

ぎっくり腰など急に生じた腰痛は、冷やすことで痛みを和らげることができますが、痛みが増すような場合は中止してください。また、長時間の冷やし過ぎは回復を遅らせるおそれがあるので注意が必要です。

   腰痛はそれだけでも辛いものですが、深刻な病気を示唆する危険信号の場合もあります。長期間痛みが続く、腰だけでなく足にも痺れが出る、排泄が困難になるなどの症状が出た場合は、早めに医師の診断を受けるようにしてください。

 

 

あなたの骨は健康ですか? 《骨粗鬆症を予防しましょう》(2008年3月)

 

あなたの骨は健康ですか?

《骨粗鬆症を予防しましょう》

 
 
 

骨粗鬆症とは骨の量が減り、スカスカにもろくなった状態です。骨粗鬆症になると、転倒など些細なことが原因で骨折してしまいます。

 
     
 
1 カルシウムとは?  
 

  カルシウムは骨や歯などをつくっている栄養素です。体重の1~2%の重さで体内に存在しています。

 
     

2 カルシウムの働きは?

 
 

  体内のカルシウムの99%は骨と歯に、残りの1%は血液や細胞などに存在し、体の機能を正常に保つために重要な働きをしています。

 
     

3 カルシウムが不足すると?

 
 

  食事からのカルシウムの摂取が不十分で、血液中のカルシウムが不足すると、骨に蓄えられたカルシウムから補給されます。このような状態が続くと、骨の形成がスムーズに行かず、骨がもろくなってしまします。骨は、体の他の部分と同じように、少しずつ形成と破壊を繰り返し、絶えずつくり替えらています。食べたカルシウムは、小腸から吸収されて血中に入り、すぐに使う分だけ残して残りは骨に蓄えられます(骨の形成)。一方、血中には常に同じだけのカルシウムが必要なので、血中のカルシウムが不足するとき、骨は自らを壊して補います(骨の破壊)。骨は不足に備えて銀行のようにカルシウムを貯金しています。

 
     

4 なぜ骨量は低下するのか?

 

 
体内の成長が終わる20歳頃まで増加し続け、40歳を過ぎると低下していきます。若いうちから骨量を保つ生活習慣を身につけておくことが大切です。

   

5 多く含まれている食品は?

 

 ・ 乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルトなど)

・ 大豆製品(豆腐、納豆など)

・ 魚介類(桜エビ、ししゃも、わかさぎなど)

・ 野菜類(小松菜、水菜、モロヘイヤなど)

・ 海草類(昆布、ひじきなど)

・ 種実類(ごまなど)

   

以下のようなことに心がけましょう。

   
1 食事を減らすダイエットは避ける
 

 
骨粗鬆症予防で最も大事なことは、成長期に出来るだけ骨量を増やして、最大骨量を上げておくことです。最大骨量が高ければ高いほど、加齢ととも骨量の減少が続いても、骨粗鬆症へ至る危険は少なくなります。特に若い時期から栄養バランスの良い食事と適度な運動を身につけておきましょう。

   
2 カルシウムをしっかり摂る
 

 
カルシウムが含まれる食品の中でも、牛乳は比較的吸収率が高く、たんぱく質やビタミンA、B2といった、カルシウムの効果を高める栄養素と同時にとることが出来ます。また、小魚や海草、緑の野菜や大豆製品にも多く含まれていますので、色々な食品からとるようにしましょう。

   
3 適度な運動を毎日続ける
 

 体を動かして、骨に圧力をかけることでカルシウムは骨に沈着します。高齢者でも、運動習慣のある人は、ない人に比べて骨量が多いことがわかっています。また、運動で筋力やバランス感覚を養うことは、骨折の原因となる転倒を防ぐことにもつながります。年齢に応じた、適度な運動を毎日続けようにしましょう。

   
4 たばこはやめる!アルコールは控えめに!
 

 ニコチンや過度のアルコールは、カルシウムの吸収に悪影響を与えます。

   
規則正しい生活習慣と食習慣でカルシウムをコツコツ貯めて、健康な骨を保ちましょう!!  
 
 
 
 
 
 
 

 

 

体の芯・骨を丈夫にして骨粗しょう症を予防しよう(2006年12月)

 

     
 
12月のテーマ:
体の芯・骨を丈夫にして骨粗しょう症を予防しよう。
 いよいよ2006年も最後の月。「師走」と呼ばれる通り、何かと忙しい時期ですが、1年の最終チェックに体の芯・骨の健康を考えてみましょう。骨が弱くなると心配されるのが、「骨粗しょう症」という病気です。この機会に、食事をはじめとする生活習慣を見直して、骨を元気に丈夫に保ちましょう。
 
     

 

骨粗しょう症ってどんな病気?
 

 「骨粗しょう症」とは、骨を構成するカルシウム不足が原因で骨の密度が減り、骨がスカスカになって骨折しやすくなる病気です。現在日本では約5,000万人もの患者がいると言われ、高齢の女性に特に多い病気でもあります。

本来骨は硬くて丈夫なものですが、髪の毛や皮膚と同じように新陳代謝を繰り返しています。古くなりもろくなった骨の一部を壊して(骨吸収)、新しい骨に作り替えるはたらき(骨形成)を「骨のリモデリング」と呼び、これは成長期を過ぎたあとも一定のサイクルで続きますが、加齢や運動不足などの生活習慣が原因でこのバランスが崩れると骨粗しょう症の原因となります。

 
なぜ骨が弱くなるの?
 

 骨の主成分となるミネラルで、体内に含まれるカルシウムのうち、99%が骨に含まれています。残りの1%は血液などに含まれ、わずか1%と言えども体や細胞の機能と深い関わりのある大切な役割を担っているため、血中のカルシウム濃度が不足すると、骨からカルシウムを引き出していくしくみになっています。つまり、カルシウム不足の状態が続くと、骨からどんどんカルシウムが溶け出してしまうのです。

 
骨粗しょう症になりやすい人はどんな人?
 
骨粗しょう症になる原因には様々なものがありますが、以下に主なものを挙げます。
○生活習慣に関わるもの

・ カルシウム不足の人

 偏食で栄養バランスの偏っている人や乳製品を摂らない人など、カルシウム不足は大きな原因のひとつです。

・ 体を動かすことの少ない人

 適度な運動は骨に刺激をあたえ、骨を丈夫にします。運動しないと骨は次第に弱くなってしまいます。

・ 日光に当たらない人

 カルシウムの吸収に欠かせないビタミンDは、日光に当たることで皮下に合成されます。日光に当たらない生活を続けていると、カルシウムを摂取していても体内に充分吸収されません。

・ 喫煙習慣のある人

 煙草に含まれるニコチンは、腸からのカルシウムの吸収を阻害し、カルシウムを尿内に排出してしまいます。

・ 極端なダイエットをしている(していた)人

 無理な食事制限など、栄養不足の状態になるダイエットは、同時にカルシウム不足の原因にもなり、骨量の減少を引き起こします。

○体質・年齢に関わるもの

・加齢によるもの

 年をとると、性ホルモンの産出が低下するほか、骨芽細胞(骨をつくる細胞)の働きが弱くなります。高齢者は食事の量が減る傾向もあるため、カルシウムの吸収量も低下します。

・閉経した人

 閉経によって女性ホルモンが急激に減少すると、破骨細胞(骨を壊す細胞)の働きに骨芽細胞の働きが追いつかなくなり、骨が弱くなっていきます。

・骨粗しょう症と診断された家族がいる人

 骨粗しょう症は遺伝するものではありませんが、骨量の減少傾向が同じであったり、乳製品の好き嫌いなど食生活が似ている場合が多く、注意が必要です。
 
  骨粗しょう症の予防法は?
 

 丈夫な骨を保つには、普段の食事と生活スタイルに注意することが大切です。
○食事編

まずは十分な量のカルシウムを摂ること。日本人のカルシウムの1日の所要量は600mgとされています。乳製品や小魚類、大豆食品など、カルシウムを多く含んでいる食品を積極的に取り入れましょう。

カルシウムの吸収に必要なビタミンDなど他の栄養素にも気を配らなくてはいけません。良質のたんぱく質を含む食品など、バランスの良い食生活を心がけましょう。また、スナック菓子やインスタント食品などに含まれるリンは、体に必要な栄養素のひとつですが、摂りすぎるとカルシウムの吸収を妨げてしまうので気をつけましょう。

 ○生活編

適度な運動は、骨を丈夫に保つのに大切な役割を果たします。過激な運動をする必要はなく、ウォーキングなどの軽い運動を毎日続けることがポイントです。元々骨が弱くなっている恐れの高い高齢者の方は、転んで骨折したりする事もありますので、無理な運動は避けてあくまで軽い運動から始めましょう。

また、喫煙やアルコール・コーヒーなど嗜好品の摂取は骨量の減少につながります。喫煙や過度の飲酒にも気をつけましょう。

 
 女性の骨量は、概ね50歳を過ぎると急激に低下するものです。市町村などで行われている骨診断を受けるなどして、まずは自分の骨量を知っておきましょう。閉経後は年1回のペースで骨量を測定し、減少の経過を観察すると良いようです。一方男性は、70歳くらいまでは骨量測定の必要はないと言われていますが、病歴などによっても骨量に差が出てくるので油断は禁物です。

カルシウムをたくさん含んだバランスのよい食事、日中の運動など健康的な生活は骨にも健康を与えます。来年からと言わず、今から骨のために生活改善してみませんか?