画像

まめ知識カテゴリ: 心の病気

日照時間の短い季節は、季節性うつ(季節性情動障害)に要注意!(2021年11月)

次第に日が落ちるのが早くなり、秋の深まりや冬の訪れを感じる季節になりました。日照時間は、12月の冬至が1年でもっとも短いとされています。もっとも長い6月の夏至と比べると、日の出から日の入りまで約5時間も差があるのです。

そんな日照時間の短い季節になると、憂鬱な気分になったり気分の落ち込みを感じたりすることはありませんか? 今回は、日照時間の短い季節に気をつけたい、季節性うつ病(季節性情動障害)についてご紹介します。

 

 

◆季節性うつ病とは?

季節性うつ病とは、季節性情動障害(SAD)と呼ばれることもある病気で、毎年決まった時期に症状が現れるという特徴があります。日照時間と深いかかわりがあるといわれており、緯度の高い地域ほど多く見られる病気です。日照時間の短くなる秋口から症状が現れ始め、日の長くなる春先になると自然に回復します。このような特徴から「冬季うつ病」と呼ばれることもありますが、雨で日照時間が短くなる梅雨時に発症する場合もあるようです。おもな症状は、気分の落ち込み・体のだるさ・無気力・過眠・過食などが挙げられます。

 

◆季節性うつ病の原因とは?

季節性うつ病には、日照時間が深く関係していると考えられています。人間は日光に当たると、セロトニンという脳の神経伝達物質が合成されます。セロトニンは別名「幸せホルモン」と呼ばれており、集中力が増して気持ちが明るくなるなど、精神面に好影響を与えるホルモンです。一方、セロトニンが不足すると、気分の落ち込みや疲労感、意欲低下など、うつ症状が発現するといわれています。

 

また、日光浴を浴びると、体内でビタミンDも作られます。ビタミンDは、カルシウムの吸収を促進したり免疫機能を調整・維持したり、多彩な働きを担う栄養素です。ビタミンDの欠乏もまた、季節性うつ病と関連しているといわれています。

 

◆季節性うつ病の予防法

日照時間の少なくなる冬場は、意識的に季節性うつ病の予防に努めましょう。暖かい部屋に閉じこもりがちな冬場だからこそ、気をつけたいポイントをご紹介します。

 

・日光を浴びる

季節性うつ病は、日照時間と深いかかわりのある病気です。セロトニン不足、ビタミンD不足を防ぐためにも、意識的に日光を浴びるようにしましょう。屋内で働いている方や外に出る機会の少ない方は、可能な限り窓辺で過ごし、日光に当たるようにするだけでも良い影響が期待できます。

 

・バランスの良い食事を心がける

冬場は、年末に向けて仕事が忙しくなったり飲み会が増えたり、食生活が乱れる可能性が高い時期といえます。肉や魚などのたんぱく質やビタミン、ミネラルを意識的に摂り、栄養バランスのいい食事を心がけましょう。バランスのいい食生活は、セロトニンの生成を促します。また、ビタミンDは、食事から摂取することも可能です。魚、卵、キノコ類に多く、しらす、アンコウの肝、干しシイタケに多く含まれています。意識的に食事に取り入れてみてください。

 

・適度な運動

適度な運動は、気持ちが前向きになったりストレス解消になったりする効果が期待できます。外に出る機会の少ない方は、できるだけ運動を習慣化してみましょう。特に、太陽の光を浴びながらできる、ウォーキングなどの運動がおすすめです。

 

 

日照時間が短くなる冬場こそ気をつけたい、季節性うつ病についてご紹介しました。日光浴は、セロトニンを分泌させ、ビタミンDを生成するなど、季節性うつ病を予防する効果が期待できます。冬場の日照時間を変えることはできませんが、晴れた日は意識的に日光浴を取り入れてみてください。冬になると気分の落ち込みや集中力の低下を感じるという方は、無理はせず、心療内科や精神科に相談しましょう。

新年度のスタートで健康をそこなわないためのコツ(2014年4月)

 

イラスト4月は、進学や就職、転勤など、新生活に適応するために何かとストレスの多い時期。何事にでも意欲的に取り組むのは素晴らしいことです。しかし、頑張り過ぎてしまうという人もいるでしょう。新しい環境にすんなり適応できる人はよいのですが、物事はなかなか上手く行かない場合も多いものです。俗にいう五月病に取りつかれてしまい、何やら疲れを感じてやる気を失ったりする人もいるのではないでしょうか。

今回は、新年度のスタートで健康をそこなわないためのコツを紹介したいと思います。

 

頑張りすぎないことが大切

異なった環境に適応することが得意な人と、苦手な人がいると思いますが、これは仕方のないことです。新しい環境が仕事場である場合は、頑張らざるを得ないと考えるのは当然かもしれません。しかし、新しい環境に自分を合わせるのが苦手な人は、無理は禁物です。ストレスレベルが許容範囲を超えてしまうと、様々な症状や病気を引き起こすことがあります。

 

その一つが副腎疲労です。朝起きられない程の疲労を感じ、出勤することさえできなくなってしまうことがあります。実は副腎はコルチゾールというストレスに対処するためのホルモンを分泌している大切な臓器なのですが、睡眠不足に加えて糖分やカフェインの摂り過ぎや、感染症などの要因が長く続くとそのストレスに耐えられる限度を超えて副腎疲労を引き起こしてしまいます。

 

最初は自覚症状のないままストレスに対処するコルチゾールの分泌量が増え、そのまま対処のピークに達してもストレスが減らないと副腎が機能低下を起こし、分泌するコルチゾールの量も減って行きます。するとコルチゾールによる身体の修復と調整が間に合わなくなって、様々な身体の不調を感じるようになります。女性の場合は、月経が止まることもあります。

 

イラスト疲れた身体をコーヒーで無理に覚醒させる習慣のある人は要注意。また疲れた時にカフェイン含有量の多いチョコレートを食べると、このカフェインが副腎を刺激してコルチゾールの分泌を促すため、自分を鞭打つ習慣がついてしまいます。結果的にはそれが副腎を疲労させてしまうのです。

 

もし、疲れきって動けないという状況の場合は、医師による診察が必要になります。そうなるまえに、無理は控えて毎日の生活で、食生活を改善し睡眠時間をたっぷりとるなどして疲労回復に努めましょう。カフェインの摂取量を徐々に減らして行くことも大切です。

 

新年度は運動習慣を身に付けるチャンス 

イラスト新しいチャレンジとして、少々増えすぎてしまった体脂肪を落とすことも兼ねてスポーツに取組む人もいると思います。適度な汗をかく運動は、様々な健康効果をもたらしてくれますが、実は副腎のストレスも軽減してくれるのです。副腎から分泌されるコルチゾールは体内に蓄積された重金属が酸化して体内で炎症を起こした場合、対処のために使われます。この水銀などの重金属は、皆さんの大好きなマグロなど大型魚を食べるとそこに多く含まれているのですが、副腎を疲労させる原因の一つになってしまうのです。

 

しかし、この重金属は軽い有酸素運動による発汗や入浴で汗とともに体外に排出することができます。適度な運動習慣を身に付けると、結果的にストレスに強い身体を獲得できるというわけです。
汗をかく運動が身体に良いからといって、普段運動習慣の無い人や、新年度に久しぶりに運動を再開しようという人がいきなり激しい運動をしてはいけません。激しい運動は、筋肉の炎症をもたらし、ここでもコルチゾールが大量に動員されることになるからです。何事も無理は禁物です。

 

「心の健康と瞑想」(2014年1月)

     
 
1月のテーマ:
「心の健康と瞑想」

 瞑想と聞くと、皆さんは何を思い浮かべますか。寒いお寺の本堂で座禅を組んだり、しびれをきらした脚の痛みでしょうか。何やら辛いイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実際の深い瞑想状態を体験すると、とても心地良い感覚に包まれ、ストレスからの回復力が劇的に向上すると言われます。

現代人にとってストレスは万病の元という考え方があるくらい、高血圧をもたらし、血管や心臓を痛めつけるなど、過剰なストレスは、身体を損ねる元凶として知られています。このストレスを解消するには、歩いたり、自転車に乗ったり、泳いだりといった有酸素運動が良いとされますが、寒さも厳しくなり 、外にでるのはなかなか大変です。そこで、今回は家の中でもできる効果的なストレス軽減法である瞑想について紹介しましょう。

 
     

 

ネガティブな発想になりやすい脳を瞑想で開放する
 

 有名な元格闘家に、サクセスストーリーと健康で強い精神や身体の作り方について話を聞いたところ、朝、晩と毎日二回瞑想しているということでした。前向きな発想を得たり、創造的な仕事をするときに、瞑想をしていると良い発想が生まれ、仕事も巧くいくと言います。瞑想の何が良いかというと、考えない状態を作り出す事ができる点です。脳の中では一日に何万回も様々なことを考えていますが、その大半がネガティブな内容なのです。特に座ってじっと考え事をした場合、何事にも否定的なシミュレーションが頭を過ります。過去の経験や悪い噂をベースにしたネガティブな予想や分析が、人間の脳は得意なのです。

そうすると、新しい自由な発想が生まれる余地がなくなってしまいます。新しい事を学習しようとしても、古い情報とそれが複雑に絡んだ思考の澱が邪魔をしてしまうのです。その人が本来持っている潜在的な力を発揮しようとしても、このネガティブな思考がその発現を阻害してしまいます。新しく物事を始めるときに「よく考えてからやりなさい」と周辺の人はアドバイスするものですが、新しいことにチャレンジしようとしたとき、先に後ろ向きな思考が浮かんでしまい、結局チャンスを逃してしまうというのは、多くの方が経験する事でしょう。

ストレスを受けた状態というのもこの脳の働きが影響しています。例えば何かが巧くいかなくて叱られたり、大切なものを失った場合、脳は一日に何万回とこの巧くいかなかった状態を繰り返しシミュレーションし、それがストレスを生んでいるのです。瞑想をして、何も考えない脳の状態を作り出す訓練を行うと、少なくとも瞑想をしている間は、このストレスから開放され、また、ストレスに対抗する身体の準備ができるのです。

瞑想を取り入れたとされる成功者は、例えばアップルのスティーブ・ジョブス、マイクロソフトのビルゲイツ、京セラの稲森和夫氏など数多く知られています。スポーツマンでも、NBAで大活躍したマイケル・ジョーダン、日本人では、最近「心を整える。」という本が大ヒットした、日本代表のサッカー選手長谷部誠なども瞑想を取り入れているといいます。

   
簡単に行える瞑想
 
瞑想を誰でも簡単に行なえる方法を紹介しましょう。
 
  1. 座ります。別に固い床に座禅を組む必要はありません。自然にリラックスして楽に座れる状態であれば、椅子に座っても胡座をかいてもかまいません。できれば静かな部屋で、照明も少し落とします。背筋は伸ばしますが、緊張しない程度に。
  2. 眼を軽くとじ、眼から様々な情報が入らないようにします。いつも無意識に行っている呼吸を、意識的に行います。
  3. 鼻から息をゆっくり吸って、鼻から息をゆっくりはきます。
  4. この呼吸を感じ、そこに意識をもっていきます。
  5. この呼吸を20回以上繰り返し、呼吸数を数える事に集中します。
  6. できるだけ考えない状態を作り出します。
  7. 10分から20分程、この状態を続けたら、瞑想を終了して意識が戻ってくるのを待ちます。眼を閉じたままで数回深呼吸をして、両手で身体に触れて瞑想状態を解きます。
  8. 静かに眼を開けます。 
   
生活に瞑想を取り入れて、ストレスを軽減
 

 瞑想をサポートする小物類もあります。アロマオイルで、心のリラックスを手助けしてくれるものがあり、アロマに抵抗が無い人にはお勧めです。座る姿勢を楽にする瞑想用のクッションもありますし、瞑想用のCDとして制作されたものも沢山あります。チベットの高僧が奏でる浄化音を聞く事ができるCDなどです。こうした小物で楽しく演出して、生活の中に瞑想を巧く取り入れることで、ストレスを軽減してはいかがでしょう。

   

 

「地震酔い」 その予防と対処法!(2011年4月)

 

     
 
4月のテーマ:
「地震酔い」 その予防と対処法!

未曾有の大震災発生から半月以上が経過しました。被災者の皆さまには、心よりお見舞い申し上げます。

避難所での生活を余儀なくされている方はもちろん、その他の地域の方も、余震や原発事故への不安、停電や断水、そして様々な品不足など、普段通りの暮らしができない環境に身を置く方が多いのではないでしょうか。しかし、こんな時だからこそ、体調管理にはいつも以上に気を付けたいものです。今回は、被災者の後遺症ともいえる“地震酔い”についてお話しします。

 
     

 

地震酔いとは
 

地震酔いとは 東北地方太平洋地震の発生以降、「実際には地震が起きていないのに揺れているような感じがする」「目まいや吐き気がする」といった症状を訴える人が増えているそうです。大地震を経験した恐怖や、悲惨な光景をテレビや新聞で見たショックなどがトラウマになっているせいとも考えられますが、それ以上に、頻発する余震の影響で「地震酔い」をしている可能性が高いと思われます。
地震酔いは「後揺れ症候群」と呼ばれるもので、車酔いや船酔いなどのいわゆる「乗り物酔い」と同じようなものです。

車酔いや船酔いは視覚情報と平衡感覚とのズレが原因で起こりますが、地震酔いも原理は同じで、地震によって身体が揺れることで三半規管で感じる平衡感覚がズレて、目まいや吐き気などが起こります。
しかし何故「実際には揺れていないのに揺れているように感じる」のでしょうか。これは、人間の脳が持つ「速度蓄積機構」というシステムのせいで、このシステムが、直前に体験した加速度や回転の情報を蓄えているために地震酔いが起こると考えられます。皆さんも、ボートやつり橋など、常に揺れている環境でしばらく過ごした後、大地の上に立っているのに自分の体が揺れているような感覚を味わったことはないでしょうか?地震酔いもこの感覚と同じような現象ですが、地震は特に、人体に与える刺激が強いため揺れている感覚が残りやすいのです。

地震酔いは周期が長い揺れが何度も続く場合に起きやすいと言われますが、今回の地震は揺れた時間が長く、余震の回数も多いため、症状を訴える人が多いようです。また、「余震がまた来るかも知れない」という不安感やストレスが揺れに対する感覚を敏感にさせ、症状を強めている面もあると考えられています。

   
地震酔いの対処法
   乗り物酔いをした場合、車や船から降りてしばらくすれば自然と治るのと同じように、地震酔いもほとんどの人は時間の経過と共に症状は軽くなっていきます。また、余震が今後も続いたとしても、徐々に揺れに身体が慣れて、地震酔いする人は減ってくると考えられています。

吐き気や目まい、不快感など、どうしても耐えられない場合は乗り物酔いの薬を服用すると楽になる場合もありますが、まずは深呼吸してリラックスするようにしてみましょう。
<地震酔いの予防・対処法>

ゆっくり深呼吸して、リラックスする 深呼吸
 

気分の悪さを感じたら、ゆっくりとした呼吸で気持ちを落ち着けましょう。一度大きくゆっくりと息を吐き出すと、自然と呼吸が整います。その後、緊張や不快感が和らぐまで何度か深呼吸を繰り返してみましょう。

身体をリラックスさせる
 

ネクタイやベルト、身体を締め付ける下着などは避け、身体をリラックスさせるようにしましょう。

水分を摂る
  口の渇きを感じる場合は、水やスポーツドリンクなどを飲みましょう。飲み水が不足しているときも、少し口に含むだけでも効果があるので試してみてください。ハーブティーなど、香りにリラックスやリフレッシュ効果のあるドリンクでも良いでしょう。
しっかりと睡眠をとる
 

睡眠不足も地震酔いの要因になります。不安や寒さなどでなかなか寝付けない場合もあるかと思いますが、睡眠不足は様々な体調不良の原因にもなるので、睡眠の確保を心がけてください。

睡眠
ストレスをためない
 

不自由な暮らしや不安のせいでストレスが溜まりやすくなっていますが、身体だけでなく神経を休めることも大切です。軽い運動をする、温かいお茶を飲む、周囲の人と会話するなど、気持ちを楽にできることを見つけてください。

 
 
皮肉な話ですが、今回の大震災がきっかけで、「命の大切さ」や「生きている喜び」に改めて気づいたという声も多く聞かれます。不安な日々が続いていますが、一日も早い復興のためにも、健康第一で前向きに過ごして行きましょう!

 

 

新しい一年の始まりに、心の健康を考える(2007年1月)

 

     
 
1月のテーマ:
新しい一年の始まりに、心の健康を考える
 みなさん、新年明けましておめでとうございます。健康のこと、生活のこと、仕事や勉強のこと…新しい年の始まりに、一年の目標はたてましたか?お正月休みで緩んだ生活のリズムもそろそろたて直して、今年も元気にスタートしましょう。

さて、ここでは毎回身近な病気などについてお話ししていますが、今回は少し趣向を変え、精神障害のひとつであるPTSD(外傷後ストレス障害)について触れていきます。

 
     

 

PTSD(外傷後ストレス障害)とは?
 

 PTSDとはPost-traumatic Stress Disorderの略称で、戦争や自然災害、事故、家庭内暴力や性的虐待など、自分自身や身近な人の生命や身体に脅威となる外傷的な出来事を経験した後に長く続く心身の病的反応を指します。日本では阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件に関連して大きく取り上げられ、注目されるようになりました。

<主な症状>

PTSDでは、以下の3症状が同時に出現します。

1.再体験

原因となった体験を、意図しないのに繰り返し思い出してしまう(フラッシュバック)ことや、悪夢など。

2.回避

原因となった体験を思い出してしまうような、類似した出来事を意識的もしくは無意識的に避け続ける行動をとること、感情や感覚などの反応性の麻痺など。

3.持続的な覚醒亢進(こうしん)

交感神経の亢進(高ぶる)状態が続き、睡眠障害や神経過敏、集中困難などイライラした状態が続く。

 
PTSDにかかるケース
   PTSDは、心的な外傷を受けた後、上記のような症状が数週間から数ヶ月の間に起こり、数年に渡って続く精神障害です。通常ならば衝撃的な出来事を体験した場合でも、時が経つにつれてそのショックや記憶は薄れていくものですが、受けたショックがあまりにも大きすぎる場合などに発症するとみられています。ただし個人差も大きく、同じような体験をした場合でも発症する人としない人がいるように、個人の性格やストレスへの過敏性など、様々な要因が発症に影響していると研究が進められています。また、幼児期など自我の未発達な段階で受けた大きな心的外傷は特に危険性が大きいと考えられ、早期の対応が必要とされています。

PTSDの重症度には大きな幅があり、比較的軽症のものから重症のものまで、患者によって様々です。大災害や大事故でなくても、家庭や学校、会社内など日常生活をとりまく環境のなかで受けた心的外傷が発端となることもあり、昨年も大きく取り上げられていた「いじめ」問題も重要な要因のひとつと言われています。

 
治療について
   現在のところ、主な治療は薬物療法と心理療法です。睡眠障害や過敏症状などには抗不安薬、抑うつ症状には抗うつ薬などが用いられ、心理療法ではカウンセリングを中心に体験を言葉にする行動療法などが行われています。しかし、多くの患者は、原因となった体験を思い出したくないがために、それについて語るのを避ける傾向があり、周囲からの協力や理解を得にくいという問題点があります。誰かに話して相談できる態勢づくり、また、周囲がその人を心理的に支えていくことが治療の第一歩です。

医療機関では、精神科・心療内科が本症の診療に当たっています。

 
 
 残念ながら事故や事件は後を絶たず、被災者や被害者、その家族の苦しみは続いています。ただし、PTSDはあくまでも回復可能な病気です。原因となった心的外傷を取り除くことはできませんが、その体験が日常生活に大きな障害を起こさなくなることが第一の回復と考えられます。原因となるような事故や事件が起こらないことを願いつつ、今年も一年明るく健康に過ごしましょう!

 

 

胃が痛いのはストレスのせい?(2006年6月)

 

     
 
6月のテーマ:
胃が痛いのはストレスのせい?
 すっかり暖かくなり、半そで一枚で過ごせる陽気になりましたね。でも夜には肌寒い日もしばしば。風邪などに気をつけて過ごしましょう。さて、今回も前回に引き続きストレスが引き起こす心身の不調についてのお話です。今回は大切な消化器官・胃に注目し、胃潰瘍をはじめとするストレス潰瘍についてお話します。
 
     

 

ストレス潰瘍とは?
 

 ストレス潰瘍とは、胃潰瘍(十二指腸潰瘍も含む)の中でも、ストレスの影響が強いもののことで、多発性な上、再発しやすいという特徴をもっています。潰瘍の大きさや深さは様々で、同時にいくつもの潰瘍ができるケースも珍しくありません。

簡単に言うと胃壁や十二指腸がただれて潰瘍ができるという病気ですが、症状で特徴的なのは空腹時におこる腹痛がです。このほか、胸やけやげっぷ、悪心、嘔吐、便秘などがあります。吐血や下血を伴う場合は潰瘍がひどくなっている可能性が高く、早急な治療が必要です。

 
ストレスと潰瘍の関係
 
 近年、潰瘍の原因にヘリコバクター・ピロリという細菌(ピロリ菌)の存在が注目されていますが、ストレスもやはり潰瘍の大きな誘因であると考えられています。

胃潰瘍の原因は、消化器官である胃で分泌される胃液と、その胃液から胃の粘膜を守るはたらきとのバランスがくずれることによると考えられています。精神的なストレスは胃液の分泌を異常に高める一方で、胃壁の防御機能を弱めるため、自分の胃液で胃壁をいじめる結果になり、潰瘍をおこしてしまうのです。

また、慢性的な過労による不眠、倦怠感、肩こり、頭痛など体の不調と同時に、焦燥感、抑うつ感、過敏など精神的な不調を伴うこともあり、胃潰瘍はやはり生活上のストレスと深く関わっていると考えられます。

 
こんな人は、うつの可能性がピロリ菌について
 
 一方、潰瘍はストレスが直接の因子ではなく、ピロリ菌こそが最大の原因であるとの説もあります。これまで、胃には強い酸があるため細菌は存在しないと考えられていましたが、1983年に胃の中から細菌が分離・培養され、その存在が確認されました。ピロリ菌は自らが作り出すアンモニアで胃酸を中和し、胃の中にすむことができる細菌で、様々な毒素を出すため、胃炎や潰瘍を引き起こします。

ピロリ菌の感染源についてはまだ解明中ですが、水や糞便を介して、口から感染するという説が今のところ有力なようです。これは衛生設備の整った先進国では感染の割合が低いことに比べ、発展途上国では多くの人がピロリ菌に感染していることから推測されています。日本では40代以降の人の約半数が保菌者であると言われ、発展途上国と同じくらいの感染率となっています。しかし、30代までの人では、他の先進国と同様低い感染率にとどまっているようです。

ピロリ菌こそが潰瘍の最大の原因であると考える説では、ストレスは潰瘍の誘因にはなりうるものの、ピロリ菌に感染していない人は例え大きなストレスがかかったとしても、潰瘍にはならないと言われます。これまで、潰瘍が再発を繰り返すのは、潰瘍自体は抗潰瘍薬で治すことができるものの、「潰瘍症」という体質までは治せないためだと考えられていました。しかし、ピロリ菌を除菌すれば抗潰瘍薬を服用しなくても、潰瘍は再発しないという研究結果が多く発表され、「潰瘍症」という体質に対して疑問の声もあがっています。

ピロリ菌の感染については血液検査、または内視鏡検査で簡単に分かり、尿や便から調べることもできます。除菌治療で一般的なのは抗生物質と胃酸分泌抑制薬を1週間服用する方法が一般的で、8割以上の人が除菌に成功すると言われています。除菌に成功すれば、以後胃炎や潰瘍の薬を飲み続ける必要がなくなると、その効果が注目されています。

 
一般的な治療
 

●何科に行けばいいか

胃潰瘍が心配な場合、まずは内科、消化器科、胃腸科へ行き、診断を受けましょう。胃X線検査で異常が発見されると、内視鏡検査で確認という手順が一般的で、これらで外科的治療が必要と判断されると、消化器外科へ転送されます。

●内科的治療

内科的治療では、攻撃因子である胃酸をおさえる胃酸分泌抑制剤と、防御因子を強める粘膜保護剤の服用が行われます。医師の指示を守り、処方された薬をきちんと服用すれば、ほとんどの症状が2~3週間で軽快します。ピロリ菌に感染している場合は、先にも述べたように抗生物質を併用して除菌をすると、再発はしないと言われています。しかし、ストレスの影響で潰瘍が治りにくい場合や、再発を繰り返す場合は、心療内科的治療を薦められることがあります。この場合、カウンセリングや自律訓練法を行ってストレスを軽減したり、抗不安剤や抗うつ剤などの薬物療法を行います。

 
 ストレス潰瘍になりやすい人の性格傾向として、几帳面、内向的、こり性、過剰適応(周囲に気を使いすぎる)、感情を表に出さない(自分の中に溜め込む)などが挙げられます。予防のためにも、お酒の飲みすぎや食べすぎ、タバコの吸いすぎに注意し、日頃の体調管理に気を配ることも大切ですが、自分なりのストレス解消法や悩みを話せる相談相手を見つけるなど、ストレスをためないような気配りも必要です。また、消化を助けるために食べ物はよく噛む、胃の調子が悪いときは刺激物(香辛料、アルコール、コーヒーなど)の摂取を控える、喫煙を控えるなど、胃の負担を減らしてあげることも大切。

胃の調子が悪いと、食欲がわかず、体も心も元気がなくなってしまいます。胃腸を大切にし、おいしく食べて、健康に暮らしましょう。

 

 

これって 5 月病? うつにご用心(2006年5月)

 

     
 
5月のテーマ:
これって 5 月病?

うつにご用心

 新しい年度が始まり、学校や職場、引越しなどで環境が変わった人も多いのではないでしょうか?新しい生活が始まってすぐは、新鮮な毎日を送り、疲れや忙しさもあまり気にならないものですが、徐々に慣れてきた 5 月、 6 月頃はストレスが心身の不調としてあらわれやすい時期です。これがいわゆる 5 月病。今回は慢性の 5 月病ともいうべき「うつ」についてのお話です。
 
     

 

うつってどんな病気?
 

 うつ病で特徴的なのは、「憂うつ感」「無気力・無関心」などの心の症状。うつ病とは、気分が落ち込み、これまで楽しんでいたことや好きだったものに興味がなくなり、楽しめなくなる病気なのです。それに加え、「疲れやすい」「眠れない」「頭痛がする」などちょっとした体の不調もうつが原因のことがあります。厚生労働省の報告によると、日本人の15人に1人はうつになる可能性があるといわれており、身近な病気としても注意が必要です。

最近ではテレビや雑誌などでうつが取り上げられるようになり、うつに対しての理解も進んできました。それでもまだ、病院に行かずにひとりで悩んでいたり、うつとは気付かずに落ち込んだ気持ちで日々過ごしている人も多いのが現状です。

「なんとなく気分が晴れない」「憂うつ感を感じる」などの心の症状もありますが、「疲れがとれない」「いつも疲れている気がする」「食欲がない」「眠れない」などの体の不調が前面に出る軽いうつは、本人もうつと気付きにくいものです。うつを正しく理解し、早めの対処ができるようにしましょう。

 
なぜうつになる?
 
  うつにかかるきっかけは人それぞれですが、ストレスが主な原因といわれています。例えば、仕事や受験の失敗、失恋、身近な人の死などのショックな出来事により気分が落ち込みます。普段であれば、これらのショックも時間と共に薄れ、心も回復していくものです。しかし、落ち込んだ気分がなかなか晴れずに大きなストレスを感じ続けた場合、気持ちが切り替えられず、うつ状態になってしまうことがあります。うつ状態をそのままにしておくと、自分のつらい気持ちを理解してもらえない→さらに気分が落ち込んでいくという悪循環に陥り、重度のうつへと進行してしまいます。そうなるまえに、まずは医師に相談しましょう。
 
こんな人は、うつの可能性が?
 
  「疲れやすい」「頭痛が続く」といった体の不調も、うつが原因の場合があります。特に、診察は受けたけど原因が分からない場合などは、注意が必要です。「調子が悪いな」と感じながらも、我慢すれば済んでしまう程度の場合は、本人も周囲の人もそれがうつであると気付きにくいものです。以下のような症状が2週間以上続くような場合は、うつを疑ってみましょう。

●うつの可能性があるこんな症状

・眠れない、または朝早く目が覚めてしまう

・体がだるい、疲れやすい

・何を食べてもおいしくない

・ときどきめまいがする

・息切れがする、息苦しさがある

・胃のもたれ、ムカつきを感じる

・食欲がない、最近急に痩せてきた

・頭痛がする

・微熱が続いている

・肩こりがひどい

・生理不順

・性欲が落ちた

・下痢、便秘など

また、他の病気が原因でうつになることもあります。糖尿病や高血圧症などの生活習慣病には高い頻度でうつが合併するとも言われ、うつによる変化を「病気で気分が落ち込んでいるせい」と見逃されてしまいがちなのも問題のひとつ。病気に関わらず、「おかしいな」と感じたら早めに医師へ相談しましょう。

●うつを伴いやすい体の病気

・糖尿病

・高血圧症

・狭心症

・心筋梗塞

・脳血管障害

・脳腫瘍

・老人性痴呆

・てんかん

・パーキンソン病

・甲状腺機能の亢進症または低下症

・更年期障害

・慢性間接リウマチ

・全身性エリテマトーデスなどの膠原病

・がん

・手術後

・血液透析

・インフルエンザ

・肝炎などのウイルス感染症など

 
医療機関ではこんな対処をしてくれます
 
  うつは脳内の神経伝達物質の活性が低下するために起こると考えられていることから、うつの治療は薬物療法や心理的治療を行います。抗うつ剤を処方された場合は、医師の指示にきちんと従い、自己判断で薬の量を変えたり服用をやめたりしないこと。そして、心身ともに充分な休息を心がけましょう。病院での治療を早期に受けるとこで、一般的には半年から1年ほどで回復するといわれています。治療のポイントは、焦らず気長に取り組むこと。治療には健康保険も適用され、保険証から会社など周囲の人へ「うつで病院に通っている」ということが知られることもないので、安心して通いましょう。
 
「心の風邪」とも呼ばれるうつ病は、その名のとおり風邪と同じく誰にでもかかる可能性がある身近な病気です。まじめで完全主義な人ほどストレスを感じ、うつになりやすいといわれています。うつを防ぐには、まずは自分を知ること。「無理しているな」と感じたら、肩の力を抜き、マイペースを心がけて。失敗しても必要以上に自分を責めず、頑張り過ぎないことが大切です。

 

 

ストレスに負けない心と身体作り~5月病を撃退しよう~(2005年5月)

 

     
 
5月のテーマ:
ストレスに負けない心と身体作り~5月病を撃退しよう~
 就職、転勤、入学など、大きな環境の変化がある季節。新入社員や新入生のみなさんは、難しい試験を乗り越えてようやく入った会社や学校での生活にもう慣れた頃でしょうか?さて、この時期になると緊張感が途切れて急に無気力になったりするのがいわゆる”5月病”。特にGW明けの頃からこの状態になることが多いようです。

この五月病という病名は医学用語ではなく、決まった概念や定義があるものではありませんが、今回は一般的な症状や傾向、憂鬱な気分を快復させるためのアドバイスについてご紹介します。

 
     

 

5月病とは
 
 よく言われるのは、新しい環境に適応できないことで心に焦りが生まれ、”何とかしなければ”という気持ちがストレスになって気分が落ち込んだり無気力になってしまう状態=5月病、ということです。入試を終えようやく入った大学で自分の新たな目標や居場所が見つけられず、GW明け頃からうつ気味になったり無気力な状態になることからこの名前がついたと言われています。ただし、これは五月に限ったことでも新入学生に限ったことでもなく、一般的に見られる症状なのです。
5月病の原因
 
 なんと言ってもストレスを貯めないのが一番。落ち込んだり無気力になっても焦らず、上手に気分をリフレッシュするようにしましょう。そして元気な自分に戻ったあと、新たな目標や関心事を見つけるのも大切。人生の目標など、大きなものでなくてもスポーツや趣味などでもいいのです。新しいものに目を向けたりチャレンジするということが刺激となり、生活の活性化につながります
ストレスの上手な解消法
 
 ストレスをためてしまうと、うつ気分や無気力状態だけでなく、睡眠障害や食欲不振、ひどくなるとそのままうつ病になってしまったりと良くないことばかり。解消法として米デトロイト医療センターが挙げているものを紹介します。

・自分ひとりだけでできることをする

他人と接したり、物を頼んだりすることがストレスになる場合も。自分だけで成し遂げられることを選ぶのも一案。

・友人や家族に自分の気持ちを相談する

悩みは自分の中に溜め込まず、話すことで楽になります。

・週に最低3回運動する

軽い運動はリフレッシュに最適です。

・食事・アルコールは控えめに

食べ過ぎ、飲み過ぎは体調を壊す原因にもなります。

・少なくとも1日に1回は温かい食事をとる

温かい食事は気分を和やかにしてくれます。夕食くらいはゆっくりととりましょう。

・カフェインを含有する飲料を減らす

覚醒作用のあるカフェイン。ぼんやりしてしまう時、気分をキリっとさせるためコーヒーなどを飲む程度なら良いのですが、摂りすぎや就寝前は避けましょう。

・瞑想やリラックス運動を覚えて実践する、ヨガや太極拳を始める

筋肉の緊張緩和や神経の鎮静に役立ちます。

・面白い映画を鑑賞しに行ったり、コメディビデオを借りたりする

笑いは心の活力剤。また、泣ける映画で泣いて心のモヤモヤを洗い流すのもひとつの手です。

・定期的に健康診断を受ける

自分の身体の状態を知っておくのも大切。定期的に診断を受ける、という行為自体が心に安定をもたらす効果も。

ストレスに効く食べ物
 
 過敏になった神経をリラックスさせたり鎮静させるのに効果的な食べ物にタマネギ、ニラ、しそ、レタス、ごま、ユリ根、くるみなどがあります。これらの野菜やカルシウムを多く含む小魚や牛乳の摂取を心掛けましょう。また、カルシウムの吸収に必要なのがビタミンDとマグネシウム。ビタミンDを多く含むきのこ類や魚類、マグネシウムを多く含む豆類も積極的に摂取を。

色々ご紹介しましたが、5月病の大半は放っておいても1,2ヶ月で治ると言われています。5月病はココロの病。特効薬はありませんが、イライラせずにのんびり構えることが予防策。そしていつも前向きな気持ちでいる人には、5月病は無縁なのです。せっかくの新生活、今の状態が不満でも先を見つめ、ポジティブに、元気に過ごしましょう