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まめ知識カテゴリ: 運動

中高年に人気の「ラジオ体操」(2014年10月)

 

イラスト今年の夏は異常な暑さが印象的でした。それに続く急激な気温の変化と天候の不順。気持ちの良い日本の秋の到来が待ち遠しいところでしたが、10月に入り、やっと身体を動かすにはちょうど良い季節がやってきました。

 

最近、中高年に何故か人気なのが「ラジオ体操」。子供の頃、夏休みにスタンプを押してもらうことが楽しみで、毎朝眠い目をこすりながら参加したあの「ラジオ体操」です。この2年あまりで関連本が10冊以上、中にはシリーズで数十万部も売れている本もあるようです。

 

今月の健康コラムは、この「ラジオ体操」の人気の秘密、その効用などについて紹介したいと思います。

 

「ラジオ体操」とは?

ラジオ体操という名の通り、ラジオ放送局が健康のための体操指導を行うというのが始まりです。1920年代からアメリカやドイツで放送されており、日本でも徒手体操を指導員の号令で行う番組がありました。

 

現代のラジオ体操の原型になるのは、アメリカの保険会社が健康増進のために始めたラジオ体操番組”Setting up exercise” だと言われます。

 

日本では、昭和天皇の即位を祝う事業としてラジオ体操が提案され、文部省に委嘱。国民健康体操の名称で天皇の御大典記念事業の一環として放送が始められたといいます。その後、全国放送として定着し今に至る「ラジオ体操」は当時の日本人の健康増進のためにスタートした、肝いりの番組だったわけです。子供の頃は、夏休みのイベント以外にも様々な機会に行っていたように思うのですが、いつのまにか、ストレッチや体幹トレーニングなど、新しいメソッドに比べ時代遅れの運動というイメージが定着した「ラジオ体操」。

 

それがなぜ復権したのでしょうか。

 

かつてのマイナスイメージはどこから?

イラスト「ラジオ体操」は、運動競技や日常生活をスタートする前の軽いウォーミングアップとして広く活用されていました。ところが「ストレッチ」が、1970年代後半スポーツの指導者などにより急速に広まり、まずアスリートの準備運動がこの新しい科学的なスポーツメソッドに取って代ったのです。

 

動きに反動をつけた「ラジオ体操」のような準備運動は、暖まっていない筋肉や関節に有害だといったことが、あらゆるスポーツシーンで語られました。学校のクラブ活動など、身近なところでも必ずそうした話題が出た程です。

 

こうした反動で弾むような動作で筋肉を伸ばす方法を「バリスティックストレッチ」(動的ストレッチ)と言い、現在「ストレッチ」呼ばれている「静的ストレッチ」と比べて、急激に伸ばされた筋肉が起こす「伸張反射」と呼ばれる防衛反応のために、かえって筋肉が反射的に収縮してしまうとされました。

 

こうしたマイナスの情報は、現在の「ラジオ体操」の盛り上がりの中では、あまり話題にはならないようです。現代では、「静的ストレッチ」、「動的ストレッチ」ともにそれぞれの良さがあるという認識が一般的です。どうやら、「静的ストレッチ」の優れた点を強調するために、ことさら「動的ストレッチ」が悪者にされたというのが真相なのかもしれません。いずれにしても現在では、「ストレッチ」を専門に教える教室などでも「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」、それぞれの良さが紹介されることが多いようです。

 

「ラジオ体操」の効果

イラストでは、「動的ストレッチ」でもある「ラジオ体操」のどこが現在の人気を呼んでいるのでしょうか。その理由のいつくかを挙げてみましょう。

 

まず、運動としての効果そのものよりも分かりやすい理由がいくつかあります。

 

一つは、「ストレッチ」(静的ストレッチ)や「ヨガ」、「ピラティス」、「リポーズ体操」、「フェルデンクライス」などと比べてエクササイズの動作が分かりやすいという点。子供の頃から慣れ親しんでいる「ラジオ体操」の動作は、特に中高年の方で知らない人はいらっしゃらないでしょう。

 

先生の指導を受けないと身体の動かし方が分からないとか、どこかの教室やスポーツ施設に通わなければならないということは、ありません。もちろん費用もかかりません。これも大きな要素でしょうか。毎日、決まった時間にラジオの前に居ればいいだけですから。

 

次に効果ですが、どれも簡単な分かりやすい動きで構成された「ラジオ体操」ですが、一通りこの運動を行うだけで、400以上の筋肉が刺激を受け活性化されるといいます。毎日ラジオの前で決まった時間に行うということも、生活のリズムを作ってくれます。筋力が刺激を受けて高まり、柔軟性も保てますし、血流が良くなって代謝も高まるといった生活習慣病を気にしなければいけない中高年にとって、とても良い効果を生むのです。

 

イラスト運動強度としても、ある程度のスピードで歩くウォーキングと同程度。体脂肪を燃焼させ、免疫力を高めて病気になりにくい体質にしてくれるちょうど良い強度ということになります。

 

さらに「ラジオ体操」は、姿勢を良くするという動きが多いのも大人向けと言えます。筋力や柔軟性の低下、あまり歩かない生活などは、背骨のゆがみや悪い姿勢を生む原因となりますが、良い姿勢をサポートする軽い運動はとても効果的です。

 

また一般的に「ラジオ体操」というと第一を指しますが、これは「子供からお年寄りの一般の人が行うことを目的」とし、第二は筋力の強化をポイントとした動きで、第一と比べて運動量も多くなっています。相当な運動効果があるということになりますので、通院やリハビリ中の方は、運動の可否を医師に相談してください。

 

身体をほぐすストレッチでバランスの良い身体に(2014年9月)

 

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年齢とともに身体が硬くなってきた、そう感じる人は多いことでしょう。若い頃どんなに身体が柔らかくても、加齢とともに関節の稼働域は狭くなり、筋肉は弾力を失って硬くなってきます。

 

そこで必要になるのがストレッチ、つまり伸ばす運動です。しかし、ストレッチが具体的にどのような運動で、筋肉や関節にどのような効果をもたらすかということは、意外に知られていません。ストレッチを運動を専門的に行う前の準備運動だと思っている人も多いことでしょう。しかし、柔軟性は、日常生活を健康に営むためにもとても大切なものです。肩こりや腰痛、肉離れや腱の断裂を起こす原因の一つとなるのも柔軟性の欠如です。猛暑をしのいだ後に、少し身体を動かしたいという時期を迎え、そのスタートで思わぬ怪我をしないためにも、今回はストレッチについて紹介します。

 

ストレッチを行い、筋肉を伸ばすことで身体に良い影響を及ぼすことがいくつかあります。筋肉が固まっていると血管が圧迫され、血液の循環が滞ることになります。また、固まった筋肉によって神経が圧迫されて痛みを生じることがあります。肩こりもそうです。さらに股関節などが固まって身体がスムーズに動かないと、日常生活でのものの上げ下げの際に、本来なら身体全体に分散される負担が腰の一カ所に集中して腰痛を起こすということもあるのです。

 

ストレッチにより筋肉のこわばりが取れると、圧迫されていた血管が拡張し血液循環がスムーズになります。血液の流れが良くなるとコリだけでなく冷え性なども緩和され、日常生活が快適になるのです。

 

図さらに精神的にも、ストレッチの気持ち良さがリラックス効果をもたらし、質のよい睡眠とストレスの軽減をもたらしてくれます。また、筋肉のコリによって悪くなった姿勢も良くなります。パソコン作業などのデスクワークを長時間行っていると、肩や背中、腰などの筋肉が硬くなります。さらに続けると太腿の裏側の筋肉が硬くなり、この筋肉が縮むことで骨盤が引っ張られて後傾し、猫背気味の悪い姿勢になってしまいます。

 

こうした誰もが陥りがちな悪い姿勢を正すためにも、ストレッチで筋肉の柔軟性を高めることが大切です。

 

筋肉が柔軟になる仕組み

筋肉をストレッチで伸ばしても、それで筋肉が伸びっぱなしになるわけではありません。筋肉が伸びやすくなるのです。これは、材質として筋肉が伸びやすくなるという面と、力が抜けていわゆる脱力して伸びやすくなるという2つの側面があります。ストレッチを行うことで、筋肉の組織がそれに対応して一時的に柔軟性が向上するのですが、続けていくことで一時的な柔軟性が本質的に伸びやすい筋肉へと変化していくと考えられています。

 

ストレッチはいつやるのが効果的か

図運動の前にストレッチをすると良いというイメージがありますが、筋肉は暖まった状態のほうがよく伸びます。また、運動の後に溜まった乳酸を上手く流す効果も期待できるので、運動をして十分身体が暖まった後、クールダウンの一環として行うと身体の柔軟性を高めることができます。

 

さらに特別な運動をしない人、肩こりや腰痛を緩和したいという人は、お風呂上がりが最適です。お風呂で十分に筋肉が暖まったところで、気持ち良く感じる程度に筋肉を伸ばしましょう。

 

専門的に部位別に分けたストレッチの種類は1000以上あると言われますが、その中からここでお風呂上がりに布団の上で行うのに適した簡単なストレッチを数種類紹介します。

 

①肩と胸のストレッチ

できるだけ背中を真っすぐにして両手を伸ばす(10秒から20秒静止)

 

②肩の横側のストレッチ

肩にある三角筋を伸ばすストレッチ。肩の位置を動かさないように腕をクロスさせる。

(左右とも10秒から20秒静止)

 

③首横側のストレッチ

手を軽く添えて頭を横に傾ける。力を入れずに行うこと。(左右とも10秒から20秒静止)

 

④太腿内側と首と背中のストレッチ

足首を持って、足の裏を合わせる。背筋を伸ばすことで、首と背中もストレッチ。つま先を両手で持つようにすると更に効果的。(左右とも10秒から20秒静止)

 

⑤腿の内側と肩のストレッチ

④の姿勢から両膝に手を置いてさらに腿をストレッチし、肩を交互に顔の前にもってくると肩もストレッチできる。

 

⑥腰のストレッチ

左膝を立て右ひじで左膝を押しながら腰をひねる。顔を後ろに向けるように。(左右とも10秒から20秒静止)

 

ストレッチはスポーツクラブや公共施設での講習会、書籍やDVDなどでも紹介されています。運動の得手不得手や、年齢等にも関係なく誰でも自分に合った強度で行えますから、気軽にチャレンジしてみると良いでしょう。 

 

 

 

夏の落とし穴「夏太り」にご注意!!(2014年8月)

 

図1

今年の夏は、冷夏になる、いや昨年と同じように猛暑になる等と予想が錯綜しています。今のところいきなり梅雨が明けたため、暑さが酷く身体にこたえるという人も多いことでしょう。そこでビール党ならビールが、それ以外の人には、酎ハイや冷たい清涼飲料がとても美味しく感じられる日々を送っていることでしょう。

しかし、冷たい飲み物が内臓脂肪を増やす原因の一つだということをご存知ですか。「コールドドリンク症候群」と名付けて注意を促す医師もいます。暑さも本番を迎える季節に誰もが陥る危険がある甘い罠ならぬ「冷たい罠」、さらにそれがもたらす内臓脂肪について今回は触れてみましょう。

 

 

誰もが陥りやすい「コールドドリンク症候群」

どこにいっても自動販売機のある風景。外国人が日本を訪れたときその多さに驚くと言います。その状況を治安の良さという側面で引き合いに出す人もいますが、これは「コールドドリンク症候群」に拍車をかけているのです。さらに、コンビニエンス・ストアに入れば、冷たく美味しい新製品の数々。家に帰っても、冷蔵庫を開ければ冷たい缶ビールや清涼飲料があなたを待ち受けています。暑さから逃れたい一心でそれらについ手が伸びてしまうのも仕方のないこと。確かに冷たいものを飲むと体温が下がり、一時的に暑さから逃れることができます。

 

しかし、飲料することによりお腹を冷やすと身体はその冷えから脂肪で内臓を包んで守ろうとするのです。最後の氷河期に順応した人類が、生き延びるために獲得したのが、こうした脂肪を蓄える能力だったといわれます。見方を変えれば、太りやすい人というのは、環境に順応する能力の高い人ということになるわけです。

 

 

貯蓄型の「中性脂肪」、やりくり上手の「脂肪酸」

図2脂肪とは一体何なのかを確認しておきましょう。体内には、脂肪酸、中性脂肪、コレステロール、リン脂質の4種類の脂肪があります。このうち中性脂肪と呼ばれるものが、肉の切り身で目にするあの白い脂身の部分です。皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積される脂肪は、全て中性脂肪で、体内の脂肪の約90%を占めるとされています。この中性脂肪は、万が一に備えて貯蓄される脂肪の貯金です。しかし、度を越すと、肥満や健康を害する一因となります。

 

生きていくため一番に使われるエネルギーとして活用されているのが脂肪酸。中性脂肪と比べるとその割合は、ずっと少ないわけですが、やりくり上手の奥様のように出費をおさえて働いてくれるのです。また、脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、不飽和脂肪酸には、オレイン酸、リノール酸、EPA(エイコサペンタエン酸)など身体に良い働きをするとされる脂肪酸などがあります。

 

コレステロールは、筋肉や血液の中にありリン脂質とともに細胞膜を構成したり性ホルモンを作る大切な役割があり、大人の体内には、100グラムから150グラム程あるとされています。結合するたんぱく質の比重によりLDLコレステロール(悪玉コレステロール)とHDLコレステロール(善玉コレステロール)に分けられます。コレステロール値というとこれらを合わせた総コレステロール値を指します。

 

リン脂質は、先ほど触れたように細胞膜の構成成分で、水に溶けない中性脂肪を水に馴染ませ血液中に存在できるようにする働きがあるとされています。

 

体内に存在する4種類の脂肪はいずれも人が生きていく上で大切な役割を担っています。問題はその量なのです。人類が飢餓の時代を生き延びるために獲得した資質が、飽食の時代を迎えて健康を阻害するシステムとなってしまっているのです。

 

脂肪の蓄積システム

図3それでは、そうした脂肪の蓄積が行われる時、体内でどのようなシステムが働いているのか紹介しましょう。ご存知のように食べ物が体内に入ると胃や腸で消化が行われ、さまざまな栄養が吸収されます。ごはんや麺類、パンなどの多く含まれる炭水化物は、体内でブドウ糖になり、肝臓から血液中に送り込まれます。これが身体のエネルギーとなるわけですが、このブドウ糖の量が多くなると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、インスリンはブドウ糖をエネルギーとして活用するために働きます。また、余ったブドウ糖を中性脂肪に変えて脂肪細胞に取り込む働きもします。

 

このエネルギーの活用と、貯蔵のバランスがとれているうちは、もちろん人は肥満になることはありません。過食や摂取したエネルギーに見合うだけの運動がなされない状態が続くと、貯蔵庫に脂肪が貯められていきます。身体は、そのうちやってくるかもしれない飢餓に対して生き延びるためのシステムとして中性脂肪に変えたエネルギーを蓄える訳です。これも、人によりますが、体脂肪率で25%まではそれほど問題ではなく、むしろ正常な機能が働いていると考えて良いでしょう。しかし、それを超えて過食や運動不足が続くとインスリンの効き目が悪くなる「インスリン抵抗性」を招き、体脂肪の蓄積が加速される事態になります。

 

大人であれば250億から300億の脂肪細胞が全身に分布しています。昔は、脂肪細胞の数は増えず、一つひとつの脂肪細胞が肥大化して肥満すると言われていましたが、その後の研究で脂肪の蓄積が進むと脂肪細胞も分裂をして、その数が増えるということが明らかになっています。一方で一つの脂肪細胞が米粒や小豆の大きさにまで肥大した例が見つかっています。これは肥満が進んだ結果、脂肪細胞が老化して細胞分裂の力を失い以上に肥大化してしまったものと考えられています。こうなるとそれを元に戻すのは大変。簡単には脂肪が落ちなくなってしまいます。

 

また、脂肪細胞が持つもう一つの大切な働きも失われてしまいます。これは、脂肪細胞が満腹中枢を刺激して過食を制御するためのレプチンというホルモンを出しているというのが近年の研究で分かってきたのですが、細胞の老化はこうした機能を阻害してしまうと考えられます。

 

内臓脂肪を減らす生活習慣の改善

体内に蓄えられる脂肪は、皮下脂肪と内臓脂肪とに分かれますが、生活習慣病のリスクを高めるのが内臓脂肪です。動脈硬化を促進し、血圧を上げ、狭心症や心筋梗塞、脳出血や脳梗塞など命に関わる重大な病気を引き起こす原因にもなるのです。また、インスリンの働きを妨げ高血糖状態を招き易くし、糖尿病を発症させる要因にもなると考えられます。

 

この問題の内臓脂肪を減らすには、どうしたら良いでしょうか。まず、内臓脂肪を溜め込みやすいといわれる生活習慣を見てみましょう。

 

図4[問題のある悪生活習慣]
 ①食事は必ず満腹になるまで食べる
 ②早食いでよくかまないで食べる
 ③朝食抜きが多く、夕食が遅い
 ④寝る前に何か食べる習慣がある
 ⑤宴会が多く、お酒を飲むと食べ過ぎてしまう
 ⑥冷たい飲み物をよく飲む
 ⑦揚げ物などが好きだ
 ⑧テレビを見ながらだらだら食べるのが好きだ
 ⑨運動するのが苦手だ

 

まずは、問題のある生活習慣をあらためるところからスタートしてください。

 

筋肉痛はなぜ起きるのか(2014年7月)

 

図

若い時と比べて筋肉痛が遅れてやってきた。これは身体が老化したサインと思われる人も多いはず。しかし筋肉痛の原因は、諸説ありまだハッキリとわかっているわけではありません。自分の筋力の許容範囲を超えた運動が、筋繊維や周辺の結合組織を傷つけ、その修復が行われるときに痛みを覚えるという説が有力なようですが、そうしたメカニズムについて完全に解明されているわけではありません。今回はこの筋肉痛に関して、取り上げてみたいと思います。

 

 

筋肉痛はなぜ起きるのか

筋肉痛は、「運動により筋肉繊維が傷ついて痛みを感じる」ものというイメージがありますが、実は痛みを感じる神経はこの筋繊維にはつながっていません。筋肉は筋繊維とそれを覆う形の筋膜とで出来上がっていますが、神経はこの筋膜に繋がっているのです。筋膜というのは、脳の司令で動かすことができない部分で、皆さんが自分の意志で動かすことができる筋肉というイメージとは異なる部分です。では、なぜ筋肉痛を感じるのでしょうか。

 

一つの説として、運動強度が一定の限界を超えると筋繊維が傷つき、それを修復しようと血液成分が働き始めたときに痛みを起こす刺激物質が生産され、それを筋膜を経て神経が感じ取ってしまうと言われています。加齢などで、血流が悪くなり、この刺激物質が生産されるところまで時間がかかった場合、痛みが発生するのも遅れることになります。これが、年齢とともに筋肉痛が遅れてやってくる原因の一つと考えることができるかもしれません。

 

また、筋肉痛は、筋肉を縮める動きより、筋肉を伸ばす動きを途中で止める運動によって引き起こされるといわれます。階段を上る動きより階段を下りるときに使われる脚の前面の筋肉の動きが痛みを引き起こします。階段を上るときは、脚の前面の筋肉が縮まり後ろの筋肉が伸びて身体を持ち上げます。反対に階段を下りるときには、脚の裏側の筋肉が縮み、脚の前面の筋肉が体重を支えるために伸びる途中で力が入ります。

 

登山などで経験される方も多いかもしれませんが、登りより下山の時に使った脚の前面や膝の周辺の筋肉が翌日から二日後にかけて痛みを感じるものです。

 

筋肉痛を治すには

図筋肉痛は、その痛む筋肉をこれ以上酷使するなというサイン、身体の防衛機能という側面もあります。まず、睡眠によって回復を図ることが大切で、特に筋肉の修復をするために大切な働きをする成長ホルモンが多く分泌される夜10時から朝の2時までの睡眠のゴールデンタイムと言われる時間帯はしっかりと寝るようにします。

 

また、先ほども触れたように、筋肉痛は痛みを起こす刺激物質が関与していると考えられますので、この刺激物質を早く身体の外に出してしまうという方法が有効な手段ということになります。そのために必要なのが血流の確保。しかし、痛みが血流を阻害してしまうこともあるのです。

 

痛みを感じるとその部位の筋肉は、硬くなります。筋肉が硬くなるとそこに通う血管も圧迫されて血流が悪くなるのです。まずは、この筋肉を緩めることを考えましょう。

 

筋肉はある程度伸ばすことで、緩めることができます。無理をしない程度にストレッチを行います。できるだけゆっくりと伸ばしてください。反動を付けることは厳禁です。脚の前面が痛むのであれば、膝を折って足の土踏まずの部分にお尻を乗せるようにして伸ばします。痛むところを伸ばすのですから、少々辛いですが、我慢してゆっくりストレッチすると後で楽になります。同時に脚の裏側も伸ばしておきましょう。 

 

図運動した後、痛みが起きる前にストレッチを行う習慣をつけると、痛みを軽減することができます。また、運動前にウォーミングアップを十分にして、ストレッチも行うようにすれば、なお効果的です。

 

また、筋肉痛のときには、栄養補給も大切です。痛んだ筋肉を補修するためとタンパク質だけをとればよいというわけではありません。炭水化物や脂質も同時にバランス良く摂るようにしましょう。必要な炭水化物を摂らないと、身体は筋肉を分解してそこから栄養素を取り出そうとします。これでは痛んだ筋肉の修復どころではなくなってしまいます。

 

しっかりとした食事にとりかかるには時間がかかりますから、その前に栄養補助食品等を利用するというのも筋肉痛対策として効果的です。運動直後にアミノ酸を補給し、溜まった乳酸を分解するクエン酸が摂れるレモン、疲れていても喉を通り易いバナナなどを摂るというのも良いでしょう。

 

また、筋肉痛は痛むからとじっとしているより、ウォーキングなどの軽い運動を行った方が早く回復します。これも軽い運動が血行を改善してくれるからです。水泳や水中ウォーキングも効果的です。水中で動くことで適度に水が身体をマッサージしてくれるので、回復を早めてくれます。

 

筋肉痛を防ぐには

図筋肉痛は、運動不足の証明でもあります。毎週末に山に行っているような人は、登山での筋肉痛とは無縁です。同じ筋肉であれば日頃十分刺激を与えておけば筋肉痛になることはありません。しかし、そうした運動習慣があっても、新たなスポーツやフォームに挑戦して、それまであまり稼働させていなかった筋肉を動員するとやはり痛みは起こります。それでも運動習慣のある人は、比較的軽くて済むのです。これは、運動習慣によって血管や心臓の機能が正常に保たれ、全身の血流が良くなるという運動効果の現れです。

 

運動習慣のない人は、無理のないペースで歩くということが、基本になりますが、夏の暑い時間帯のウォーキングはオススメできません。できるだけ朝早い時間帯、涼しいうちに行いましょう。

高血圧は日本人にとって大きな健康リスク(2014年5月)

 

イラスト毎年5月17日は高血圧の日とされていることをご存知ですか?
日本高血圧学会と日本高血圧協会は、第30回日本高血圧学会総会において、毎年5月17日を「高血圧の日」と制定することを宣言し、日本記念日協会により認定登録されました。今月はこの高血圧についてとりあげます。

 

 

降圧薬治療を開始すべきか

日本高血圧学会は、2014年の「高血圧治療ガイドライン」を公表しました。これによると、高血圧の診断基準(降圧薬治療開始基準)は、従来の「収縮期140mmHg以上、拡張期90mmHg以上」という数値を維持しながら「若年・中年高血圧」の血圧を下げる努力目標を、この診断基準と統一しました。同様に後期高齢者(75歳以上)は「収縮期150mmHg以上、拡張期90mmHg以上」とされ、以前の基準より若干緩和されたのですが、この高血圧治療ガイドラインを超えている人の割合が50代になると女性が50%を超え、男性では70%近くと言われています。多くの人が、数値では高血圧と診断されながら、降圧薬治療を開始しようか、それともそれ以外の方法でなんとかならないかと思案しているのではないでしょうか。今回はそうした悩みをお持ちの方のために情報をご紹介します。

 

高血圧になる原因とは

イラスト血圧が高くなる原因は、遺伝的な要素、肥満によるもの、運動不足によるもの、塩分の高い食生活や喫煙、飲酒の習慣などがあげられますが、普段あまり意識していなくともストレスが要因となることもあります。また、糖尿病や腎臓病などの病気が原因で血圧が高いという場合もあります。

 

最初にあげた遺伝的な要素としては、国立国際医療研究センター研究所の加藤規弘・遺伝子診断治療開発研究部長らの研究グループが「東アジア人を対象に、高血圧に関する大規模全ゲノム関連解析を行い、新規のもの5つを含む計13の遺伝子座を同定した」と発表しました。5万人以上の東アジア人の全遺伝情報を解析し、高血圧に関連する13種類の遺伝子を特定したとし、このうちの5種類は白人ではみつかっていないということです。 

 

イラスト日本人は高血圧になりやすいといわれますが、その要因の一つが遺伝子にあったわけです。この高血圧が日本人に最も多かった時期が、1960年代前半で、この時期をピークに下がる傾向にあるとされています。これは、1955年に高血圧の治療を受けている人が人口10万人に対して61人しかいなかったのに、1975年には475人になり、降圧薬を飲む人が増えたということからです。

 

厚生労働省の「健康日本21」における試算によれば、国民の血圧が平均2mmHg下がれば、脳卒中による死亡者は約1万人減り、新たに日常生活活動が低下する人の発生も3,500人減ることが見込まれています。また、循環器疾患全体では2万人の死亡が防げるとしています。高血圧を下げることがどれだけ大切かわかりますね。

 

高血圧は何歳から増え始めるのか

厚生労働省が平成18年に行った国民健康・栄養調査によると30歳以上の40~50%が高血圧で、やはり年齢とともに上がる傾向にありました。高血圧の人が約50%を超えるのは、男性で50代(59.2%)、女性では60代(57.6%)。70歳以上になると、男性では約71.4%が、女性では約73.1%が高血圧だとされています。高血圧がいかに重要な医療問題となっているかわかりませんか。日本人の最大の健康リスクは高血圧にあるという指摘もあるほどです。ところが、そうした問題をなかなか自分のこととして捉えて医療機関に相談しないという人が、相変わらず多いのが現状です。

 

日本高血圧協会と日本高血圧学会は、高血圧啓発キャンペーン「ウデをまくろう、ニッポン!」を実施。今年の高血圧啓発のテーマを“減塩”と“医師相談”として日本高血圧週間5月9日~17日を中心に、高血圧の危険性や減塩・医師への相談の重要性などについて啓蒙活動を行っています。血圧が高めだという認識がある人は、まず食生活を見直し、医師に相談するようにしてください。

 

軽い運動で高血圧に対処

イラストまた同時に降圧効果のある運動もお勧めします。運動療法は薬物療法や食事療法とともに高血圧治療に有効だとされています。また、体を動かすことで、心肺機能を高め、血液もサラサラにしてくれるので、心筋梗塞や動脈硬化予防にも役立ちます。

 

運動の降圧効果は、どれくらいかというと、高血圧患者が定期的に軽く汗ばむ程度の運動を週3回、1回30分以上行うと収縮期血圧20mmHg以上、拡張期血圧10mmHg以上の低下が見られた患者が 半数以上いたという研究事例もあります。ここでいう汗ばむ程度の運動というのは、ウォーキングやサイクリング、水泳など有酸素運動をさしますが、肥満や足の関節に痛みがあるという人の場合、水中ウォーキングや水中エアロビクス運動などプールで行うものが良いでしょう。

 

高齢者を対象にした研究では、ストレッチと筋肉運動のプログラム30分を月2回、3ヶ月間行ったところ、収縮期が10mmHg程度低下したというものがあります。
以上のようなことから、高血圧に対処し健康を維持するためにも、身体に無理をかけない運動を続ける習慣をつけるようにしましょう。

 

新年度のスタートで健康をそこなわないためのコツ(2014年4月)

 

イラスト4月は、進学や就職、転勤など、新生活に適応するために何かとストレスの多い時期。何事にでも意欲的に取り組むのは素晴らしいことです。しかし、頑張り過ぎてしまうという人もいるでしょう。新しい環境にすんなり適応できる人はよいのですが、物事はなかなか上手く行かない場合も多いものです。俗にいう五月病に取りつかれてしまい、何やら疲れを感じてやる気を失ったりする人もいるのではないでしょうか。

今回は、新年度のスタートで健康をそこなわないためのコツを紹介したいと思います。

 

頑張りすぎないことが大切

異なった環境に適応することが得意な人と、苦手な人がいると思いますが、これは仕方のないことです。新しい環境が仕事場である場合は、頑張らざるを得ないと考えるのは当然かもしれません。しかし、新しい環境に自分を合わせるのが苦手な人は、無理は禁物です。ストレスレベルが許容範囲を超えてしまうと、様々な症状や病気を引き起こすことがあります。

 

その一つが副腎疲労です。朝起きられない程の疲労を感じ、出勤することさえできなくなってしまうことがあります。実は副腎はコルチゾールというストレスに対処するためのホルモンを分泌している大切な臓器なのですが、睡眠不足に加えて糖分やカフェインの摂り過ぎや、感染症などの要因が長く続くとそのストレスに耐えられる限度を超えて副腎疲労を引き起こしてしまいます。

 

最初は自覚症状のないままストレスに対処するコルチゾールの分泌量が増え、そのまま対処のピークに達してもストレスが減らないと副腎が機能低下を起こし、分泌するコルチゾールの量も減って行きます。するとコルチゾールによる身体の修復と調整が間に合わなくなって、様々な身体の不調を感じるようになります。女性の場合は、月経が止まることもあります。

 

イラスト疲れた身体をコーヒーで無理に覚醒させる習慣のある人は要注意。また疲れた時にカフェイン含有量の多いチョコレートを食べると、このカフェインが副腎を刺激してコルチゾールの分泌を促すため、自分を鞭打つ習慣がついてしまいます。結果的にはそれが副腎を疲労させてしまうのです。

 

もし、疲れきって動けないという状況の場合は、医師による診察が必要になります。そうなるまえに、無理は控えて毎日の生活で、食生活を改善し睡眠時間をたっぷりとるなどして疲労回復に努めましょう。カフェインの摂取量を徐々に減らして行くことも大切です。

 

新年度は運動習慣を身に付けるチャンス 

イラスト新しいチャレンジとして、少々増えすぎてしまった体脂肪を落とすことも兼ねてスポーツに取組む人もいると思います。適度な汗をかく運動は、様々な健康効果をもたらしてくれますが、実は副腎のストレスも軽減してくれるのです。副腎から分泌されるコルチゾールは体内に蓄積された重金属が酸化して体内で炎症を起こした場合、対処のために使われます。この水銀などの重金属は、皆さんの大好きなマグロなど大型魚を食べるとそこに多く含まれているのですが、副腎を疲労させる原因の一つになってしまうのです。

 

しかし、この重金属は軽い有酸素運動による発汗や入浴で汗とともに体外に排出することができます。適度な運動習慣を身に付けると、結果的にストレスに強い身体を獲得できるというわけです。
汗をかく運動が身体に良いからといって、普段運動習慣の無い人や、新年度に久しぶりに運動を再開しようという人がいきなり激しい運動をしてはいけません。激しい運動は、筋肉の炎症をもたらし、ここでもコルチゾールが大量に動員されることになるからです。何事も無理は禁物です。

 

クロストレーニングのすすめ(2014年2月)

     
 
2月のテーマ:
「クロストレーニングのすすめ」

 クロストレーニングと言っても何?と思われるかもしれません。単純にいうと複数の種目の運動を行うトレーニングのことです。なぜそれがおすすめかということを今回は、ご紹介したいと思います。

 
     
体幹の筋肉を使うと故障が減る
 

 ランニングやテニス、ゴルフ等を趣味のスポーツとして楽しんでいらっしゃる方は多い事でしょう。でも、中高年の方でこうした趣味のスポーツに熱中すると、必ずといって起きるのが筋肉や関節などの故障です。よくあるのがランニングで起こす、脚や膝の故障。テニスでは、テニス肘。ゴルフではゴルフ肩というのが有名ですね。いずれも特定の箇所に負担のかかる動きを、関節や筋肉などが耐えられる限界を超えて繰り返した結果、故障を引き起こしてしまうことが多いとされています。

 スポーツ専門のトレーナーの中には、中高年になると特に体幹の筋肉が弱くなって、本来体幹から力を出すべきところを、身体の末端の筋肉を酷使するフォームになり、故障を引き起こす原因になっているという指摘をされる方もいます。

 例えば赤ちゃんがハイハイする姿を観察すると、体幹を使って動いている事がよくわかります。まだ、腕や脚に十分な力がないのに、思ったより活発に動き回るのは、体幹の筋肉を巧く使っているからです。人間は本来、本能的にこうした動きができるものなのですが、大人になって筋力がつき、その筋肉で動く事を覚えてしまうと体幹を使う事を忘れてしまうのです。使わなければ、筋肉は衰えていきますから、ますます体幹を使う動きをしなくなってしまいます。

   
一流選手は一般の人より筋肉が肥大していない?
 

 ゴルフやランニングを良くされている人で、脹脛(ふくらはぎ)の筋肉が異常に左右に張って、肥大している人を見かけますが、これは体幹を使う事を忘れてしまった人の典型的な筋肉の付き方です。本人は、よく運動をしているからだと自賛されていることも多いのですが、その運動で故障を引き起こすリスクが高まっているという自覚が必要です。筋肉の肥大は、運動による筋肉の破壊と超回復の結果だとされますので、身体の末端の一部の筋肉に過大な負荷がかかっている状態だということになるのです。

 一流の選手は意外に身体の末端の筋肉は肥大していないものです。例えば、マラソンの世界で驚異的なタイムを出し続けるアフリカの選手達の脹脛は、運動をしていない一般の大人の脹脛よりも細く引き締まって見えます。それでいて、あの驚異的なスピード。まさに体幹の筋肉のパワーによるもと考えざるをえません。

   
体幹の筋肉を目覚めさせるには
 

 さて、ではなぜクロストレーニングが良いかということになりますが、実は体幹の筋肉を目覚めさせて使えるようにするには、専門的なトレーニングメニューが必要になります。できれば体幹トレーニングを熟知したトレーナーの指導も受けたいところです。でも、現実的にはそれはなかなか難しいかもしれません。そこで、複数の運動を行なうクロストレーニングで、筋肉や関節への負担を分散しながら、健康に良い運動を継続的に行なうことをおすすめしたいわけです。

 例えばゴルフをした後に、プールで泳ぐ。そうすると疲労した脹脛の筋肉が、水泳のキックによる筋肉への刺激でほぐされ固くなった筋肉が柔らかくなります。これは、歩くという行為は足首を曲げた状態で脹脛の筋肉を使いますが、バタ足のキックは足首を伸ばしたまま主に太ももの筋肉を使って行なわれますから、隣接する脹脛にも豊富な血流がめぐり疲労物質を代謝させてくれるのです。

 泳ぎが苦手な人は、水中ウォーキングでも効果があります。胸を張って腕を振り、膝を前に突き出すように脚を運ぶように意識してください。水が身体の動きを制限して、体幹の筋肉も動員しないと前に進まないので、あるていど強制的に体幹の筋肉が目覚めさせてくれます。

 また、自転車を取り入れるのも良いでしょう。町乗り用のクロスバイクと呼ばれるスポーツ自転車でも良いと思いますが、慣れてきたらロードレーサーと呼ばれるペダルを靴に固定するビンディングを装備したスポーツ用の自転車にすると、さらに効果的です。ママチャリと言われる一般の自転車は、ペダルを上から下に踏みつけて、前に進みますが、脚をペダルに固定すると全く別の筋肉を使ってペダルを“回す”ことになるのです。

 最初は意識をしなければできないのですが、身体の後ろ側の筋肉、広背筋(背中の筋肉)や中臀筋、大臀筋(お尻の筋肉)、ハムストリング(太腿の裏側の筋肉)で、ペダルごと脚を上に引き上げるように力を入れ、踏み下ろすときに少しだけ力を入れて、脚の重さでベダルを押し下げるようにすると、奇麗なペダリングで長距離でも楽に走破できるようになります。

 身体の中心に近い大きな筋肉を動員して動くことで、疲労を防ぎながら身体に良い有酸素運動を長い時間続けることが可能になります。

 ただし、ロードレーサーと呼ばれる本格的な自転車は、メンテナンスや安全走行に関する知識も不可欠なので、家の近くの専門店で相談してから、手に入れるようにしてください。ヘルメットなどの身を守る装備のことや、道路での走り方は、専門的なスタッフに指導してもらうのが一番です。

   
クロストレーニングでアクティブな生活を
 

 クロストレーニングは、普段行っている好きな運動に、水泳やウォーキング、自転車などを組み合わることで、特定個所に負担をかけずに、筋肉や関節の故障を防ぎながら、長い年月のアクティブな生活を可能にする大切なトレーニング方法です。ぜひお試しください。

   

 

 

健康寿命をのばす生涯スポーツについて(2013年11月)

 

     
 
11月のテーマ:
健康寿命をのばす生涯スポーツについて

 厚生労働省の資料によると、日本人の平均寿命を平成13年と平成22年で比較すると男性は78.07歳から79.55歳へと0.97年のび、女性は84.93歳から86.30歳へと1.37年のびています。

寿命にはもう一つ、健康寿命という言い方があります。これは、介護などを受けなくても自力で生活のできる状態を保てる年齢ということです。この健康寿命を同じ平成13年と平成22年で比較すると男性は69.40歳から70.42歳へと1.02年のび、女性は72.65歳から73.62歳へと0.97年のびています。この平均寿命と健康寿命の差が、男性で8.67年から9.13年に、女性が12.28年から12.68年に広がっているのです。

つまり、不健康な状態で生きる期間がのびていることになります。これは、不自由な生活を強いられる本人も大変ですが、介護をする周囲の人の負担も増えているわけです。そこで、自分に許された生のギリギリまで元気に過ごしたいという万人の思いに応えようと「健康寿命」をのばす取り組みが様々な機関、研究者によってなされています。

今月は、先月に引き続き、そうした「アンチエイジング」と「健康寿命」をテーマに紹介していきます。

 
     

 

年齢相応にスポーツ競技を楽しむ
 

 高齢者になれば、誰もが運動機能の低下を実感することになります。しかし、低下のレベルは年齢に応じて一律というわけではありません。壮年のベテラン登山者でも難しいエベレスト登頂を、独自のウォーキングで肥満と糖尿病を克服し80歳で成し遂げた三浦雄一郎氏。60歳で剣道を始めて80歳で六段を取得したという人もいます。

過酷さで知られるトライアスロンに、60歳で初挑戦するという人も少なくありません。様々なスポーツのマスターズ大会には、毎年多くの高齢者が参加し、年齢区分ごとの記録も更新されるなど活躍の様子を耳にします。

例えば、4年毎に開催される最も大きな国際総合スポーツ大会であるワールドマスターズゲームズは、1985年のカナダ・トロント大会では22の競技が行われ、8,305人が参加。24年後の2009年のオーストラリア・シドニー大会では、28競技に28,676人が参加しています。

 国内で毎年開催される日本スポーツマスターズは、原則35歳以上と規定された言わば国体の中高年版。今年も9月13日から17日にかけて行われた北九州大会に、水泳、サッカー、テニス、自転車競技、空手道、ゴルフ等13競技が行われました。

 11月30日、12月1日に行われる水泳のジャパンマスターズには、今年も99歳まである5歳刻みの年齢区分に3000人の参加が予定されています。

マスターズ大会とはいえ、競技スポーツには、身体の柔軟性、筋力、心肺能力などが、日常生活レベルを超えて競技レベルであることが要求されます。こうしたスポーツに意欲的に取り組む人たちは、特別に頑健な身体をしているのでしょうか。

確かに、どんなに過酷なトレーニングをしても身体を壊さないという人も中にはいます。しかし、殆どの人は、どのぐらい練習するとケガをしやすくなるか、どのような疲労をためると免疫力が低くなって、風邪を引きやすくなるかという自分なりの経験知をもって、長い競技生活を楽しんでいるのです。つまり賢く自分の身体と対話しながら、日々の練習をコツコツと積み上げ、体調を管理しているのです。

 アンチエイジングという視点で見た場合、こうしたマスターズ競技から得られるノウハウは少なくありません。最も大切なことの一つは、自分の身体と対話する能力を身に付けることができるということでしょう。

世の中には、驚く程たくさんの「身体に良い」とされる健康法、トレーニングメソッド、食事法、養生法などがあります。こうしたものは、どれも身体に良さそうで次々に試したくなるものばかりです。しかし、中には、提案されている理論が真っ向からぶつかり合い、正反対のことを主張している場合もあります。

 アンチエイジングを目指す食事法でも、「健康のために肉を食べなさい」というものと「長生きしたいなら肉は食べるな」という本が、書店に並べてあったりします。「40代からの節制は寿命を縮める」と「粗食のすすめ」というタイトルの本もあります。また、バナナや納豆やトマトジュースやサバの缶詰が話題になり、食料品店の棚から消えてしまうということもありました。ブームに乗って試した人も多いことでしょう。しかし、こうしたことを試してみるということも、あながち無駄だったということばかりではないのです。そのときに自分の身体にどんな変化が起きたかということを観察することで、自分の体質や適応状況を知ることができるのです。

 身体が軽くなったり、重くなったり、胃が重くなったりスッキリしたり。寝起きが良くなったり、寝付きが悪くなったり。熟睡できたり、頭が痛くなったり、筋肉痛になったり、痩せたり体重が増えたりといった自分の身体に起きた変化を注意深く確認しておくこと、自分に向くものと向かないものを見極めて生活に取り入れて行くことが、アンチエイジングに繋がると考えられます。そういった意味で、常に身体を意識することになるスポーツを一つ趣味にしておくことをお勧めします。

   
健康寿命をのばすために
 

 先に挙げた三浦雄一郎氏の父親である三浦敬三氏は、100歳を超えても現役スキーヤーでしたが、健康寿命をのばす長寿遺伝子が活性化している例として加齢制御医学の見地からも注目されました。99歳でモンブラン山系最長であるバレーブランシュ氷河の滑走を成功させた三浦敬三氏は、オフシーズンも毎朝4キロのウォーキングをし、次のスキーシーズンに備えていたそうです。永くつき合えるスポーツを一つ身につけておくことが、健康寿命をのばすということを証明している好例ですね。

   

 

気軽にできるアンチエイジング(2013年10月)

 

     
 
10月のテーマ:
気軽にできるアンチエイジング

 アンチエイジングという言葉を、最近よく聞くようになったと思いませんか。数年前までは、アンチエイジングというと多くは美容に関するものでした。しわを取ったり、肌のシミやくすみを改善したりといったものです。その結果、見た目が若くなるというわけです。

しかし、そうした身体の表面だけを改善しても、暫くすると元に戻ったりして、本質的な問題解決にはなりません。最近のアンチエイジングでテーマになるのは、もっと本質的に身体の老化と向かい合い、改善できる点は改善し、極力老化を遅らせようというものです。

例えば、血管は悪い生活習慣や食生活によって、老化し固くなってしまいます。弾力を失った血管は血圧を上げ、動脈硬化をもたらします。動脈硬化はやがて脳梗塞や心筋梗塞の原因となり文字通り命取りとなりますが、この血管の若さを取り戻すことは可能なのです。こうした本質的なアンチエイジングについて、今回はご紹介したいと思います。

 
     

 

血管を若返らせるためには
 

 人の年齢は、血管年齢であると言われることがありますが、この血管の年齢を若返らせることは、比較的容易だとされます。一酸化窒素という血管の内皮(血管の内壁を覆う組織)でつくられる物質が、血管を柔軟にする働きをしてくれるのです。一酸化窒素は、血管の筋肉を柔らかくして拡張し、血流をスムーズにし、さらに血管内のコレステロール体積や血栓の発生を抑える働きがあります。

この一酸化窒素の生成を促すには、どうすれば良いか。「大股で歩く」それだけです。体重のせいで膝に負担のかかってしまう人は、プールでウォーキングをすると良いでしょう。息が上がる程の速度で歩く必要はありません。大股で15分程、毎日歩くようにしましょう。

さらに、もう一つ効果的なのが、筋肉のストレッチ。固くなった筋肉が血管を圧迫して血管の老化を引き起こしていることもあるからです。大臀筋や高背筋を気持ちよく伸ばすストレッチを行ってください。筋肉が伸びれば、それとともに血管も伸びて柔らかくなります。

   
ポリフェノール
 

ポリフェノールの効果が注目されるようになったのは、食道楽と言われるフランス人は、血管の病気での死亡率が低いのは何故かという疑問からでした。フランス人はポリフェノールを多く含んだ赤ワインの消費量が多く、それと関係があるとされたからです。ポリフェノールは摂取すると動脈硬化や脳梗塞を防ぐ抗酸化作用があるといわれます。

もう一つ、ポリフェノールの一種としてアンチエイジング効果の高いのがイソフラボンです。イソフラボンは、豆腐や納豆などの大豆加工食品に含まれ、更年期以降分泌が減少するエストロゲンと同様の働きをするとされるため注目されています。

   
活性酸素
  活性酸素とは、激しい運動やストレス等で体内で代謝される酸素が、より反応性が高い活性酸素に変換されたもので、身体に様々な悪さをすることが知られています。体内には、発生した活性酸素が細胞に損傷を与えるのを防ぐために、抗酸化酵素と呼ばれる活性酸素を消去したり除去する酵素があるのですが、この働きでも分解しきれない活性酸素が細胞を傷つけると老化の原因になるとされています。

また、紫外線や放射線が細胞に照射されると細胞内に活性酸素が発生することが知られています。昔は、日光浴で真っ黒に日焼けした肌が健康の象徴のようにされてきましたが、今や日焼けは老化の主原因の一つに上げられる程です。

   
心の持ち方がもたらすアンチエイジング
 

 心理学者のエレン・ランガーは、非常に興味深い実験を、70歳代後半から80歳代の老人男性を集め、二つのグループに分けて行ったのです。

一週間の実験期間中、一つのグループには、20年前の生活を回顧する話題を義務付け、もう一つのグループには、実際に20年前の小道具に囲まれた生活環境で、よりリアルに20年前の生活を体験させたのです。廊下から老人用の手すりを取り除き、重い荷物も自分で運ばせ、食事も自分たちで作らせました。

するとどちらのグループも日がたつにつれて歩調が速くなり、自信も回復し、杖をついていた老人も杖を使わなくなりました。特に後者のグループは、その効果が顕著で、足取りや機敏性、関節炎の症状、動作の速度、認識能力、記憶力、血圧、視力や聴力まで向上したといいます。

これは、老人とはこうあるべきだという通念が老化をもたらしているという一つの仮説を導きだしています。もう何歳だから、こうあるべきだと、あるいは仕方がないと決めつけていませんか? 

 アンチエイジングの第一歩は、自分の可能性を信じることかもしれません。まず十分にストレッチをして、大股で歩きましょう。目標や夢に向かって。

   

 

突然死の予防にはメディカルチェックを(2013年6月)

 

     
 
6月のテーマ:
突然死の予防にはメディカルチェックを

 トライアスロンという競技をご存知でしょうか。水泳・自転車ロードレース・長距離走の3種目を一人で連続して行う耐久競技で、有名なのはハワイのアイアンマンレースです。高い温度と湿度、強い向かい風という過酷な条件にもかかわらず、最高峰のトライアスロンとしてアスリート垂涎の大会となっています。

国内でも、約40もの大会が開催されていますが、申し込みが殺到してエントリーするのさえ難しい状況にあります。ある人が大会に出場して完走できたら、死んでも良いと大会関係者に冗談半分に話したところ、この関係者は烈火の如く怒ったと言います。ボランティアスタッフを含め大会運営の関係者は事故が起こらないよう、安全な大会の運営のために寝る間も惜しんで努力をしているからです。

しかし、そうした関係者の努力にもかかわらず、今年4月に行われた石垣島トライアスロンで、40代の男性が水泳の競技中に亡くなりました。これまでも競技中の死亡事故があり、その度にウエットスーツの着用などルールの変更が行われてきました。それでも大自然の中での過酷なレースには、事故など外的な要因で起こるケガや、突然死のような内的な要因で起こる死亡のリスクは存在します。前置きが長くなりましたが、今回は、トライアスロンばかりでなく、マラソンやサッカーなど、激しいスポーツに限らず、ゴルフやジョギングなど比較的軽い運動中にも起こる突然死の原因とその予防について紹介します。

 
     

 

「突然死」の原因
 

  屈強なJリーガーがサッカーの練習中に突然倒れ、急性心筋梗塞で死亡したということを覚えている方も多いのではないでしょうか。突然死とされるものには、心機能に起因するもの、脳梗塞や脳出血によるもの、呼吸系に起因する窒息死、原因のわからないものもありますが、心機能に由来する循環器疾患によるものが全体の6割以上と多くを占めています。

 この心機能に由来する突然死を心臓突然死と呼びますが、健康になろうとして行う運動にもその危険は潜んでいるのです。血液は、身体中の毛細血管から集められ、静脈に入り上下の大動脈から右側の心房、右側の心室、肺、左側の心房、左側の心室、大動脈、動脈、毛細血管という順路で流れていきます。もし心臓に血液を送る冠動脈に障害が起き、左側の心室の心筋が動かなくなると血液が、左側の心室でせき止められた状態に陥ります。このときに運動によってさらに心臓に負荷をかけると肺は鬱血状態になり、心臓は疲労し不整脈を起こします。これが心臓突然死の引き金となるわけです。

心筋梗塞で不整脈を起こした場合は、心臓に栄養と酸素を送る冠動脈の動脈硬化が進行し血管の内側が狭くなります。その狭くなった部分に血栓という血の固まりが詰まると致死的な不整脈である心室細動が起こり、心室筋が適切に動くことができなくなってしまい心臓は血液を送り出す機能を失います。脳に行く血液も止まり死に至ることになります。こうした心臓突然死は、年間約5万人と言われ、この心筋梗塞によるものが最も多いとされています。

   
スポーツと突然死
 

 ここ20年間に開催された国内のマラソン大会で、120名を超える方が主に急性心筋梗塞が原因で亡くなっています。マラソンで急性心筋梗塞を起こすことが最も多いのは、ゴール直前とゴール直後で約7割の人がここで倒れています。ゴールが見えたところで、無理をしてきた身体に最後のムチを入れてしまったことが考えられます。どんなに無理をしないように自分に言い聞かせても、長い間準備をして臨んだ大会で、最後に頑張ってしまう自分を止めることは難しいに違いありません。しかし、競技の途中で胸に痛みを感じたとき、それが心臓へ送られる血液が不足しているということを知っていれば自重できるはずです。まず、こうした突然の不調が自分にも起こりうるということを認識することが大切です。

 こうした運動中の突然死の大多数が、これまでの研究では心疾患に由来する循環器系の病変が占めているということが明らかにされています。つまり、こうした病変を運動前のメディカルチェックで見つけることができれば、多くの突然死は防げるということです。

 40歳を過ぎると喫煙、飲酒、過食、疲労の蓄積などから、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病を発生し、動脈硬化の進行に伴い心臓に栄養を送る冠動脈が狭くなっていることが少なくありません。自覚症状としては、締め付けられるような胸の痛みや圧迫感、冷や汗、息が苦しいなどです。

運動を始める動機が、こうした自覚症状により体質改善を目指して、いわゆるメタボリックシンドロームから脱出したいというものである場合、すでに心臓血管系に病変があれば、それが命取りになることもあるのです。まず、医療機関で適切な検査を行うことをお勧めします。

 心臓血管系のメディカルチェックには、通常の血液・尿検査に始まり胸部X線、安静時心電図、運動負荷心電図、ホルター心電図などの検査を含め10数項目のチェックが用いられます。一例としては、病気の既往症や家族歴、自覚症状の有無などの問診、聴診、触診の後に血液検査と尿検査を行います。心臓超音波検診で心臓の形態的異常の有無の確認し、無ければ自転車エルゴメーターなどを使って運動負荷テストを行います。ホルター心電図を24時間つけてもらいその記録をチェックすることもあります。呼吸器系の病気が疑われる場合は、呼吸器検査を行うなどの必要が生じます。これらの検査は別に痛い思いをするわけでもないので、身構える必要はありません。 

継続的にレースなどに参加していて、これまで何のトラブルも感じていないという人も、一度チェックしておくことが突然死を免れるためには大切です。

 古代エジプトでは、非常に勇敢な人には実際に心臓に毛が生えていると信じられていて、尊崇の対象だったといいます。確かに現代でも心臓が健康的で強いのであれば羨ましい限りですが、心臓に毛が生えているという表現は尊敬を集めることとは別の意味になってしまったようです。