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健康まめ知識

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健康なランナーを目指そう(2015年3月)

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毎年、春を目前に行われる東京マラソン。参加する人も応援する人もこれほど楽しめる大会はないかもしれません。東京の街並みを普段とは違った目線でじっくり味わいながらのラン。こうした大会に参加して、もう二度と走りたくないと思う人と、初参加で病みつきになる人がいるといいます。今回参加した知人にその典型のような二人がいましたので、その顛末をご紹介しながら、ランニングで健康になる方法を考えてみましょう。

 

運の良いA氏、頑張り屋のBさん

A氏は、元水泳選手で水泳のコーチもしていたという颯爽としたスポーツマン。東京マラソンには過去に2回続けて当選したという幸運な男です。今回は残念ながら抽選にもれ、それまで行っていた練習のモチベーションが一気に下がってしまっていました。ある日、会社の上司との飲み会の席でその話しをすると、なんと会社の後押しでチャリティーランナーとして参加することになりました。どこまでも運の良い男です。

 

Bさんは、頑張り屋のキャリアウーマン。毎日早朝から猛勉強、仕事で使う資格取得を目指していました。その試験に合格したBさんは、空いてしまった早朝の時間を走ることにしました。それが昨年の8月。初めてのフルマラソンにチャレンジする半年前のこと。たまたまギリギリに申し込んだ東京マラソンにも当選してしまったのです。それまで、マラソンはおろか短い距離のレース経験もありません。早速、ランニングシューズを買い求めました。

 

まったく異なる練習法

イラストさて、この二人の練習内容は、まったく異なっています。A氏は、一般応募で落選してからしばらくの間、練習に気が乗らず、さらにチャリティー枠での出場が決まってからも年末年始に例年より多い宴会が重なり、思うように練習できない日々が続きました。過去に4時間を切ってフィニッシュした経験があるので、1月に入ってからの短期間のコンディショニングでも4時間程度で走れる自信があったのです。1月の中旬には、徐々にペースをあげて走れるようになりました。

 

一方のBさん。11月に20キロレースに出場して、1月には30キロレース。物事を計画通りに進めることが得意なBさんは、ランニングの大会でも着々と距離を伸ばし、それぞれ10キロを約1時間で走ることができました。初めてにしては出来過ぎの感がありますが、これには理由があります。友人から勧められた本で体幹トレーニングとストレッチがランのフォームを作る上で大切なことを知り、毎日欠かさず練習に取り入れました。アスリート専門のトレーナーの講習会にも参加し、さらに知識を深めました。

 

大会直前のアクシデント

イラストこうしてそれぞれ本番を一ヵ月後に控え、練習に気合いが入る日々を過ごしていました。ところが、二人とも身体に問題がおきてしまいました。

 

A氏は、1月の末にひどい風邪を引いて体調を崩してしまったのです。せっかく練習も調子に乗ってきて、これからさらにペースを上げようとしていた矢先です。

 

Bさんの方は、足に問題が起きました。左足の踵のあたりが毎朝痛むようになったのです。

 

 

A氏の場合

まず、A氏の方から体調を崩す原因になったことを推測してみましょう。彼は経験も自信もあったので、比較的短期間にコンディショニングをあげられると考えていました。ここ何年かマラソンに参加してきた練習の蓄積もあります。しかし、彼のようマラソンの経験があっても日頃コンスタントに走っているのでなければ、大会本番に向けて最低でも3ヵ月はかけて基礎的な代謝機能を高め、衰えている筋力などを強化する必要があります。しかし、大会まで時間がなかったために、実際のレースでの走行スピードをイメージしたトレーニングに集中することになったのです。キロ何分という設定で練習していました。こうした練習では、心肺機能は高まるのですが、基礎体力が落ちてしまうことがあります。

 

皆さんもご存知の有酸素運動レベルでは、体内の糖質と脂肪の燃焼割合は50%ずつです。ところが、比較的早いスピードでの練習をすると酸素摂取量を酸素消費量が上回り酸素不足になります。酸素不足では脂肪をエネルギーにすることができません。この状態での練習を続けると身体は次第に脂肪をスムーズに燃やせなくなってくると考えられるのです。脂肪が使えないとなると、エネルギーは糖質に依存することになります。しかし、糖質は脳で常に大量に使われる上、体内の備蓄が少ないので身体は常にエネルギー不足の状態になり、疲れやすくなってしまいます。

 

A氏が早いスピードの練習で調子が上がってきたと思ったところで、ひどい風邪を引いてしまったのはエネルギー不足で基礎体力を失い、免疫機能を低下させたのだと考えられるのです。

 

この事態を避けるには、どうしたら良いのでしょうか。一つの方法が、トレーニングに心拍計を使うこと。心拍計を使うと脂肪を燃焼するゾーンで練習するエアロビックトレーニングを確実に行うことができます。このエアロビックトレーニングで脂肪を燃焼するエアロビックシステムを身体の中にしっかりと構築した上で、スピードを上げるトレーニングをすれば、A氏のように体調を崩すことはなかったと思います。

 

こうしたアドバイスをしたところ、A氏は大会本番で心拍計を付けて走ることになりました。今回は準備不足でエアロビックシステムが強固でないため、心拍計を確認しながらエアロビックゾーンで走り終盤にエネルギーを温存すると良いということも伝えました。本番では、15キロ地点まではゆっくり走っていたのですが、その後体調が良いと感じて30キロあたりまでスピードを上げてしまったということでした。ここでエネルギーを使い果たしたA氏は、35キロ過ぎからは足も動かずとても辛い思いをしながら歩いてフィニッシュラインに辿り着いたということです。走り終わっての感想は「もう二度と走らない」でした。

 

Bさんの場合

一方Bさんの足はどうだったのでしょうか。朝起きると踵に痛みがあって歩いているうちに消えるということでしたので、初期の足底筋膜炎だと思われます。これは、足底の筋肉の膜に炎症が起きるものです。長距離を走るようになって半年近く経過し、疲労から足のアーチが落ちてしまったことが原因です。Bさんには、このアーチを作るために足の指で靴底を掴むようにして歩くこと、裸足でタオルの上に足を置き、足指でタオルをたぐり寄せる練習をするというアドバイスをしました。この訓練でアーチを高くするのです。この後、幸いなことにこのことでBさんの足の痛みはなくなったということでした。

 

さて、大会本番。Bさんは女性らしいコスチュームに可愛らしい縫いぐるみのキャラクターを冠って走っていました。大会参加者の中には、全身に映画のキャラクターの衣装で着込んでフルマラソンを走るという強者もいて、皆さんサービス精神満点です。

 

Bさんの腕には、最新型の脈拍計が付けられています。これは、胸にセンサーのベルトをつける形の「心拍計」ではなく、腕の血流をセンサーで測定するもの。気軽に付けられるという点に特徴があります。初めて一人で走るマラソンが不安だという彼女に、一緒に走ってくれるトレーナー役をこの脈拍計に託したのです。Bさんにもエアロビックゾーンで走れるよう目標にする心拍数の上限と下限を設定し、それぞれの心拍数を超えるとアラームが鳴るように設定しました。走っている間、このアラームの音に支えられてとても心強かったとBさん。見事に笑顔で初マラソンを完走しました。

 

エアロビックトレーニングの活用

イラスト大会の翌日、A氏とBさんに会いました。二人とも筋肉痛で階段の上り下りが辛いようです。A氏はレース直後に、もう二度と走りたくないと思ったが、時間が経つにつれて悔しさがこみ上げてきたと言います。もう一度、身体を作り直し、エアロビックシステムをきちんと構築してからレースに臨みたいとのこと。Bさんは、レース後もアミノ酸を摂ったりストレッチをしたりして身体のケアにも気をつけている様子。もう次のレースをどこにしようかと目を輝かせていました。

 

マラソンを趣味にしている人、これから参加しようという人はたくさんいます。楽しくフィニッシュするには、どうしたら良いかもうお分かりでしょう。本格的に走り出す前にエアロビックゾーンでの練習をじっくりと行い、脂肪を燃やしながら走れる身体を作ることが大切です。体脂肪の燃える身体にすれば、自然に普通体型になりますので無理なダイエットをする必要はありませんね。

ダイエットに失敗する原因は?(2015年2月)

 

イラスト友人のジャーナリストを仮にAさんと呼びます。彼は、スポーツ系に強いライターでよくトレーニング関連の本を制作するために、その道のプロであるトレーナーや大学の先生に取材に行きます。そこでAさんは、よくこのように言われたそうです。「君はよく“筋トレでダイエット”とか、“美しく柔軟な身体を目指すトレーニング”などをテーマに本を作っているが、自分自身の身体の管理ができないと、説得力がないのでは?」

 

Aさんは高校時代アマチュアレスリングの選手だったので筋肉質の理想的な体格でした。ところが、その後の不規則なライター稼業でかなり贅肉を蓄えていたのです。このAさんに久しぶりに会うと、別人に見える程激変していました。まるで枯れ木が立っているかのように痩せ細っていたのです。いったいAさんに何があったのでしょう。

 

今回は、短期間でのダイエットについて、身近な例からご紹介しましょう。

 

急激なダイエット

Aさんが、行ったのは極端な食事制限でした。もともとアマチュアレスリングの選手だったので、当時行った方法で体重を減らそうとしたのです。レスリングの選手は、試合に出場するためには階級に合わせて身体を作る必要があります。できるだけ軽いクラスで戦った方が基本的に有利なので、試合前は減量ということになります。この当時の減量は、飲む水まで制限される過酷なものだったといいます。皆さんもボクサーの減量の様子をご存知でしょう。前の試合が終わってから増えてしまった体重を、指定された計量日までにどのようなことをしても落とすという過酷な世界です。

 

現代のボクサーは、管理栄養士の指導のもとに、減量しながらも必要な栄養を摂れるように配慮された食事をするということが、試合で勝利するためにも大切な条件となっているようです。しかし、昔の体重別の競技ではそうした恵まれた環境にいる選手は少なかったのです。日々、練習量を増やしながら食べ物を削っていき、水分まで制限していました。

 

イラストAさんは、どうやらこの高校時代の減量を一念発起でまた行ってしまったようなのです。しかも、トレーニングは一切せずに、食事制限だけの減量。甘いもの、ごはんやパンなどの炭水化物は一切摂らないというものです。

 

確かに体重は減りましたが、見た目は痩せたというよりやつれた感じになりました。歯の噛み合わせまで悪くなったと本人が言うように、会話していても言葉が聞き取りにくくなってしまいました。顔色が悪いのと皺(しわ)が深くなったことで、実年齢以上に一気に老けてしまった印象でした。

 

こうした極端なダイエットは、リバウンドという避け難い事態の他に、様々な問題を引き起こします。

 

ダイエット臭

前記にあげたような、老け顔になってしまうという点、この原因は栄養不足になった身体が、体内に蓄えられた脂肪だけでなく筋肉も分解してしまい、表情筋などもその対象になるということが考えられます。

 

さらに、他人に悪い印象を持たれてしまうのが、ダイエット臭と言われる独特の甘酸っぱい体臭や口臭です。これは、エネルギー不足になった脳が、食事で入ってこないエネルギーの代わりに非常用のエネルギー源として作るように肝臓に命じた「ケトン体」によるものです。このとき、肝臓で作られるアセトン・アセトン酢酸・βーヒドロキシ酪酸の総称が「ケトン体」と呼ばれるもので、糖尿病などと同じ臭いが発生することがあるのです。「ケトン体」が血液中に増加すると口臭としても放出されます。

 

さらに、空腹感が唾液の分泌を低下させ、唾液によってコントロールされている口内環境も悪化してさらに強い口臭を生んでしまいます。

 

このダイエット臭が、はっきり認識されるような飢餓状態を放っておくと、自律神経系やホルモンバランスを崩し、身体に様々な問題が起きてきます。

 

イラストダイエット臭を改善するためには、まず脳に必要な栄養素である糖分を送るために、炭水化物を摂る必要があります。タンパク質、脂質ももちろんバランス良く摂らなければなりません。さらにエネルギーの枯渇に対応して身体の基礎代謝が落ちていますので、これを上げるために有酸素運動を取り入れます。ウォーキングや軽いジョギング、ゆっくりとした水泳など、あまり心拍数が上がらない運動を継続的に行うことが重要です。

 

さらに筋肉トレーニングで筋肉量を増やすことも基礎代謝を高める効果があります。

 

健康的な生活を送るための「体力」の喪失

食事制限による極端なダイエットで、失われるのは筋肉や若さだけではありません。前向きに仕事や人生を楽しむための「体力」が失われてしまうのです。

 

「体力」は、病気やストレスに打ち勝つための「防衛体力」。運動に必要な「行動体力」という概念に分けることができますが、そのどちらも損なわれてしまい、生活そのものから潤いや喜びを失ってしまいます。

 

この「体力」という言葉にまとめられる「防衛体力」、「行動体力」を分かりやすく説明すると以下のようになります。

 

○「防衛体力」

  •  免疫力(病原菌などに対する抵抗力)
  •  環境変化に対する抵抗力(暑さや寒さに対する抵抗力)
  •  生理的変化に対する抵抗力(時差や、運動時の身体の変化に対する抵抗力)
  •  精神的ストレスに対する抵抗力

 

○「行動体力」

  •  筋力(重いものを持ち上げたりする能力)
  •  筋持久力(持続的に力を使う能力)
  •  瞬発力(瞬発的に力を発揮する能力)
  •  全身持久力(ランニングなどで使う全身の持続力)
  •  柔軟性
  •  俊敏性
  •  平衡性(片足でバランスをとって立ち続ける能力)

 

こうした「体力」は、何歳になっても人が健康に生きていく上でなくてはならないものです。従って、食事制限による極端なダイエットは、リスクが大きいので避けるべきだということになります。

 

背広を着た縄文人

ある大学の先生が、『現代人は「背広を着た縄文人」である。』ということを本に書いておられました。この考え方に基づけば、現代の生活を営む我々が、なぜ肥満に苦しむことになったのか、明解に説明できます。

 

人類が誕生してから、現在まで経過した時間を仮に1年、12ヵ月に置き換えてみたとします。現代の便利な生活、このパソコンや、電話などの情報機器に囲まれ、コンビニなどで24時間いつでも食べたいものを手に入れられる生活を、人類が誕生してからどのくらいの月日にあたるか、想像してみてください。

 

秋ぐらいでしょうか。いやもう少し後、12月の何日かというイメージをもたれる方もいることでしょう。正解は、12月31日の午後11時50分。人類誕生から今までを1年に換算すると、現代はこの最後の10分間にあたるというのです。人類はそれまで、11ヵ月30日と23時間50分は、便利な文明機器も持たず、飽食の時代もなかったわけです。

 

イラスト従って私達の身体は、飢餓に耐え、外的の襲撃からも身を守るという環境に適応したまま、いわゆる背広を着ていても、中身は縄文人と同じというわけです。豊富な食べ物、特に甘いもの、塩、高温で調理した食べ物などがいつでもあるという生活ではなかったわけですから、こうした環境にまだ適応できていないため、肥満になってしまうわけです。

 

健康的な生活、生き生きとした人生を歩むために最も大切なのは、何かということ。それは、この説に照らしてみれば明らかです。中身は縄文人の我々は、飽食に走らず、外的に襲われたり、狩猟の必要がなくても毎日歩いたり、軽いジョギングや水泳をする。重いものを持つ必要がなくても筋肉に刺激を与え、筋力を保つ。食べ物は、四季の恵みを大切にし、旬でないもの、高温の油で調理したものなどは、あまり大量に摂らない。

 

便利な文明社会にあっても、身体は縄文人と同じ環境に適応している生き物であるという自覚。そういったことが大切なのではないでしょうか。

 

 

弱った内臓を労る(2015年1月)

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年の初めを迎えて、体調はいかがでしょうか。暴飲暴食という言葉は、この時のためにつくられたのかと思える程、年末年始はさまざまなイベントや会食が続きます。付き合いの良い人は多少無理をしてでも様々な関係者と飲食を共にされたことでしょう。

 

皆さんご存知のように、「七草がゆ」はこうして疲れた胃腸を労って休ませてあげようという昔人の知恵だといわれています。しかし、飽食の時代といわれて久しい現代。お正月でも24時間休むことなく、様々な飲食物を購入できるコンビニなどが身近にある生活では、そうした昔人の知恵だけでは、疲れきった胃腸が簡単に回復しない程、内蔵疲労が重症化しているという人も少なくないことでしょう。

 

そこで今回は、年末年始で弱った内臓を労るということをテーマにしたいと思います。

 

養生の基本

 

図養生をするという言葉があります。貝原益軒の「養生訓」を思い起こす人もいることでしょう。益軒はその中で、「人は飲食によって生命が養われ、飲食は半日も欠くことができない。飲食は人間の最も大きな欲で、その欲望に任せていると病気になり、命を失う」と言っています。

 

それはわかっていても飲食の欲望には負け、つい食べ過ぎ、飲み過ぎをしてしまうのが人の性。さらにそれが宴会などで、美食や美酒が並ぶということになれば、いくら益軒が「養生訓」で「酒はほろ酔いでやめ、食事は満腹の半分でやめるべきだ」と言ってもそれを守り抜くことは至難の業。「わかっちゃいるけどやめられない」ということになってしまう人も多いことでしょう。

 

しかし、負担を一手に引き受ける胃や腸はそれではたまりません。まずその働きについて知識を新たにしておくことで、無茶な食欲に少しブレーキをかけましょう。

 

胃と腸の働き

 

簡単に説明すると以下のようになります。

 

胃は、食物を消化する代表的な器官。粘液を内膜全体に分泌し、強力な胃酸から内壁を守っていますが、暴飲暴食やストレスによって粘液の分泌がうまくいかなくなると、胃の内壁が胃酸で荒れたり、潰瘍を生じることがあります。

 

腸は、食物の消化と吸収を行います。胃ほど強い消化能力はありませんが、その長さを生かして繊維質をはじめとする分解されにくいものをゆっくり消化し、同時に栄養分も腸壁から吸収します。

 

しかし、腸はこの常識的な認識からさらに飛躍的な発見に基づいて、その働きの重要性が認められました。

 

アメリカの神経生理学者のマイケル・D・ガーション医学博士が、「セカンド・ブレイン 腸にも脳がある」という本の中で、脳に存在しているはずの神経伝達物質「セロトニン」が腸にも存在する事を発見し、体内のセロトニンの95%が腸で作られているということを発表したのです。博士は「つまり腸に脳があるこということだ。信じ難いことに、腸は豊かな感情を持ち、脳や脊髄からの指令がなくとも反射を起こさせる内在性神経系を持っている。我々の先祖はアメーバの原生的生物から進化して脊椎を獲得した時、頭蓋と腸の両方にそれぞれ別の感情を持つ脳を発達させたのである」と述べています。脳とは腸から進化して最後にできたものだというのです。

 

いかがでしょう。こうした高度な機能を有する器官を、アルコールや暴食で痛めつけていいものでしょうか。

 

疲れた胃腸を癒すには

 

図我々に備わった大切な器官が、疲れて弱っていたとしたら、それをほったらかしにすることは、もうできませんね。それでは、その回復法について紹介しましょう。

 

夜行性動物でない人間は、昼間働いて夜休むということを習慣化してきました。この習慣は体内リズムとなり、このリズムを守ることが、胃腸の健康のためにはとても大切だといわれます。この体内リズムを整えるために大切なのが食事のタイミング。一日三食、決まった時間に食事を食べることが体内にリズムを生み出します。

 

また、寝る三時間前からは何も食べない、そして間食はなるべくしないということも大切です。こうすることで体内リズムが整い、快便にもつながります。

 

胃の生理からいえば、問題となるのは食事の回数よりその間隔だといわれます。空腹が長時間続くと胃液が胃の粘膜を荒らしたり潰瘍ができやすくなったりするのです。朝食を抜いてのたばこやコーヒーは、さらに胃を荒らす原因になります。

 

朝食はきちんととり、その後は5~6時間あけて食事を取るのが体には一番いいようです。

しかし、前日に宴会などで胃腸が疲れていると感じられる時は、スープやみそ汁などで胃腸を温める程度の朝食にして休ませてあげたほうが回復は早まります。

 

よく噛むことも大切

 

図よく噛んで食べることが大切だとよく言われます。現代人は噛む回数が減っているという指摘もよく耳にします。ある実験によると弥生時代の人々が食べていたものを咀嚼するためには、一回の食事で4000回近く噛まなければならなかったといいます。ところが現代のファーストフードでは1000回を大きく下回り、600回程度噛めば食事が終わってしまうという結果になりました。

 

噛むという行為は、食べ物を小さく砕き消化しやすくするというだけでなく、脳や胃腸を刺激し、全身を活性化してくれるのです。また唾液と混ぜ合わせることで胃への刺激を減らす効果もあります。

 

さらにこの唾液には、様々な働きがあるとされています。 唾液の中には粘性タンパク質のムチンという胃を保護し食べ物を飲みやすくする成分がありますが、それ以外にも様々な成分が入っています。例えば、ご飯やパンを分解して麦芽糖にする酵素アミラーゼ。抗菌作用を持つ物質、ラクトフェリン、リゾチーム。その他にも、細菌の発育の抑制をするラクトフェリンや、免疫作用に関係するIgAという抗体、歯の中にしみ込んでいって歯を石灰化して強くさせるスタテリンなども含まれています。

 

噛むことで唾液と食物が混じり合い、消化吸収されやすくなるのですが、忙しいと早食いになってしまい、噛む回数が減ると胃は余分に働くことになってしまいます。噛むことが胃腸を疲れさせないためにも大切だということですね。

 

図また、食後すぐ動いたり入浴してしまうと、胃に十分な血液が回らなくなって、消化がスムーズにできなくなります。食後は30分以上ゆっくり休むように心がけたいものです。

 

暴飲暴食は誰もが陥りやすいものですが、今年も元気に過ごせるよう、自分の健康は自分で守り、維持していきたいものです。

 

 

 

 

姿勢年齢を若く保つ(2014年12月)

 

図 先日なにげなくテレビをつけたところ、とても姿勢の良い初老の男性がでてきました。別に芸能人でもなければ、体操の先生でもないようです。しかし、その姿勢の良さが生み出す雰囲気がとても若々しく、歌声もなかなか素敵で、実際の年齢を聞いてたいへん驚きました。「姿勢年齢」という言い方があるとすれば、その若さを保つということは大切なことでしょう。今月は、その方法についてご紹介しましょう。

 

良い姿勢はなぜ大切か

 地球上に生息する我々は、常に重力によって地面に向かって押さえつけられています。普段は意識しないことですが、長いこと風邪等で寝込んだ後に起き上がると重力に逆らって立ち上がることがとても辛く感じられたりします。この重力に逆らって身体を支えている筋肉を抗重力筋と呼ぶこともあります。この抗重力筋は、日常生活を送る上で常に活躍を強いられているのですが、姿勢が悪いとさらに負担が増え疲労やコリの原因にもなってしまいます。そのため慢性的な腰痛や肩こり、頭痛などの症状が、悪い姿勢と相関関係にあると言われます。
図 肩こりを例にあげれば、約5kgもある頭部を首と肩甲骨周辺の筋肉が抗重力筋として支えているということがそもそもの出発点です。通常は、脊柱の自然なS字カーブで頭部の重みを上手に分散して支えていますが、姿勢が悪いと頭部の重さは、脊柱の上に上手く乗らずに首と肩の筋肉で主に支えることになります。5kgの重さというと2ℓ入りのペットボトルを2.5本分。片手で持ったら5分もしないうちに下に置きたくなる重さです。
 さらに首と肩の筋肉は腕の重さも支えているというのをご存知ですか? 腕は肩の関節で身体に繋がっているというイメージを持つのが当然ですが、実は肩の筋肉が身体に繋ぎ止めているのです。その証拠に腕を大きく動かすと肩も一緒に動くはずです。この腕が一本で約3.5kg。2本で7kg。頭部と合わせると10kg以上の重さが常に首と肩周りにかかっているということになります。
 つまり人類は、二本足で歩き始めたときから良い姿勢で立つということが宿命づけられているということになります。

 

自然体の作り方

 自然体は、最近大ブームのスポーツでも取り入れられています。ランニングがそうです。今や1000万人とも言われるランニングブームも、最終的に良い姿勢で走るということに行き着きます。なぜなら、42kmを走るマラソンでは何より脚や腰、膝などの一部の筋肉や関節に過度の負担をかけないことが大切だからです。このマラソンのフォーム作りでも取り入れられている方法を紹介します。
 1.真っすぐだと思われる姿勢で立ちます。
 2.そのままの姿勢で軽く膝を曲げ、真っすぐ上に軽くジャンプします。
 3.それを2~3回繰り返し、真っすぐに着地するようにイメージします。
 このジャンプで、頭部が脊柱に真っすぐに乗ります。ランニングでは、この姿勢のまま走り出すことで、自然体でのランニングフォームを作って行きます。
 全身の映る鏡の前で、身体の側面を鏡に映してジャンプしてみてください。着地して自然に立った時、耳、腰の骨、くるぶしの3点が一つの軸上にあればこれが「自然体」です。
 もう一つの確認の仕方が、壁を利用する方法です。あごを引いた状態、つまり首の後ろを十分に伸ばして後頭部と背中とお尻、ふくらはぎ、踵を壁に付けて立ちます。自然体で立てれば無理なく全てが壁につきます。

 

椅子に座って良い姿勢を保つには

図 デスクワークの長い人は、1時間に一度ぐらいは立ち上がって自然体で少しでも歩くようにしましょう。また、良い姿勢で座るということも大切です。椅子に座った良い姿勢というのは、背もたれとの間に隙間を作らないように深く腰掛け、骨盤の下にある座骨で椅子に座りこの座骨の上に骨盤から脊柱を真っすぐに乗せます。腰を引かずにやや骨盤を前傾させるようなイメージで椅子に深く座ればこの姿勢になります。

 

正しい歩き方は、正しい姿勢から

図 健康のためにウォーキングを始めても長続きしないという人は、姿勢と歩き方に問題があるかもしれません。特に、歩くための筋力をアップしようと、足腰の筋肉を意識して早歩きしようとすると、すぐに疲れてしまいます。最悪の場合、筋肉がコリ固まりケガをしてしまうこともあります。
 まず、先に紹介したように自然体で立ちそこから歩き始めます。歩くときは、筋肉の力ではなく、重心を前に倒し、重心が移動する力で歩くようにします。

 具体的には、以下のようにします。
 1.まず自然体を上の「自然体の作り方」の方法で作ります。
 2.身体を一本の棒としてイメージします。
 3.この棒が前に倒れるイメージで身体を前に倒すと、身体の真下に一歩前に足がでます。
 4.この自然に前に出た足に重心を乗せる動きの繰り返しで歩きます。
 こうすると、筋肉の力に頼らずにある程度の距離をラクに歩くことができます。心拍数も上がりすぎない運動強度で歩くことができるので、身体の様々な機能が改善され、健康の維持にもつながります。

 

 良い姿勢は、若々しく見えるだけでなく身体を本質的に若々しくしてくれるのです。自然体を身につけ、いつまでも若さを保ち、生き生きと充実した日々を過ごしましょう。

 

 

感染症への備えと予防(2014年11月)

 

図人類の歴史は、ウイルスとの戦いの歴史だとされます。一説によると美男や美女が異性にモテるのは、ウィルスに負けない免疫機能を持っている人が、左右シンメトリーな身体や美しい容姿を有するからだと言われます。美しい容姿を持つ人ほどウイルスに負けない健康な子孫を残す確率が高いので、自分の子孫を残そうという本能によって、そうした伴侶が求められるというわけです。

 

天然痘というウイルスによって、顔に痘痕(あばた)を残すということも一昔前までは珍しくありませんでした。歴史上の人物では、戦国大名の伊達政宗は天然痘で右目を失い独眼竜と呼ばれ、吉田松陰やモーツァルトにも痘痕があり、夏目漱石は痘痕のため自分の容姿に劣等感を抱いていたといいます。この天然痘を根絶させたのが「近代免疫学の父」ジェンナーが考え出した種痘法というワクチン療法でした。この天然痘に対するワクチンは改良されて世界中で使用され、ついに1980年には根絶が宣言されました。

 

しかし、人類は、毎年のように新たなウイルスの脅威にさらされ、今年猛威を振るうエボラ出血熱のように効果的なワクチンが未開発な病気も少なくありません。

 

今回は、こうした様々な感染症からできるだけ身を守るために心がけておくべきことを紹介します。

 

新型インフルエンザ

毎年寒い時期になると流行する季節性のインフルエンザの他に、遺伝子組み換えなどによって発生する新型インフルエンザというものがあります。これは本来、動物にしか感染しないインフルエンザの遺伝子が変異しヒトに感染するようになったものです。誰も免疫をもっていないので、感染が急激に拡大することもあります。過去には世界中で6億人も感染し、4000万人もが亡くなったスペインインフルエンザ(1918年)や死者200万人のアジアインフルエンザ(1957年)、死者100万人の香港インフルエンザなどがあります。

 

図これらは、それぞれ別の型の遺伝子のインフルエンザですが、1977年に流行したソ連インフルエンザは、1918年に流行したスペインインフルエンザと同じものです。このように、いったん終息してもまた流行するものや、さらに抗インフルエンザ薬の効かない遺伝子への変異が懸念される恐ろしいものもあります。

 

世界的な大流行(パンデミック)が怖れられている高病原性鳥インフルエンザもその一つです。鳥インフルエンザは、ニワトリやウズラ、アヒル、七面鳥など人間が飼育する家禽がもっているA型インフルエンザウイルスによる感染症で、ヒトの季節性のインフルエンザとは感染症法上で区別されています。このうち鳥に対する病原性の強いものが高病原性とされます。

 

この高病原性ウイルスのヒトへの感染は、家禽との濃厚な接触によっておこり、高病原性H5N1ウイルスの場合は、致死率が60%といわれる恐ろしいものです。このウイルスが突然変異によりヒトからヒトへ感染するようになることが最も懸念されているのです。

 

パンデミック時の備えをしよう

図こうした、ウイルスによるパンデミックが起こった場合、自衛手段としてもっとも有効なのは、なるべく外出を避け感染者との接触を極力減らすということになります。特に発生した直後は、医療体制や対処法などが確立されていないということを想定して、不要不急な外出を控えるということが必要になります。しかし、外出を控えるとすぐに日常生活に支障をきたすことになります。そうした場合に備え、必要最小限の備蓄をしておくことが大切です。何をどれぐらいというものについて、4人家族が2週間生活をするための備蓄品のリストが農林水産省のホームページで紹介されていますので参考にしてください。最低限必要になるカロリーから割り出した食材の量等が目安として紹介されています。

 

これらのいざという時の備えは、地震などの災害時にも同様に必要なものです。

下記は、その一部ですが、このような品目を表にして、在庫数や、保存期限などを一目で分かるようにしておくといざというときに大変役立ちます。

 

●衛生用品
  • 常備薬(胃薬、痛み止め、その他持病の処方薬など)
  • 絆創膏(大・小)
  • ガーゼ・コットン(減菌のものとそうでないもの)
  • 解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)
    ※薬の成分によっては、インフルエンザ脳症を助長する可能性があります。
     購入時に医師・薬剤師に確認のこと。
  • マスク、ゴム手袋(破れにくいもの)
  • 水枕・氷枕(頭や腋下の冷却用)
  • 漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)
  • 石けん、消毒用アルコール、うがい薬、体温計

 

●日用品
  • 懐中電灯
  • 乾電池
  • 手動式充電器
  • 携帯電話充電キット
  • 携帯ラジオ・携帯テレビ
  • カセットコンロ・ガスボンベ
  • トイレットペーパー
  • ティッシュペーパー
  • キッチン用ラップ
  • アルミホイル
  • 缶きり
  • 紙食器
  • ロウソク・マッチ
  • 洗剤(衣類・食器等)
  • シャンプー・リンス
  • ウェットティッシュ
    (アルコール含有とそうでないもの)
  • 生理用品
  • 紙おむつ
  • ビニール袋(汚染されたごみの密封に利用)

 

食糧(長期保存可能なもの)

【主食類】

  • 乾類面(そば、ソーメン、うどん等)

  • 切り餅

  • コーンフレーク・シリアル類

  • 乾パン

 

【その他】

  • 各種調味料
  • レトルト・フリーズドライ食品
  • 冷凍食品
    (家庭での保存温度ならびに停電に注意)
  • インスタント食品(ラーメンなど)
  • 缶詰
    (肉、魚、果物、野菜、豆、スープなど)

  • 菓子類(クッキー、キャンディーなど)

  • ミネラルウォーター

  • ペットボトルや缶入りの飲料

 

その他必要な食料(介護食、ベビーフード、粉ミルク、サプリメント、ペットフードなど)

 

予防-生活の中で気をつけたいこと
図外から帰ったら「手洗い」「うがい」をするということを日本人は子供の頃から躾けられていますが、海外では意外に「うがい」は一般的ではないようです。その効果の検証が十分されていないということがあるようですが、日本では神社にお参りするときに行う「手水」(てみず)が手や口を清める作法としてあるように美しい文化の一つとして継承したいものです。

 

ただ、ウイルス対策としては、手水のように水をかけただけでは役に立ちません。しっかり洗剤と流水を使って洗う必要があります。正しい方法は、やはり農林水産省のホームページでも紹介されています。

 

●正しい手の洗い方

  1. 流水で汚れを簡単に洗い流す。
  2. せっけんをつけて十分に泡立てる。
  3. 手のひらをあわせてよくこすり、次に手のひらと手の甲をあわせてよくこする。
  4. 両手を組むようにして指の間をよく洗いましょう。
  5. 爪の間も十分に洗う。
  6. 親指は、反対側の手でねじるようにして洗う。     
  7. 手首も忘れずに、反対側の手でねじるようにして洗う。     
  8. 洗った手が再び汚れないように、蛇口をせっけんで洗い流してから水を出し、流水でせっけんと汚れを十分に洗い流す。      
  9. 清潔な乾いたタオルなどで水気を拭きとる。

 

感染症が流行する寒いこの時期、当たり前の健康法ですが、正しい手洗いでウイルスの侵入を防ぐこと、暴飲暴食を避け、免疫機能を落とさないように睡眠と休息をしっかりとること、栄養バランスに留意し、軽い有酸素運動を習慣づけるなど、日々の正しい生活習慣に気を配り工夫して過ごしましょう。

 

中高年に人気の「ラジオ体操」(2014年10月)

 

イラスト今年の夏は異常な暑さが印象的でした。それに続く急激な気温の変化と天候の不順。気持ちの良い日本の秋の到来が待ち遠しいところでしたが、10月に入り、やっと身体を動かすにはちょうど良い季節がやってきました。

 

最近、中高年に何故か人気なのが「ラジオ体操」。子供の頃、夏休みにスタンプを押してもらうことが楽しみで、毎朝眠い目をこすりながら参加したあの「ラジオ体操」です。この2年あまりで関連本が10冊以上、中にはシリーズで数十万部も売れている本もあるようです。

 

今月の健康コラムは、この「ラジオ体操」の人気の秘密、その効用などについて紹介したいと思います。

 

「ラジオ体操」とは?

ラジオ体操という名の通り、ラジオ放送局が健康のための体操指導を行うというのが始まりです。1920年代からアメリカやドイツで放送されており、日本でも徒手体操を指導員の号令で行う番組がありました。

 

現代のラジオ体操の原型になるのは、アメリカの保険会社が健康増進のために始めたラジオ体操番組”Setting up exercise” だと言われます。

 

日本では、昭和天皇の即位を祝う事業としてラジオ体操が提案され、文部省に委嘱。国民健康体操の名称で天皇の御大典記念事業の一環として放送が始められたといいます。その後、全国放送として定着し今に至る「ラジオ体操」は当時の日本人の健康増進のためにスタートした、肝いりの番組だったわけです。子供の頃は、夏休みのイベント以外にも様々な機会に行っていたように思うのですが、いつのまにか、ストレッチや体幹トレーニングなど、新しいメソッドに比べ時代遅れの運動というイメージが定着した「ラジオ体操」。

 

それがなぜ復権したのでしょうか。

 

かつてのマイナスイメージはどこから?

イラスト「ラジオ体操」は、運動競技や日常生活をスタートする前の軽いウォーミングアップとして広く活用されていました。ところが「ストレッチ」が、1970年代後半スポーツの指導者などにより急速に広まり、まずアスリートの準備運動がこの新しい科学的なスポーツメソッドに取って代ったのです。

 

動きに反動をつけた「ラジオ体操」のような準備運動は、暖まっていない筋肉や関節に有害だといったことが、あらゆるスポーツシーンで語られました。学校のクラブ活動など、身近なところでも必ずそうした話題が出た程です。

 

こうした反動で弾むような動作で筋肉を伸ばす方法を「バリスティックストレッチ」(動的ストレッチ)と言い、現在「ストレッチ」呼ばれている「静的ストレッチ」と比べて、急激に伸ばされた筋肉が起こす「伸張反射」と呼ばれる防衛反応のために、かえって筋肉が反射的に収縮してしまうとされました。

 

こうしたマイナスの情報は、現在の「ラジオ体操」の盛り上がりの中では、あまり話題にはならないようです。現代では、「静的ストレッチ」、「動的ストレッチ」ともにそれぞれの良さがあるという認識が一般的です。どうやら、「静的ストレッチ」の優れた点を強調するために、ことさら「動的ストレッチ」が悪者にされたというのが真相なのかもしれません。いずれにしても現在では、「ストレッチ」を専門に教える教室などでも「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」、それぞれの良さが紹介されることが多いようです。

 

「ラジオ体操」の効果

イラストでは、「動的ストレッチ」でもある「ラジオ体操」のどこが現在の人気を呼んでいるのでしょうか。その理由のいつくかを挙げてみましょう。

 

まず、運動としての効果そのものよりも分かりやすい理由がいくつかあります。

 

一つは、「ストレッチ」(静的ストレッチ)や「ヨガ」、「ピラティス」、「リポーズ体操」、「フェルデンクライス」などと比べてエクササイズの動作が分かりやすいという点。子供の頃から慣れ親しんでいる「ラジオ体操」の動作は、特に中高年の方で知らない人はいらっしゃらないでしょう。

 

先生の指導を受けないと身体の動かし方が分からないとか、どこかの教室やスポーツ施設に通わなければならないということは、ありません。もちろん費用もかかりません。これも大きな要素でしょうか。毎日、決まった時間にラジオの前に居ればいいだけですから。

 

次に効果ですが、どれも簡単な分かりやすい動きで構成された「ラジオ体操」ですが、一通りこの運動を行うだけで、400以上の筋肉が刺激を受け活性化されるといいます。毎日ラジオの前で決まった時間に行うということも、生活のリズムを作ってくれます。筋力が刺激を受けて高まり、柔軟性も保てますし、血流が良くなって代謝も高まるといった生活習慣病を気にしなければいけない中高年にとって、とても良い効果を生むのです。

 

イラスト運動強度としても、ある程度のスピードで歩くウォーキングと同程度。体脂肪を燃焼させ、免疫力を高めて病気になりにくい体質にしてくれるちょうど良い強度ということになります。

 

さらに「ラジオ体操」は、姿勢を良くするという動きが多いのも大人向けと言えます。筋力や柔軟性の低下、あまり歩かない生活などは、背骨のゆがみや悪い姿勢を生む原因となりますが、良い姿勢をサポートする軽い運動はとても効果的です。

 

また一般的に「ラジオ体操」というと第一を指しますが、これは「子供からお年寄りの一般の人が行うことを目的」とし、第二は筋力の強化をポイントとした動きで、第一と比べて運動量も多くなっています。相当な運動効果があるということになりますので、通院やリハビリ中の方は、運動の可否を医師に相談してください。

 

身体をほぐすストレッチでバランスの良い身体に(2014年9月)

 

図

年齢とともに身体が硬くなってきた、そう感じる人は多いことでしょう。若い頃どんなに身体が柔らかくても、加齢とともに関節の稼働域は狭くなり、筋肉は弾力を失って硬くなってきます。

 

そこで必要になるのがストレッチ、つまり伸ばす運動です。しかし、ストレッチが具体的にどのような運動で、筋肉や関節にどのような効果をもたらすかということは、意外に知られていません。ストレッチを運動を専門的に行う前の準備運動だと思っている人も多いことでしょう。しかし、柔軟性は、日常生活を健康に営むためにもとても大切なものです。肩こりや腰痛、肉離れや腱の断裂を起こす原因の一つとなるのも柔軟性の欠如です。猛暑をしのいだ後に、少し身体を動かしたいという時期を迎え、そのスタートで思わぬ怪我をしないためにも、今回はストレッチについて紹介します。

 

ストレッチを行い、筋肉を伸ばすことで身体に良い影響を及ぼすことがいくつかあります。筋肉が固まっていると血管が圧迫され、血液の循環が滞ることになります。また、固まった筋肉によって神経が圧迫されて痛みを生じることがあります。肩こりもそうです。さらに股関節などが固まって身体がスムーズに動かないと、日常生活でのものの上げ下げの際に、本来なら身体全体に分散される負担が腰の一カ所に集中して腰痛を起こすということもあるのです。

 

ストレッチにより筋肉のこわばりが取れると、圧迫されていた血管が拡張し血液循環がスムーズになります。血液の流れが良くなるとコリだけでなく冷え性なども緩和され、日常生活が快適になるのです。

 

図さらに精神的にも、ストレッチの気持ち良さがリラックス効果をもたらし、質のよい睡眠とストレスの軽減をもたらしてくれます。また、筋肉のコリによって悪くなった姿勢も良くなります。パソコン作業などのデスクワークを長時間行っていると、肩や背中、腰などの筋肉が硬くなります。さらに続けると太腿の裏側の筋肉が硬くなり、この筋肉が縮むことで骨盤が引っ張られて後傾し、猫背気味の悪い姿勢になってしまいます。

 

こうした誰もが陥りがちな悪い姿勢を正すためにも、ストレッチで筋肉の柔軟性を高めることが大切です。

 

筋肉が柔軟になる仕組み

筋肉をストレッチで伸ばしても、それで筋肉が伸びっぱなしになるわけではありません。筋肉が伸びやすくなるのです。これは、材質として筋肉が伸びやすくなるという面と、力が抜けていわゆる脱力して伸びやすくなるという2つの側面があります。ストレッチを行うことで、筋肉の組織がそれに対応して一時的に柔軟性が向上するのですが、続けていくことで一時的な柔軟性が本質的に伸びやすい筋肉へと変化していくと考えられています。

 

ストレッチはいつやるのが効果的か

図運動の前にストレッチをすると良いというイメージがありますが、筋肉は暖まった状態のほうがよく伸びます。また、運動の後に溜まった乳酸を上手く流す効果も期待できるので、運動をして十分身体が暖まった後、クールダウンの一環として行うと身体の柔軟性を高めることができます。

 

さらに特別な運動をしない人、肩こりや腰痛を緩和したいという人は、お風呂上がりが最適です。お風呂で十分に筋肉が暖まったところで、気持ち良く感じる程度に筋肉を伸ばしましょう。

 

専門的に部位別に分けたストレッチの種類は1000以上あると言われますが、その中からここでお風呂上がりに布団の上で行うのに適した簡単なストレッチを数種類紹介します。

 

①肩と胸のストレッチ

できるだけ背中を真っすぐにして両手を伸ばす(10秒から20秒静止)

 

②肩の横側のストレッチ

肩にある三角筋を伸ばすストレッチ。肩の位置を動かさないように腕をクロスさせる。

(左右とも10秒から20秒静止)

 

③首横側のストレッチ

手を軽く添えて頭を横に傾ける。力を入れずに行うこと。(左右とも10秒から20秒静止)

 

④太腿内側と首と背中のストレッチ

足首を持って、足の裏を合わせる。背筋を伸ばすことで、首と背中もストレッチ。つま先を両手で持つようにすると更に効果的。(左右とも10秒から20秒静止)

 

⑤腿の内側と肩のストレッチ

④の姿勢から両膝に手を置いてさらに腿をストレッチし、肩を交互に顔の前にもってくると肩もストレッチできる。

 

⑥腰のストレッチ

左膝を立て右ひじで左膝を押しながら腰をひねる。顔を後ろに向けるように。(左右とも10秒から20秒静止)

 

ストレッチはスポーツクラブや公共施設での講習会、書籍やDVDなどでも紹介されています。運動の得手不得手や、年齢等にも関係なく誰でも自分に合った強度で行えますから、気軽にチャレンジしてみると良いでしょう。 

 

 

 

夏の落とし穴「夏太り」にご注意!!(2014年8月)

 

図1

今年の夏は、冷夏になる、いや昨年と同じように猛暑になる等と予想が錯綜しています。今のところいきなり梅雨が明けたため、暑さが酷く身体にこたえるという人も多いことでしょう。そこでビール党ならビールが、それ以外の人には、酎ハイや冷たい清涼飲料がとても美味しく感じられる日々を送っていることでしょう。

しかし、冷たい飲み物が内臓脂肪を増やす原因の一つだということをご存知ですか。「コールドドリンク症候群」と名付けて注意を促す医師もいます。暑さも本番を迎える季節に誰もが陥る危険がある甘い罠ならぬ「冷たい罠」、さらにそれがもたらす内臓脂肪について今回は触れてみましょう。

 

 

誰もが陥りやすい「コールドドリンク症候群」

どこにいっても自動販売機のある風景。外国人が日本を訪れたときその多さに驚くと言います。その状況を治安の良さという側面で引き合いに出す人もいますが、これは「コールドドリンク症候群」に拍車をかけているのです。さらに、コンビニエンス・ストアに入れば、冷たく美味しい新製品の数々。家に帰っても、冷蔵庫を開ければ冷たい缶ビールや清涼飲料があなたを待ち受けています。暑さから逃れたい一心でそれらについ手が伸びてしまうのも仕方のないこと。確かに冷たいものを飲むと体温が下がり、一時的に暑さから逃れることができます。

 

しかし、飲料することによりお腹を冷やすと身体はその冷えから脂肪で内臓を包んで守ろうとするのです。最後の氷河期に順応した人類が、生き延びるために獲得したのが、こうした脂肪を蓄える能力だったといわれます。見方を変えれば、太りやすい人というのは、環境に順応する能力の高い人ということになるわけです。

 

 

貯蓄型の「中性脂肪」、やりくり上手の「脂肪酸」

図2脂肪とは一体何なのかを確認しておきましょう。体内には、脂肪酸、中性脂肪、コレステロール、リン脂質の4種類の脂肪があります。このうち中性脂肪と呼ばれるものが、肉の切り身で目にするあの白い脂身の部分です。皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積される脂肪は、全て中性脂肪で、体内の脂肪の約90%を占めるとされています。この中性脂肪は、万が一に備えて貯蓄される脂肪の貯金です。しかし、度を越すと、肥満や健康を害する一因となります。

 

生きていくため一番に使われるエネルギーとして活用されているのが脂肪酸。中性脂肪と比べるとその割合は、ずっと少ないわけですが、やりくり上手の奥様のように出費をおさえて働いてくれるのです。また、脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、不飽和脂肪酸には、オレイン酸、リノール酸、EPA(エイコサペンタエン酸)など身体に良い働きをするとされる脂肪酸などがあります。

 

コレステロールは、筋肉や血液の中にありリン脂質とともに細胞膜を構成したり性ホルモンを作る大切な役割があり、大人の体内には、100グラムから150グラム程あるとされています。結合するたんぱく質の比重によりLDLコレステロール(悪玉コレステロール)とHDLコレステロール(善玉コレステロール)に分けられます。コレステロール値というとこれらを合わせた総コレステロール値を指します。

 

リン脂質は、先ほど触れたように細胞膜の構成成分で、水に溶けない中性脂肪を水に馴染ませ血液中に存在できるようにする働きがあるとされています。

 

体内に存在する4種類の脂肪はいずれも人が生きていく上で大切な役割を担っています。問題はその量なのです。人類が飢餓の時代を生き延びるために獲得した資質が、飽食の時代を迎えて健康を阻害するシステムとなってしまっているのです。

 

脂肪の蓄積システム

図3それでは、そうした脂肪の蓄積が行われる時、体内でどのようなシステムが働いているのか紹介しましょう。ご存知のように食べ物が体内に入ると胃や腸で消化が行われ、さまざまな栄養が吸収されます。ごはんや麺類、パンなどの多く含まれる炭水化物は、体内でブドウ糖になり、肝臓から血液中に送り込まれます。これが身体のエネルギーとなるわけですが、このブドウ糖の量が多くなると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、インスリンはブドウ糖をエネルギーとして活用するために働きます。また、余ったブドウ糖を中性脂肪に変えて脂肪細胞に取り込む働きもします。

 

このエネルギーの活用と、貯蔵のバランスがとれているうちは、もちろん人は肥満になることはありません。過食や摂取したエネルギーに見合うだけの運動がなされない状態が続くと、貯蔵庫に脂肪が貯められていきます。身体は、そのうちやってくるかもしれない飢餓に対して生き延びるためのシステムとして中性脂肪に変えたエネルギーを蓄える訳です。これも、人によりますが、体脂肪率で25%まではそれほど問題ではなく、むしろ正常な機能が働いていると考えて良いでしょう。しかし、それを超えて過食や運動不足が続くとインスリンの効き目が悪くなる「インスリン抵抗性」を招き、体脂肪の蓄積が加速される事態になります。

 

大人であれば250億から300億の脂肪細胞が全身に分布しています。昔は、脂肪細胞の数は増えず、一つひとつの脂肪細胞が肥大化して肥満すると言われていましたが、その後の研究で脂肪の蓄積が進むと脂肪細胞も分裂をして、その数が増えるということが明らかになっています。一方で一つの脂肪細胞が米粒や小豆の大きさにまで肥大した例が見つかっています。これは肥満が進んだ結果、脂肪細胞が老化して細胞分裂の力を失い以上に肥大化してしまったものと考えられています。こうなるとそれを元に戻すのは大変。簡単には脂肪が落ちなくなってしまいます。

 

また、脂肪細胞が持つもう一つの大切な働きも失われてしまいます。これは、脂肪細胞が満腹中枢を刺激して過食を制御するためのレプチンというホルモンを出しているというのが近年の研究で分かってきたのですが、細胞の老化はこうした機能を阻害してしまうと考えられます。

 

内臓脂肪を減らす生活習慣の改善

体内に蓄えられる脂肪は、皮下脂肪と内臓脂肪とに分かれますが、生活習慣病のリスクを高めるのが内臓脂肪です。動脈硬化を促進し、血圧を上げ、狭心症や心筋梗塞、脳出血や脳梗塞など命に関わる重大な病気を引き起こす原因にもなるのです。また、インスリンの働きを妨げ高血糖状態を招き易くし、糖尿病を発症させる要因にもなると考えられます。

 

この問題の内臓脂肪を減らすには、どうしたら良いでしょうか。まず、内臓脂肪を溜め込みやすいといわれる生活習慣を見てみましょう。

 

図4[問題のある悪生活習慣]
 ①食事は必ず満腹になるまで食べる
 ②早食いでよくかまないで食べる
 ③朝食抜きが多く、夕食が遅い
 ④寝る前に何か食べる習慣がある
 ⑤宴会が多く、お酒を飲むと食べ過ぎてしまう
 ⑥冷たい飲み物をよく飲む
 ⑦揚げ物などが好きだ
 ⑧テレビを見ながらだらだら食べるのが好きだ
 ⑨運動するのが苦手だ

 

まずは、問題のある生活習慣をあらためるところからスタートしてください。

 

筋肉痛はなぜ起きるのか(2014年7月)

 

図

若い時と比べて筋肉痛が遅れてやってきた。これは身体が老化したサインと思われる人も多いはず。しかし筋肉痛の原因は、諸説ありまだハッキリとわかっているわけではありません。自分の筋力の許容範囲を超えた運動が、筋繊維や周辺の結合組織を傷つけ、その修復が行われるときに痛みを覚えるという説が有力なようですが、そうしたメカニズムについて完全に解明されているわけではありません。今回はこの筋肉痛に関して、取り上げてみたいと思います。

 

 

筋肉痛はなぜ起きるのか

筋肉痛は、「運動により筋肉繊維が傷ついて痛みを感じる」ものというイメージがありますが、実は痛みを感じる神経はこの筋繊維にはつながっていません。筋肉は筋繊維とそれを覆う形の筋膜とで出来上がっていますが、神経はこの筋膜に繋がっているのです。筋膜というのは、脳の司令で動かすことができない部分で、皆さんが自分の意志で動かすことができる筋肉というイメージとは異なる部分です。では、なぜ筋肉痛を感じるのでしょうか。

 

一つの説として、運動強度が一定の限界を超えると筋繊維が傷つき、それを修復しようと血液成分が働き始めたときに痛みを起こす刺激物質が生産され、それを筋膜を経て神経が感じ取ってしまうと言われています。加齢などで、血流が悪くなり、この刺激物質が生産されるところまで時間がかかった場合、痛みが発生するのも遅れることになります。これが、年齢とともに筋肉痛が遅れてやってくる原因の一つと考えることができるかもしれません。

 

また、筋肉痛は、筋肉を縮める動きより、筋肉を伸ばす動きを途中で止める運動によって引き起こされるといわれます。階段を上る動きより階段を下りるときに使われる脚の前面の筋肉の動きが痛みを引き起こします。階段を上るときは、脚の前面の筋肉が縮まり後ろの筋肉が伸びて身体を持ち上げます。反対に階段を下りるときには、脚の裏側の筋肉が縮み、脚の前面の筋肉が体重を支えるために伸びる途中で力が入ります。

 

登山などで経験される方も多いかもしれませんが、登りより下山の時に使った脚の前面や膝の周辺の筋肉が翌日から二日後にかけて痛みを感じるものです。

 

筋肉痛を治すには

図筋肉痛は、その痛む筋肉をこれ以上酷使するなというサイン、身体の防衛機能という側面もあります。まず、睡眠によって回復を図ることが大切で、特に筋肉の修復をするために大切な働きをする成長ホルモンが多く分泌される夜10時から朝の2時までの睡眠のゴールデンタイムと言われる時間帯はしっかりと寝るようにします。

 

また、先ほども触れたように、筋肉痛は痛みを起こす刺激物質が関与していると考えられますので、この刺激物質を早く身体の外に出してしまうという方法が有効な手段ということになります。そのために必要なのが血流の確保。しかし、痛みが血流を阻害してしまうこともあるのです。

 

痛みを感じるとその部位の筋肉は、硬くなります。筋肉が硬くなるとそこに通う血管も圧迫されて血流が悪くなるのです。まずは、この筋肉を緩めることを考えましょう。

 

筋肉はある程度伸ばすことで、緩めることができます。無理をしない程度にストレッチを行います。できるだけゆっくりと伸ばしてください。反動を付けることは厳禁です。脚の前面が痛むのであれば、膝を折って足の土踏まずの部分にお尻を乗せるようにして伸ばします。痛むところを伸ばすのですから、少々辛いですが、我慢してゆっくりストレッチすると後で楽になります。同時に脚の裏側も伸ばしておきましょう。 

 

図運動した後、痛みが起きる前にストレッチを行う習慣をつけると、痛みを軽減することができます。また、運動前にウォーミングアップを十分にして、ストレッチも行うようにすれば、なお効果的です。

 

また、筋肉痛のときには、栄養補給も大切です。痛んだ筋肉を補修するためとタンパク質だけをとればよいというわけではありません。炭水化物や脂質も同時にバランス良く摂るようにしましょう。必要な炭水化物を摂らないと、身体は筋肉を分解してそこから栄養素を取り出そうとします。これでは痛んだ筋肉の修復どころではなくなってしまいます。

 

しっかりとした食事にとりかかるには時間がかかりますから、その前に栄養補助食品等を利用するというのも筋肉痛対策として効果的です。運動直後にアミノ酸を補給し、溜まった乳酸を分解するクエン酸が摂れるレモン、疲れていても喉を通り易いバナナなどを摂るというのも良いでしょう。

 

また、筋肉痛は痛むからとじっとしているより、ウォーキングなどの軽い運動を行った方が早く回復します。これも軽い運動が血行を改善してくれるからです。水泳や水中ウォーキングも効果的です。水中で動くことで適度に水が身体をマッサージしてくれるので、回復を早めてくれます。

 

筋肉痛を防ぐには

図筋肉痛は、運動不足の証明でもあります。毎週末に山に行っているような人は、登山での筋肉痛とは無縁です。同じ筋肉であれば日頃十分刺激を与えておけば筋肉痛になることはありません。しかし、そうした運動習慣があっても、新たなスポーツやフォームに挑戦して、それまであまり稼働させていなかった筋肉を動員するとやはり痛みは起こります。それでも運動習慣のある人は、比較的軽くて済むのです。これは、運動習慣によって血管や心臓の機能が正常に保たれ、全身の血流が良くなるという運動効果の現れです。

 

運動習慣のない人は、無理のないペースで歩くということが、基本になりますが、夏の暑い時間帯のウォーキングはオススメできません。できるだけ朝早い時間帯、涼しいうちに行いましょう。

熱中症の予防と対策(2014年6月)

イラスト

 

毎年この季節になると、必ず話題になる脱水症状や熱中症。近年では家の中にいても熱中症の危険があると言われています。昨年も猛暑日が続きました。特に幼児や、危険な症状を認識しにくい高齢者には注意が必要です。今回は、この脱水症状や熱中症の予防についてご紹介します。

 

 

人間のカラダは水でできている!?

人間の身体に占める水の割合はどのくらいなのかご存知ですか?実は胎児は身体の約90%が水でできています。新生児で約75%、子供で約70%、成人では約60~65%と言われ、これが老人になると50~55%にまで下がります。

 

これは、老化現象の一つで細胞内の水分の低下が原因とされています。また、成人になって水分の割合が低くなる原因の一つは、体脂肪率の増加にあります。そのため、女性の方が水分量の割合が低い傾向にあるとされます。

イラスト

 

この水分量がどれだけ、私たちの生存にとって大切かというと、体重の約2%の水分が失われただけで、喉や口が渇き食欲が減退するなどの不快感に襲われます。約6%が不足すると眠気や頭痛、脱力感が生じ、約10%が不足すると循環不全、腎不全、筋肉の痙攣などの症状を起こし、それ以上不足すると意識を失い、約20%が不足すると死に至ることになります。

 

私たちの身体の水分は、約100兆個もある細胞内に3分の2、残りは細胞と細胞の間にある細胞間液と血液中にあります。生命を維持するために大切な役割を果たしているわけです。

 

水分不足がもたらすさまざまな危険

炎天下のスポーツやイベントなどで、脱水症状を起こし倒れた人が病院に搬入されるというニュースが毎年聞かれます。本来人間がもっている体温調節機能が働かない状態になったときに、熱中症に陥ってしまいます。熱中症と総称される日射病や熱射病で死亡者がでる程深刻な状態になることもあります。

 

日射病は全身の倦怠感、吐き気、欠伸から始まって、酷くなると頭痛や意識障害まで引き起こします。炎天下で激しい運動などをしたときに、汗を大量にかいて身体の中の水分が不足すると心臓に戻る血液の量が減ってしまい、脱水状態に近づくと意識を失います。そのまま死亡することもあるのです。

 

また、熱射病とされるのは高温多湿の状況で長時間身体を動かしたとき、大量の汗とともに体内の塩分や水分が流失し、体温の調節が効かなくなって起こる症状です。温度を感じ取る力が衰え、高い室温に気付かない高齢者が、室内でこの熱射病の症状を起こすということもあるのです。

 

それ以外に、熱失神と呼ばれるのは、暑さで血管が拡張して血圧が下がり、めまいや失神が起こる状態。熱けいれんと呼ばれるのは、大量の発汗で汗とともに塩分が体外に流出し、血液中の塩分濃度が低くなっておこる筋肉のけいれん。熱疲労というのは、大量の発汗で脱水症状を起こし、倦怠感やめまい、頭痛、脱力感、吐き気などを起こすものです。

 

最高気温が30度を超えると、こうした症状の重くなる人が増え、さらに気温が上がると死亡者数も急激に増える傾向にあります。

 

熱中症を防ぐには

イラスト炎天下での長時間の活動は、避けてください。亜熱帯化が進んでいると言われる日本では、最近35度を超える気温になることもあります。ご存知のようにこの気温35度というのは、日差しを遮ったところで計る温度です。アスファルトなどの照り返しを受ける炎天下の道路などは、さらに高い温度になっているのです。

 

また、熱中症は気温が上がる10時から16時の間に多く発生していますが、幼児や高齢者は、これ以外の時間でも十分注意しましょう。服装も大切です。発汗性や吸湿性、通気性の良い素材の服を身に着け、屋外ではつばのある帽子を着用します。

 

暑い時間帯は、全国で電気の使用量が急激に増え、節電が望ましいとされますが、健康を害しては何もなりません。エアコンと扇風機、窓の開け閉めによる上手な換気などを心がけて熱中症を予防しましょう。特に幼児や高齢者には、保護者や周囲の人が十分配慮することが大切です。

 

熱中症の対処

イラスト先ほど紹介した「熱けいれん」の場合は、けいれんしている箇所を軽く伸ばし、マッサージをします。また、「熱疲労」の場合は、心臓よりも足を高くして仰向けに涼しいところに寝かせます。スポーツ飲料を少しずつ飲ませましょう。

 

「熱射病」の場合は、身体の下に当て物などをして、上半身をすこし立てて涼しいところに寝かせ身体を冷やします。首や、脇の下、足の付け根などにビニール袋に氷水を入れたものをあてます。身体の表面を冷やすことが大切です。

 

また、熱中症が重篤な状態で意識がはっきりしないような場合は、すぐに救急車を呼びます。車が到着するまで、吐いた場合に気管を詰まらせてないように、涼しいところに横向きに寝かせます。
熱中症は、回復したと思っても一度病院で診察してもらうようにしましょう。