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突然死の予防にはメディカルチェックを(2013年6月)

 

     
 
6月のテーマ:
突然死の予防にはメディカルチェックを

 トライアスロンという競技をご存知でしょうか。水泳・自転車ロードレース・長距離走の3種目を一人で連続して行う耐久競技で、有名なのはハワイのアイアンマンレースです。高い温度と湿度、強い向かい風という過酷な条件にもかかわらず、最高峰のトライアスロンとしてアスリート垂涎の大会となっています。

国内でも、約40もの大会が開催されていますが、申し込みが殺到してエントリーするのさえ難しい状況にあります。ある人が大会に出場して完走できたら、死んでも良いと大会関係者に冗談半分に話したところ、この関係者は烈火の如く怒ったと言います。ボランティアスタッフを含め大会運営の関係者は事故が起こらないよう、安全な大会の運営のために寝る間も惜しんで努力をしているからです。

しかし、そうした関係者の努力にもかかわらず、今年4月に行われた石垣島トライアスロンで、40代の男性が水泳の競技中に亡くなりました。これまでも競技中の死亡事故があり、その度にウエットスーツの着用などルールの変更が行われてきました。それでも大自然の中での過酷なレースには、事故など外的な要因で起こるケガや、突然死のような内的な要因で起こる死亡のリスクは存在します。前置きが長くなりましたが、今回は、トライアスロンばかりでなく、マラソンやサッカーなど、激しいスポーツに限らず、ゴルフやジョギングなど比較的軽い運動中にも起こる突然死の原因とその予防について紹介します。

 
     

 

「突然死」の原因
 

  屈強なJリーガーがサッカーの練習中に突然倒れ、急性心筋梗塞で死亡したということを覚えている方も多いのではないでしょうか。突然死とされるものには、心機能に起因するもの、脳梗塞や脳出血によるもの、呼吸系に起因する窒息死、原因のわからないものもありますが、心機能に由来する循環器疾患によるものが全体の6割以上と多くを占めています。

 この心機能に由来する突然死を心臓突然死と呼びますが、健康になろうとして行う運動にもその危険は潜んでいるのです。血液は、身体中の毛細血管から集められ、静脈に入り上下の大動脈から右側の心房、右側の心室、肺、左側の心房、左側の心室、大動脈、動脈、毛細血管という順路で流れていきます。もし心臓に血液を送る冠動脈に障害が起き、左側の心室の心筋が動かなくなると血液が、左側の心室でせき止められた状態に陥ります。このときに運動によってさらに心臓に負荷をかけると肺は鬱血状態になり、心臓は疲労し不整脈を起こします。これが心臓突然死の引き金となるわけです。

心筋梗塞で不整脈を起こした場合は、心臓に栄養と酸素を送る冠動脈の動脈硬化が進行し血管の内側が狭くなります。その狭くなった部分に血栓という血の固まりが詰まると致死的な不整脈である心室細動が起こり、心室筋が適切に動くことができなくなってしまい心臓は血液を送り出す機能を失います。脳に行く血液も止まり死に至ることになります。こうした心臓突然死は、年間約5万人と言われ、この心筋梗塞によるものが最も多いとされています。

   
スポーツと突然死
 

 ここ20年間に開催された国内のマラソン大会で、120名を超える方が主に急性心筋梗塞が原因で亡くなっています。マラソンで急性心筋梗塞を起こすことが最も多いのは、ゴール直前とゴール直後で約7割の人がここで倒れています。ゴールが見えたところで、無理をしてきた身体に最後のムチを入れてしまったことが考えられます。どんなに無理をしないように自分に言い聞かせても、長い間準備をして臨んだ大会で、最後に頑張ってしまう自分を止めることは難しいに違いありません。しかし、競技の途中で胸に痛みを感じたとき、それが心臓へ送られる血液が不足しているということを知っていれば自重できるはずです。まず、こうした突然の不調が自分にも起こりうるということを認識することが大切です。

 こうした運動中の突然死の大多数が、これまでの研究では心疾患に由来する循環器系の病変が占めているということが明らかにされています。つまり、こうした病変を運動前のメディカルチェックで見つけることができれば、多くの突然死は防げるということです。

 40歳を過ぎると喫煙、飲酒、過食、疲労の蓄積などから、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病を発生し、動脈硬化の進行に伴い心臓に栄養を送る冠動脈が狭くなっていることが少なくありません。自覚症状としては、締め付けられるような胸の痛みや圧迫感、冷や汗、息が苦しいなどです。

運動を始める動機が、こうした自覚症状により体質改善を目指して、いわゆるメタボリックシンドロームから脱出したいというものである場合、すでに心臓血管系に病変があれば、それが命取りになることもあるのです。まず、医療機関で適切な検査を行うことをお勧めします。

 心臓血管系のメディカルチェックには、通常の血液・尿検査に始まり胸部X線、安静時心電図、運動負荷心電図、ホルター心電図などの検査を含め10数項目のチェックが用いられます。一例としては、病気の既往症や家族歴、自覚症状の有無などの問診、聴診、触診の後に血液検査と尿検査を行います。心臓超音波検診で心臓の形態的異常の有無の確認し、無ければ自転車エルゴメーターなどを使って運動負荷テストを行います。ホルター心電図を24時間つけてもらいその記録をチェックすることもあります。呼吸器系の病気が疑われる場合は、呼吸器検査を行うなどの必要が生じます。これらの検査は別に痛い思いをするわけでもないので、身構える必要はありません。 

継続的にレースなどに参加していて、これまで何のトラブルも感じていないという人も、一度チェックしておくことが突然死を免れるためには大切です。

 古代エジプトでは、非常に勇敢な人には実際に心臓に毛が生えていると信じられていて、尊崇の対象だったといいます。確かに現代でも心臓が健康的で強いのであれば羨ましい限りですが、心臓に毛が生えているという表現は尊敬を集めることとは別の意味になってしまったようです。

   
   

 

成長期の子供が、スポーツでケガをしないための予防と対策(2013年5月)

 

     
 
5月のテーマ:
成長期の子供が、スポーツでケガをしないための予防と対策

 平成24年度から中学校で武道教育が必修となりました。学校が柔道、剣道、相撲の中からどれかを選択するというものですが、比較的用具の費用負担が少ない柔道を選択する学校が多かったようです。しかし、読売新聞社の調べによると昨年度は北海道だけで、12名の生徒が柔道の受け身などの練習中に骨折しています。

正しい受け身を身に付けておくことはたいへん役に立ちますが、成長期の子供の身体の特性を理解した指導でなければ、逆効果になってしまいます。とくに中学生ぐらいの年頃は、背丈が急激に伸びるため、骨折等の障害を起こしやすい時期でもあります。今回はこうしたスポーツ時のケガや障害について、その予防と対策についてご紹介します。

 
     

 

成長期の子供には特に注意を!
 

 強い外力によって突然起こる骨折などのケガと、繰り返される小さな損傷が積み重なって慢性的に発症する障害があります。この障害には、疲労骨折なども含まれます。運動による刺激が生理的な許容範囲であれば、筋肉や神経、血管などの器官は、発達しその運動への適応力が強化されていきます。しかし、この刺激の強度が生理的許容範囲を超えてしまうと、ケガや障害を起こすリスクが高まります。成長期はこの許容範囲が狭い時期にあたるため、よりケガや障害が発生しやすくなると考えられます。

個人差もありますが、平均的に女子が10歳前後、男子は12歳前後が年間における身長の伸びが最も大きな年齢です。身長の伸びが著しいということは、骨が折れやすいもろい時期でもあり、骨の成長に関係する骨端軟骨に起こる障害も多いのです。大きすぎる負荷や生理的許容範囲を超えた激しいトレーニングを続けると、この骨端軟骨がつぶれてしまう可能性があり、骨が十分に成長できなくなってしまうことも考えられます。骨端軟骨は成長軟骨とも言われ、手足の関節に近い所にあって骨の成長をつかさどっています。寝ている間に分泌される成長ホルモンやビタミンなどが影響して成長を促すという「寝る子は育つ」ということわざ通りの働きをする大切な器官なのです。

重い器具を利用したウェイトトレーニングも、この時期に行ってはいけない運動です。筋肉トレーニングは、第2次性徴期に入る16歳から17歳以降に行うなど、子供の運動には、保護者や指導者は十分に注意し、将来に障害を残さないように留意しなければなりません。

熱中症も含まれますが全国の学校における負傷のデータによると、平成22年度の負傷件数は約105万件で、児童・生徒数からみると約8%の発生率ということになります。負傷している箇所は、小学生では顔や頭、腕などに多く、中学生になると顔や頭よりも足腰の負傷が増え、高校生ではさらに足腰の負傷が増えていきます。これらの負傷が繰り返されると、スポーツ障害という故障を引き起こしてしまいます。

   
主なスポーツ障害
 
野球肩
 

 肩の傷害で多い肩関節の脱臼や亜脱臼は、高校生以上に見られるもので、中学生以下ではリトルリーグショルダーと呼ばれるピッチャーによく起こる肩痛があります。リトルリーグで使用する硬式ボールは重く、子供の柔らかい骨には負担が大き過ぎると考えられます。上腕部の肩関節に近い部位の骨端軟骨に障害が起こり、ひどい場合は骨端線難開を生じます。レントゲン写真で骨端部の開大が見られる場合は、数ヶ月の完全な安静が必要になる場合もあります。

水泳肩
 

 ストローク動作の繰り返しで、靭帯が骨をこするために痛みが出ます。早めの治療を行なえば、手術せずに問題なく治す事ができます。

野球肘
 

 投球により生じる肘の痛み全般をさします。ピッチャーに圧倒的に多いもので、全力で投げる事で肘に負担がかかり、骨、軟骨、靭帯に損傷が起こります。指導者は、肘関節の動きの悪い子供にはすぐに投球を禁止し、整形外科の診察を受けさせないと症状は悪化し選手生命を奪う事になるということを肝に銘じなければなりません。

オスグッド・シュラッテル病
 

 成長期に最も多い痛みで、飛び跳ねる動作を伴う激しい運動で膝の下の少し出っ張ったところに痛みを感じます。骨としてはとても弱い箇所なので、少し休んでも痛みが引かない場合は治療が必要になります。

   
予防に大切なのは
 

 スポーツ障害を予防するには、一人ひとりの発育状況を見極めた指導が行われることが大切です。筋力が不足していたり、柔軟性が低下している子供にとっては、運動そのものが負担になり疲労が蓄積して障害を起こす原因の一つとなってしまいます。

指導者は、子供の動きをよく観察し、痛みを訴えてくる前に問題に気づくようにするのが理想です。もちろん適切な治療と安静、ケガ直後のアイシングなども大切ですが、ケガの発生要因を前もって知っておくことが、特に成長期においてはスポーツでケガや障害を予防することにつながります。

   
   

 

中高年に必要な筋力トレーニングとは(2013年4月)

 

     
 
4月のテーマ:
中高年に必要な筋力トレーニングとは

 冬の間はじっと家に閉じこもっていても、暖かくなると誰もが身体を動かしたくなるものです。中高年のマラソンやジョギングのブームもあり、身体に良いとされる有酸素運動を毎日のように行っている人も多いことでしょう。

この身体に良いとされる有酸素運動で鍛えられる筋肉は、遅筋繊維と呼ばれるものです。筋肉には、この他に瞬発的な動きに重要な役割を果たす速筋繊維と呼ばれるものがあります。では、中高年にとってこの速筋繊維を鍛えるようなトレーニングは必要ないのでしょうか。今回はこの筋肉トレーニングがテーマです。

 
     

 

 

 Aさんは、三人のお子さんを持つお父さんです。上の二人のお子さんと公園で遊ぶのは楽しかったのに、三人目の時は身体がついていかなかったと言います。子供は、少しもじっとしていないもの。何かに興味を引かれると、急に飛び出してしまいます。Aさんは二人目までは余裕でそうした動きについていくことができたのに、少し年齢の離れた三人目のお子さんの動きには対応できなかったそうです。

あるとき、公園で走ってきた自転車に向かって飛び出した子どもを止めようと、急にダッシュしたAさんは、アキレス腱を断裂する大ケガをしてしまったのです。急に走り出したり、走っている方向を急に変える動きには、速筋繊維が主に使われます。この速筋繊維は、遅筋繊維に比べて加齢とともに萎縮し、なくなってしまう性質が強いものです。40歳を過ぎると筋肉の筋繊維数が減少し、筋繊維の消失現象が起こりますが、特に失われるのがこの速筋繊維なのです。Aさんは、普段健康のためにジョギングなどをしていたのですが、この速筋繊維がいつのまにか萎縮していて、急な動きで過度に負担のかかった筋繊維が切れてしまったのです。

ジョギングを趣味にしている人に、「長く走るのは得意、フルマラソンもタイムは遅いけれども必ず完走します。でも速く走るのは苦しくて無理」という人は意外に多いものです。これは遅筋繊維が鍛えられていて持続力はあっても、速筋繊維は萎縮してしまって力がでない筋肉に変わっているからです。速筋繊維は、それを意識した筋力トレーニングを行わなければ、維持できないものなのです。

速筋繊維は中高年であってもトレーニングで強化することができます。最近の研究では、90歳を超えた高齢者でも負荷をかけた筋肉トレーニングで、筋力が高まることが実証されています。ただし、中高年の筋力トレーニングを、安全に効果的に行うには、きちんとした指導者のいる施設を利用したほうが良いでしょう。

   
中高年の筋力トレーニングはこの点に注意
 

 まず注意しなければならないのは、過度の血圧上昇です。息を止めて力を入れると血圧が上がって危険な状態になることがあります。息を止めて力むと収縮期の血圧が300mmHg、拡張期の血圧が200mmHgといった状態になることもあるからです。最近は、洋式便器の普及で少なくなったと言われる脳出血。昔は寒い時期に和式便器で踏ん張ったときに倒れるということがよくありました。息を止めて力むとこれと同じ状況を引き起こすことになります。

これは息を止めると胸腔内圧が上がって血流を阻害し、血圧を上げてしまうのが原因と考えられます。胸腔内圧を上げないようにするには、トレーニング時に、必ず息を吐きながら筋肉に負荷をかけること、これだけで血圧を上げすぎる危険を回避できるのです。

また、筋肉に負荷をかけるウェイトリフティングなどを習慣的に行っていると、一般の健常者と比較して動脈伸展性が低くなるという報告があります。この動脈伸展性が低下すると収縮期の血圧が上昇します。逆に、ジョギングなどの有酸素運動を日常的にしている人は動脈伸展性が高いと報告されています。

つまり、中高年の筋肉トレーニングはいざというときの瞬発力の維持には必要ですが、その筋力トレーニングで血圧を上げないようにするために、同時に有酸素運動を習慣化することが大切だということです。

   
トレーニング効果は、どのくらい続くのか
 

 こうしたトレーニングは少なくとも2ヶ月程度は継続しないと効果が現れてきません。しかし、風邪を引いたり、仕事が忙しくなったりといった理由でトレーニングを休み、そのまま止めてしまうことはないでしょうか。

そうした場合、トレーニング効果はどのくらい続くものかご存知ですか。有酸素トレーニングを行うと最大酸素摂取量が増加しますが、ある検証によるとトレーニングで増加した最大酸素摂取量は、3~4週間程でトレーニング前に戻るという結果が確認されました。このことから、トレーニングで増加した筋力も3~4週間で元に戻ると考えられます。これが高齢になるとさらに低下率が増加すると言われています。

やはり、「継続こそ力なり」で、継続する工夫こそが大切だということになります。春に始めた物事は長続きすると言われますが、さらに年齢と経験を重ねた中高年には、若い人にはない知恵と自分を知っているという強みがあります。どうすれば自分のモチベーションを楽しく維持できるか、己の性格に合った方法を探し出せるのか、必ず見つけることができるではないでしょうか。

飛び越せると思った水たまりが越えられなかったり、ちょっとしたつまずきで、身体が支えられずに転んでしまうなどということにならないように、筋肉トレーニングと有酸素運動、この二つをバランスよく日常生活に取り入れることができれば、あなたはよりアクティブに人生を楽しむことができるでしょう。

   
   

 

食後にすぐ横になるのは良い? それとも悪い?(2013年3月)

 

     
 
3月のテーマ:
食後にすぐ横になるのは良い?

それとも悪い?

 昔から「食事をしたあとで、すぐ横になると牛なる」とよく言われたものです。子ども心に、牛のような姿にはなりたくない、お腹いっぱいものを食べて、ごろごろしている怠け者にはなりたくないと考えた人もいたことでしょう。

主に、行儀の悪さを戒めた躾だったわけですが、同時に、そこには食事後にすぐ横になってはいけないという健康のための古人の知恵が秘められていたようにも思います。

一方で、ある剣豪小説に、若い武芸者が食べたものを効率よく消化して身体の栄養とするため、食事の後に真上を向いて静かに横たわることを日課にしているという場面がでてきたりします。

実は、消化という作業は、生き物にとって大変な力仕事なのです。元々固体であったものを噛み砕いて、消化液で溶かし、さらに酵素で分解し、血管を通れる栄養素にするという作業を驚くほど短時間でやってのけているのです。身体の血液を消化のために内蔵、消化器官に集中するために静かに横になるというのも合理的に思えます。さて、身体にとって食後にすぐ横になった方が良いか、ならない方がよいのか、今回はこのことをテーマとしてみました。

 
     

 

逆流性食道炎について
 

 
逆流性食道炎とは、食べ物を消化するための胃酸や十二指腸液が、食道に逆流することで食道の粘膜にびらんや炎症を引き起こす疾患名で、食後すぐに横になることが、この病気の要因の一つとされています。

食後にすぐ横になってはいけないという古人の教えは、この疾患に対する戒めだったのでしょうか。では、少しこの疾患について説明しましょう。

逆流性食道炎の症状としては、胸焼けがしてみぞおちのあたりに痛みがあったり、食事中や食後に横になると喉や口の中に胃酸が逆流して酸っぱいものがこみ上げてきたりします。胸のあたりに違和感・不快感があったり、腹部に膨満感があるという症状もあります。

また喉に違和感があったり、声がかすれる場合があります。食べ物が食道を通るときに痛みを伴うこともあります。怖いのは、就寝中に逆流物が気道にはいり、呼吸器疾患を起こすことです。

要因としては、ストレスや暴飲暴食、喫煙、飲酒。噴門とも呼ばれる食道下部括約筋の弛緩や喫煙や加齢による機能低下。食道裂孔ヘルニアという胃の一部が胸腔内に入り込んでしまう病気。妊娠、肥満、便秘、運動による腹圧の上昇、消化不良などとされていますが、一般的には「高齢化などによる噴門の機能低下」が最大要因として知られています。

食べ物を消化するための胃液は、一日に1.5?2リットルも分泌されます。この強い酸である胃液への耐性が弱い食道に胃液が逆流しないように蓋をしているのが噴門と呼ばれる部位です。この噴門が緩んでしまうと食べ物が逆流してしまうのです。

噴門の機能低下は、高齢化ばかりでなく、一回の食事量が多すぎたり、食の欧米化で油分の多い食事ばかり摂りすぎると下部食道括約筋の締まりが弱まり、噴門が開きやすくなってしまうのです。最近、若い人にもこの疾患が増えているのは、この食習慣の欧米化や遅い時間の食事、肥満により脂肪で胃を圧迫するなどの原因が考えられます。これらの原因に、食後すぐに横になる習慣が重なるとリスクが高まると考えて良いでしょう。

次にその予防と治療について紹介します。

 前述のような症状が気になり、肥満している場合は、医師に相談して体質改善と減量を行うこと、生活習慣を改善することが何より大切です。辛いものや脂っこいものを好んで食べたり、遅い時間の食事は消化系に様々な負担をかけます。

治療は、生活改善とともに薬物治療を行います。症状の緩和には食道を刺激する胃液の産生を抑制する薬物を使用します。薬物での治療は中断すると発症時と同じような症状になることが多いので、症状の進行状況をみながら治療薬の増減を行います。

治療薬は、胃酸の分泌抑制剤や消化管運動機能改善剤、胃酸の濃度を中和する制酸剤などを使用します。こうした薬による治療の効果が現れない場合や、食道狭窄などによる出血があるときや食道裂孔ヘルニアが確認されたときは、外科治療を行うこともあります。

手術は機能が低下した噴門や下部食道括約筋の修復や食道裂孔ヘルニアによる裂孔した横隔膜の縫合などを行います。また、高齢者の場合、加齢により緩くなってしまった食道裂孔の縫合などを行う噴門形成術を行うこともあります。

   
食後の安静
  食後に横になって安静にするのは、高齢者の場合上半身は起こした状態で安静にするというのがベストでしょう。この姿勢であれば逆流性食道炎の予防にもなります。もう一つ肝臓という臓器にとっても食後の安静は大切だということも説明しておきましょう。

肝臓には胃や腸で栄養を吸収した血液が集まってきます。この血液が肝臓の中を通過するときに肝臓に栄養が吸収されます。この血液の量が横になると立っているときの2倍から4倍になるといわれます。食後に30分から1時間ごろ寝をすると栄養たっぷりの血液が肝臓に集まり、慢性肝炎などの肝臓病がある人に良いだけでなく、肝臓病を未然に防ぐ効果も期待できます。腹八分目に和食をいただいて、食後にクッションを背に長椅子にゴロンと横になるというのは最高の贅沢かもしれません。

 

とても大切な「腸の健康」(2013年2月)

 

     
 
2月のテーマ:
とても大切な「腸の健康」

 腸には、栄養となるものから有害な細菌まで、食事をすることで様々なものが入ってきます。その物質を判断して、体内に取り入れたり排泄する役割があります。その他にも、脳内の神経伝達物質として大切な役割を果たすセロトニンの95%を腸が作っているとされています。このようなことから、腸は第二の脳とも呼ばれたりします。緊張してお腹が痛くなったという経験のある方も多いと思いますが、これは脳の緊張が、ダイレクトに腸の活動に影響を与えるためで、脳との密接な関係があります。

さらに大切なのが、免疫機能。腸の粘膜の表面積は、人間の皮膚の約200倍もあるとされますが、外界に接している皮膚が、ウィルスや細菌などにさらされているように、腸は口から入る物によって、皮膚の約200倍もウィルスや細菌にさらされていることになるのです。栄養分を吸収しながら細菌やウィルスは体外に排出しなければならない腸は、その役割りを果たすために人間の身体の免疫システムの70%が集まっていると言われます。この大切な腸の健康について今回は、取り上げてみたいと思います。

 
     

 

日本人の腸の特徴と食べ物の関係
   日本人と欧米人で、決定的に違うのが腸の長さです。日本人の腸は、欧米人の1.5倍もの長さがあると言われます。その理由は、これまでの食生活の違いによるものです。野菜や穀物を主食としてきた日本人は、栄養分をできるだけ多く身体に取り込むために、長い腸が必要だったとされます。一方、欧米人は、腸内に長く留めると腐敗し有害物質の生じる肉類や脂肪分の摂取が多く、腸を短くして出来るだけ早く排泄しようとしたためだと考えられています。

腸の役割は、主に栄養分を吸収する小腸と、小腸で吸収しきれなかった食べ物のカスや水分を吸収する大腸とに分かれています。この小腸の長さは、約6メートル、大腸の長さは約1.5メートル。食べ物のカスは、大腸で吸収され、最後に残ったものが便として排泄されるのですが、便秘になるとこの便が腸内に長い時間留まり腐敗が進み、これが長い時間腸の粘膜に触れ続けるとガンなどを引き起こす可能性があります。
日本人の食生活が欧米化した結果、1950年から2000年までの50年間で、日本人の大腸がん患者が約10倍にもなりました。がん細胞は、正常な人でも毎日3000個から4000個は発生すると言われていますが、このほとんどが腸の粘膜で発生し、これを免疫細胞が攻撃し、排除するという作業を繰り返しているのです。この大切な腸を元気に保つために最も大切なのが、腸の中の細菌のバランス。腸内の細菌のバランスは、病気の予防だけでなく老化の防止などにも大切だということが分かってきました。

   

腸内環境が大切

   腸の中には100兆個もの細菌が住みついています。その種類は約500種類。みなさんも良く知っている「乳酸菌」に代表される「善玉菌」と呼ばれる菌、これに対して身体に悪さをするのが「悪玉菌」。そして腸内の環境によって「善玉菌」にも「悪玉菌」にもなるという「日和見菌」という3種類に分類されます。健康な人の腸内は、この「善玉菌」と「悪玉菌」のバランスがうまく保たれています。

それぞれの菌について、詳しく説明するとまず「善玉菌」とは、「乳酸菌」や「ビフィズス菌」などです。「善玉菌」は、腸内を酸性にして病原菌の増殖を防いだり、免疫力を高める働きをします。食べたものを消化吸収するときも、この「善玉菌」が手助けします。また、ビタミンを合成したり腸管運動を促進したりといった働きもあります。

「悪玉菌」とは、良く知られている「大腸菌」を筆頭に、「ウェルシェ菌」「バクテロイデス」「ユウベクテリウム」などが代表的なもの。腸内をアルカリ性にして腐敗させたり、発がん物質や有害な毒素を作り出したりといった悪さをはじめ、糞便・ガスを作り出し、下痢や便秘を引き起こします。

「日和見菌」は、食べ物の種類や体調によって、善玉にも悪玉にもなるというもの。ある「日和見菌」は、有益なビタミンを合成したり病原菌を防ぐ役割を果たす一方、腸内を腐敗させたり、発がん物質を作り出しといった有害な働きもするのです。

では、腸内で「善玉菌」の働きを良くし、「悪玉菌」の活動を抑制するにはどうしたらよいのでしょうか。

   
腸を元気にするには
   腸は毎日大活躍しているので元気にするには、やはりまず休ませてあげることが大切。年末、年始で暴飲・暴食したあとに七草粥を食べて腸を休めるという習慣が日本には昔からありました。飽食の現代、特に40代以上の方は、毎日それほど多くのカロリーを摂取し続ける必要はありません。腹八分目を目安に、多すぎる食事量を減らし、長年酷使してきた腸を大切にした食生活を目指しましょう。定期的に食事をお粥するのも良いでしょう。

また、寝る前に食べると、身体は休んでも腸は働き続けなければなりません。寝る直前の食事を控えることも大切です。そして、よく噛む事。消化の負担を減らし、唾液中の消化酵素を食べ物と良く混ぜ合わせるためにも、早食いを避け、一口でいつもの倍噛むようなつもりで、ゆっくりと食事を楽しみましょう。

   
腸を元気するための食事法
 
1. 脂肪の摂取を減らす、特に動物性脂肪の摂取を少なめに。

2. 主食は、玄米、胚芽米や麦ごはんや雑穀米に。

麺類は、うどんよりも、そばの方が食物繊維は豊富です。

3. 肉類は控えめにして、魚介類や納豆や豆腐などの大豆製品を中心に。
4. 野菜やきのこ、海藻、豆などの食物繊維の入った食物を積極的に摂る。
5. 甘いものは控えめにして、水分補給を十分にする。
6. ヨーグルトやオリゴ糖を食べる。

 

健康への第一歩は歯から(2013年1月)

 

     
 
1月のテーマ:
健康への第一歩は歯から

 市民合唱団で歌われている方に、練習はさぞ大変でしょうと訊ねたところ意外な答えが返ってきました。きついのは歌の練習ではなく、口臭だというのです。往々にして年齢層が高いため歯周病にかかっている人の割合が多いようです。歯周病からくる口臭を我慢しながら、声を合わせて練習をするのはきついと言うのです。日本人の約70%の人が歯周病にかかっているというデータがあります。歯を失う原因としても虫歯よりも歯周病の方が多いのですが、普段あまり自覚症状が無いために、歯周病のケアには無関心になりがち。しかし、気づかないうちに周囲の人には多大な迷惑をかけていることもあるのです。今回は、この歯周病について紹介します。

 
     

 

歯周病とは
   虫歯は、歯そのものが病気になってしまうものですが、歯周病は、歯を支えている組織が壊れていく病気です。その始まりは、歯の汚れ。歯垢と呼ばれる歯の表面についた食べ物のかすに細菌が繁殖したものが歯周病の原因となりますが、この細菌は、24時間汚れを放置すると繁殖してしまうと言われています。適切な歯磨きによって食べ物のかすを取り除いてしまえば、この細菌の繁殖は防げるのですが、不適切な歯磨きなどで、歯垢ができてしまうと、それから約2日ほどで、今度はもっとやっかいな歯石に変化してしまいます。歯石になってしまうと歯ブラシで取り除くのは難しいので、歯石になる前に取り除くことが大切です。

また、不適切な歯磨き以外にも歯周病を引き起こしやすくなる原因があります。その一つが喫煙です。タバコに含まれているニコチンは、血管を収縮させる作用がああるので、血液の流れを悪くします。血行を悪くすると身体の抵抗力が低下し、細菌が繁殖しやすくなり、しかもニコチンと共に多くの有害物質が歯垢に混じって歯に付着したり、口内の環境を整える働きのある唾液の分泌量が減る原因にもなります。

唾液が少なくなるとドライマウスと呼ばれる口腔乾燥症の状態に陥ります。これは、水分の補給が十分でなかったり、口を開けて呼吸する口呼吸をしている人がなりやすい症状ですが、唾液は細菌の繁殖を押さえる免疫機能を持っているので、唾液量の低下は歯周病にもつながります。
 また、糖尿病を患うと身体の抵抗力が弱くなるので、歯周病を引き起こしやすくなります。恐ろしいのは、虫歯菌や歯槽膿漏の菌が抜歯などの際に、血中に紛れ込むと感染性心内膜炎という心臓病まで引き起こしてしまうことです。特に重度の歯槽膿漏の場合、口内にたくさんの細菌が存在するので、そのリスクが増大します。症状としては、熱が出たり、動悸が激しくなったりしますが、ひどい場合は弁膜が壊れ急性心不全を起こすこともあります。

   
歯周病の見分け方
  ●歯茎からの出血

歯ブラシをかけたとき、出血をするようであれば、まず初期の歯周病を疑います。出血を怖れて、出血部を避けてブラッシングしているとさらに歯周病が進行してしまいます。正しいブラッシングを続けても出血があるようなら、すぐに歯科医に相談してください。
●口臭

虫歯に食べかすが詰まって腐敗した臭いと歯周病の場合の口臭は違いますが、口臭はなかなか本人は気がつかないもの。歯周病の臭いの原因は、歯と歯茎の境に付着した細菌が歯に沿って根の方に侵入し、そこで繁殖して臭いを発します。周囲の人に注意されたらすぐに歯科医に相談してください。
●歯がグラグラする

歯周病が進行すると歯を支えている組織が壊れるので、歯がグラグラしてきます。しかし、相当ひどくなるまで気がつかない場合が多く、舌の先で触って動くのを感じるようになったときは、すでに手遅れです。
 初期の歯周病をチェックするには、親指と人差し指で歯をつまみ、ゆすってみて動きを感じるようでしたら要注意として、歯科医に相談しましょう。何かものを噛んだときにたよりない感じがしたときも危険な兆候です。

   
歯周病の治療
   歯周病の初期であれば、まず歯科医で溜まった歯石を取り除いて、ブラッシングを毎日丁寧におこなっていれば改善されていきます。その後は定期的に歯科医に歯石の除去をしてもらい歯周ポケットの深さなどをチェックし、加齢とともに増すリスクに対処するようにしましょう。

進行した歯周病で、歯槽膿漏になると治療もたいへんです。歯周病の進行で深くなった歯周ポケットからは、スケーリングという器具を使った治療だけでは奥深くの歯石が取り除けなくなります。そこで、歯茎を切開して奥深くの歯石や感染歯質を除去したり、溶けた骨を回復するための処置を行う歯周外科治療が必要になることもあります。

さらに歯周病が進行して、歯槽骨の大部分が溶けてしまい回復の見込みがない状態になると、他の歯や骨に悪影響を及ぼす恐れがあるため、抜歯しなければなりません。

高齢者が歯を失う原因として最も多いのは、この重度の歯槽膿漏によるものです。

   
歯周病の予防
   予防のために最も大切なのは、歯磨きです。しかし、単にブラッシングをすれば良いというものではありません。最近でもたまに見かけるのは、大きめの歯ブラシに歯磨き粉をたっぷり付けてゴシゴシと磨いている人。歯を磨いたという達成感はあるものの、歯や歯茎を傷つけるばかりで、歯垢の取り残しを生じてしまいます。歯垢を落とすためには、小ぶりな歯ブラシで最初は柔らかめのものを選んで、歯の一本一本に対して磨くというより細かく振動させて刺激を与えるようなイメージでブラッシングします。

歯ブラシの当て方は、歯と歯茎の間に歯ブラシを45度の角度であてて歯垢をかき出すバス法という基本的な磨き方と、歯に対して歯ブラシの全面を直角にあてて振動させるスクラッピング法などいくつかの方法があります。いずれも一度歯科医で指導を受けると理解しやすいでしょう。

前述したように、唾液は細菌の増殖を抑える働きがありますが、寝ている間は、分泌が減少します。つまり、寝ている間は菌が増殖しやすい状態にあるわけです。就寝前の歯磨きが重要なのは、そのためです。

そして、朝起きたときが、口内に最も細菌が増殖している状態になります。朝起きたらまず歯磨きをして、この細菌を体内に取り込まないようにします。
 以前は食後にすぐに歯を磨きましょうと言われていました。ところがこれが誤りだったことが分かってきました。食事をすると口内のPH値が酸性に傾きます。アルカリ性の歯の表面が、この酸によって侵されやすい状態にあるわけです。ここで歯磨きを行うと酸に溶かされた歯を削ってしまうことになります。

口内のPH値は、唾液が食後30分~1時間で中和してくれますから、歯ブラシで磨くのは、その後にしましょう。食後すぐは、水で口をすすぐ程度にしておき、唾液による歯の表面を補う再石灰化の作用の後に、歯ブラシを使うというのが正しい歯周病ケアとなります。

 

今年は過去最多の流行―マイコプラズマ肺炎(2011年12月)

 

     
 
12月のテーマ:
今年は過去最多の流行―マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎の患者が急増しており、今年は過去最多の水準で流行しています。最近では、天皇陛下や皇太子ご夫妻の長女、愛子さまもマイコプラズマ肺炎の感染の可能性があると報じられました。乾いた激しいせきが長く続くのが特徴で、主に飛沫で感染し、市販の薬は効かないため、専門家は注意と予防を呼び掛けています。

 
     

 

マイコプラズマ肺炎とは
 

「マイコプラズマ」とは肺炎を起こす病原菌の名前で、マイコプラズマ肺炎は、細菌の一種であるマイコプラズマによって起こる肺炎です。過去には4年ごとのオリンピックの開催年に流行していたため「オリンピック熱」とも呼ばれていましたが、最近はひんぱんに流行が見られるようになってきました。季節的には風邪の流行する初秋から冬に多発する傾向がみられます。マイコプラズマ肺炎は、肺炎球菌による肺炎とは異なる肺炎であるため“普通とは違う肺炎”という意味で「非定型肺炎」とも呼ばれます。潜伏期間は10日~14日ほどで子供や比較的若い人が多くかかり、風邪と似た症状で重症化することがあまりないため、見過ごされてしまいがちです。

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マイコプラズマ肺炎の症状
 

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マイコプラズマ肺炎の症状は、激しいせき、発熱、頭痛、倦怠(けんたい)感などです。たんの出ない乾いたせきが長く激しく続きます。、肺炎とともに、咽頭炎、気管支炎、耳痛をともなうこともあります。38度以上の高熱も伴いますが、重症化することはあまりありません。1~2週間くらいの通院と投薬で良くなることがほとんどです。ただまれに、心筋炎や髄膜炎などを併発することもありますので注意が必要です。

   
マイコプラズマ肺炎の原因
 

マイコプラズマ肺炎の原因になる「マイコプラズマ」とは、マイコプラズマ・ニューモニエという、ウイルスと細菌の中間ほどの大きさの微生物の名称です。細菌濾過器を通過し、細胞壁が無いために、呼吸器系のウィルスで唯一ヒトに対して病原性があるという特徴があります。主に「飛沫感染」で、くしゃみやせきで飛び散った飛沫を吸い込んでしまうと感染します。インフルエンザのような広い地域での流行ではなく、狭い地域・集団での流行するのが一つの特徴です。幼稚園、保育所、学校などで流行することが多いので、流行している時期に子どもにせきや発熱などの症状がみられたら、早めに呼吸器科や小児科を受診してください。

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マイコプラズマ肺炎の治療と予防
 

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マイコプラズマ肺炎は予防ワクチンがなく、通常用いられる抗生物質では効き目が無いため、マクロライド系の抗生物質で治療を行います。有効な治療法は通院して十分な睡眠と休養を取ることが一番の治療です。

予防は外出後は必ず手洗いとうがいをしましょう。マスクの着用も有効です。子供が幼稚園や学校で感染してくる例が多いので、特にこの季節はお子さんの感染防止を心掛けてください。

 

高齢者以外も気をつけたい「骨粗しょう症」(2012年12月)

 

     
 
12月のテーマ:
高齢者以外も気をつけたい「骨粗しょう症」

 「骨粗しょう症」と聞くと、老人の病気だと思う人が多いかもしれません。しかし、普段から日常的に運動をしている働き盛りの人でも、ある一定の条件下では、「骨粗しょう症」を発生する可能性があります。

今年50歳になるAさんは、学生時代は登山に夢中になり、30代では自転車競技、40代ではマスターズ水泳大会に出場するほど水泳にのめり込むスポーツ愛好家で、健康には自信満々でした。ところがある日、路地から急に出てきた車をよけようとして身体を捻ったときに、股関節に痛みを感じ、その後あまりの痛みに耐えかねて整形外科で診断してもらうと、大腿骨の最も太い骨が亀裂骨折を起こしていたのです。

医者によると高齢者が「骨粗しょう症」が原因で起こす大腿骨頸部の骨折と同様だとのこと。Aさんは日頃運動もして健康なはずの自分が高齢者と同じ症状だと言われて驚いてしまいました。なぜこんなことが起きるのでしょう。

今回は、他人事ではない「骨粗しょう症」について、その発生原因と予防法について紹介します。

 
     

 

「骨粗しょう症」とは
   骨は、カルシウムやコラーゲンなどの繊維によって構成されていますが、この構成比は変わらなくても絶対量が不足し、骨の微細構造が劣化した状態を「骨粗しょう症」といいます。初期の症状は、背骨や腰の痛みを感じる程度ですが、進行すると骨がつぶれてきて背中や腰が丸くなってきます。

骨密度の基準値は、骨密度がピークを迎える20歳から44歳までの間の平均値を取り、その基準値から80%以下を「骨減少域」、70%以下を「骨粗しょう症」と判断します。男女ともに生理現象として、自然に骨量は減少してきますが、女性は閉経を境に減少量が増加し、60歳代で約3割、80歳代では約6割の人が発症すると言われています。

一般的に「骨粗しょう症」の原因、または危険因子とされるものは、加齢、性別、早期の閉経、やせた体格、薬物による影響、運動不足、カルシウム摂取不足、ビタミンDの摂取不足、喫煙、アルコールの過剰摂取、偏食等があげられます。

しかし、Aさんの場合は、多少アルコール摂取量が多いという程度でこうした例にはあてはまりませんでした。もう少し、要因について掘り下げてみましょう。

   
代謝による骨量の低下
   様々な栄養素は、身体の中に取り込まれ、必要な箇所で利用された後、不要となったものは排泄されるという「代謝」が行われます。カルシウムも同様で、身体に取り込まれ硬い骨としての役割を果たし、また身体の外に排出されることを「カルシウム代謝」といいます。このカルシウム代謝が激しいスポーツやある種の薬物により過剰に促進されることがあります。良く知られる薬剤でステロイドというホルモン剤もこれにあたります。ステロイドは抗炎症剤として効果的な薬ですが、その利用には注意が必要で、常用すると1年程で骨量が著しく減少するとされています。どうしてもステロイドを使わなければならない場合、カルシウムとビタミンDを補給して副作用を押さえる必要があります。

また、骨折してギプスで固定すると1日に1~2%の筋力低下とともに骨量の低下も起こります。宇宙飛行士が無重力の環境で、1日あたり200mgのカルシウムが骨から失われるというのも骨に刺激を与えないという同様の要因からと考えられます。初期の宇宙飛行士は、このため地球に帰還すると筋力と骨量の低下でまず立って歩けないという状況になっていました。骨に刺激のない無重力の環境では、身体が骨のカルシウムを不要なものとして、代謝してしまったわけです。

逆に、骨に加重による力が加わるとその骨はストレスで変形します。変形の割合が一定の範囲を超えたとき、骨はそのストレスに負けまいとして骨量を増やします。骨の量が増えてそのストレスによる変形の割合が一定範囲内に収まるまで、骨は強くなり続けるという性質があるのです。
 これにあてはめると、Aさんは、あまり骨に体重や重力での刺激のない水泳を、それも激しいトレーニングメニューで何年も続けた結果、代謝により骨量を減らしてしまったということも考えられます。日常、歩く距離より泳ぐ距離の方が長いというオリンピック選手のような生活は、一方で骨量の低下に気をつけなければならないかもしれません。骨量を保つためには、水泳だけでなくウォーキングや軽いジョギングで骨に刺激を与える運動の併用が必要だということになります。同時にカルシウムだけでなく、タンパク質やビタミンDなどを含んだ食べ物を積極的に摂るようにすることが大切です。

   
転んで骨を折らないために
   高齢者の約3割が年間に1回以上転倒を経験するというデータがあります。その数%が骨折を起こしていると考えられ、その2割以上が、大腿骨頸部骨折だとされます。

Aさんは、幸い50歳という比較的若い年齢だったため、1ヶ月安静にし、食事と投薬で骨は元通りに回復しましたが、高齢者の場合、治療に時間がかかる場合もあり、そのまま寝たきりになってしまうケースも少なくありません。

「骨粗しょう症」の予防のためには、骨量を増やす目的ばかりでなく、できるだけ転倒しないような身体作りも大切になってきます。転倒は、バランスを崩したときに起こりますので、バランスを保つための反射神経に連動する筋力をつけましょう。

   
正しいスクワット
   どこでも簡単にできるスクワットで、身体の重量を十分に支えることができる筋力を養います。

肩幅より少し広く足を開き、足先を外側に開いて立ちます。手を腰か太ももに置いて、息を吸いながらお尻を突き出すようにして太ももが床と平行になるようにしゃがみます。大切なのはこのとき背筋を伸ばしておこなうこと。息を吐きながらゆっくりと立ち上がり、膝が伸びきらないところで止まって、またしゃがみます。

膝を伸ばしきると膝の負担が大きくなるのと筋肉に対するトレーニング効果が少なくなるので、必ず膝を伸ばしきらずに続けてゆっくりしゃがみます。これを無理のない回数行い、毎日継続するようにしましょう。

 

禁煙のすすめ。(2012年11月)

 

     
 
11月のテーマ:
禁煙のすすめ。

 健康増進法によって、分煙をとり入れる飲食店が増えています。ある飲食店の店長さんによると入店したお客様の顔を見るだけで、喫煙者かどうかすぐに分かるといいます。どんなところで? と問うと全体の印象で分かるといいます。接客業は毎日たくさんの人の顔を見続けているので、瞬間的にその人の好みや性格を読み取る勘が身につくのかもしれません。

しかし、長く喫煙を続けている人は勘の良い人ばかりか、誰にでも分かるような特徴が現れてくるものです。スモーカーズフェイスといいますが、喫煙を続けていると皮膚のハリがなくなり、目尻や口周りなどにしわが増え、いわゆる老け顔になってきます。さらに歯がヤニによって着色され、口臭の発生や白髪、脱毛も起きてきます。

初対面の人は、第一印象が大切だといわれます。この印象が決まるのに6秒から7秒。仕事などでは最初に好感を持たれないと次はないとまでいわれます。この第一印象の決めては顔、表情だそうです。喫煙によるスモーカーズフェイスで、人生の大きな損失を被る事になるかもしれません。そうなる前に禁煙をしたいという人に今回は、禁煙の方法をご紹介します。

 
     

 

ニコチン依存症の人の禁煙法
   ニコチンの身体的依存の人は、喫煙が途絶えてニコチンの血中濃度が下がってくると、集中力が低下し、イライラするようになります。さらに頭痛、倦怠感、肩こりや歯が浮くという症状を起こす人もいます。一般的に禁煙後2~3日目が最もつらい症状となり、1週間程で軽くなってきます。この時期に、我慢できなくなって禁煙に失敗するという経験を繰り返す人も多いことでしょう。タバコがやめられないということが、意志が弱い証拠だと思い込んでしまったりする人もいますが、実はタバコには麻薬にも劣らない強い依存性があるのです。麻薬依存への対処は、治療の対象になることはよく知られています。しかし、タバコも同様だと考えた方が、禁煙の近道になるのです。

タバコをやめるために、徐々に吸う本数を減らしたり、低ニコチンの銘柄に変えても、なかなかうまくいかないのはこの強い依存性のためです。タバコの本数を減らしたり、低ニコチンの銘柄に変えた場合でも、一本のタバコをより深く吸い込んだり、根元まで吸う事で結果としてニコチンの摂取量があまり変わらないばかりか、喫煙間隔を空けることでタバコがより美味しく感じられ、依存を強くしてしまう可能性もあります。

こうした強い依存症の場合、ニコチンを喫煙以外の方法で身体に取り入れ、ニコチンの量を徐々に減らしていくという方法があります。ニコチン代替療法と呼ばれるもので、ニコチンガムやニコチンパッチというものが一般的に使われています。次にそれぞれについてご紹介します。

 
ニコチンガム
 

 ニコチンガムはガムのように噛むとニコチンが口の粘膜から吸収されるもので、タバコを20本以上吸っていた人は、一日にこのガムを6~9個用います。一つを15分程度かけてゆっくり噛むとニコチンが体内にゆっくりと吸収されます。ガムの個数を徐々に減らしていって最終的にニコチンの摂取がなくても、禁断症状があらわれないように身体をコントロールして、禁煙を行います。ガムにはタバコをやめた口寂しさを紛らわせてくれるという利点もあります。

ニコチンパッチ
   ニコチンパッチは、一日一枚ニコチンの入ったパッチを皮膚に貼ってニコチンを皮膚から吸収させるというものです。気をつけなければいけないのは、この治療を行っているときに、タバコを吸うと大量のニコチンを接種する事になり、中毒症状を起こす危険があります。そのため現在薬局では、処方箋がないと買えないようになっています。

その他の方法

 

 肌が弱いためにニコチンパッチが使用できない場合は、禁煙によるイライラを軽減するとともに、タバコを美味しく感じさせない効果のあるニコチンを含まない飲み薬を飲むという方法もあります。1日2回食後に服用します。飲み始めの一週間はタバコを吸いながら服用し、8日目から禁煙を開始するというもので、タバコが心底嫌いになる効果が期待できます。服用期間は12週間となっています。

このように禁煙を本気で行いたいというのであれば、禁煙外来で適切な治療と指導を受けるというのが、もっとも成功率の高い方法です。治療には健康保険が適用されます。ただし、以下の4つの要件を満たしていると医師が診断した場合に限られます。

◇ニコチン依存症を診断するテストで5点以上の評価を受ける。

◇1日の平均喫煙本数に、これまでの喫煙年数を掛けたものが200を超える。

◇1ヶ月以内に禁煙を始めたいと思っている。

◇禁煙治療を受ける事に文書で同意する。

また、以前健康保険で禁煙治療を受けた人は、前回の治療の初回診察日から1年以上経過していない場合は、自由診療になります。

   
   禁煙すると人は太ります。タバコは大人のオシャブリと言った人がいますが、確かに口寂しくてついつい間食をしてしまったりして、カロリーオーバーになりがちです。人によっては、まるで舌の薄皮が何枚も剥がれるようにそれまで感じなかった味が分かるようになり、食べ物がとても美味しく感じられるようになったりするようです。でもそれは、幸せなことではないでしょうか。一時的に体重が増えたとしても、今度は運動で息切れがしないようになります。適度な運動を楽しむことで、健康な身体を手に入れるチャンスが増えるわけですから、禁煙の向こうには今まで感じた事のなかった幸せが待っているかもしれません。

 

運動には最適の季節です。でも、気をつけなくてはいけないことも。(2012年10月)

 

     
 
10月のテーマ:
運動には最適の季節です。でも、気をつけなくてはいけないことも。

猛暑の夏も終わり、やっと秋らしい風が吹いてきました。あまりの暑さで、夏の間動かすことをしていなかった身体を、思う存分鍛えるのにはもってこいの季節です。しかし、その前にすこし自分の身体がどうなっているかを確認してみましょう。夏の間、油分や糖分、そして塩分の多い食べ物を摂り過ぎて、血圧が上がったり、太ったと感じてはいませんか?

生活習慣病の予備軍にならないためには、とにかく食事と運動は大切です。でも、やみくもにダイエットをしたり、いきなり負荷の高い運動をすると、思わぬ故障を起こしてしまうことにもなりかねません。良かれと思っても、立ち直るのに時間がかかってしまっては、せっかくの努力が水の泡です。そこで今回は、スポーツの秋に運動を始めるときに気をつけておきたい事を紹介します。

 
     

 

運動で身体を整えるために
 

1.十分な休養時間

2.効果的な栄養補給

3.必要なボディケア

運動を行うと、身体には負荷がかかり疲労が残ります。その疲労が身体にメッセージを送り、身体が回復するためのシステムを動かすことになります。そのバランスを上手にとっておかなければ、どこかに問題が発生してしまいます。運動で身体を鍛え、そして体調を整えるためにこの3項目を意識しておきましょう。

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1. 休養に関して
 

毎日続けて運動をするよりも、1日運動したら、2日から3日休んでまた運動をした方が、運動の効果が得られやすいという生理的な現象があります。休養をとらずに、あせって運動を毎日続けると、疲労が筋肉や関節に蓄積されて故障や怪我の原因になることも多々あります。特に、運動する習慣から離れて久しい人は、あせらずに疲労回復を待ってから運動しましょう。特に若い頃、運動部に所属して筋肉の痛みに耐えて頑張って強くなったという経験のある人は、どうしても無理をしがちです。身体に鞭打ち痛みに勝つことで、最大の運動効果を得られるという思い込みは危険です。

2. 効果的な栄養補給
 
自然界で生きる野生動物の食事をイメージすると分かりやすいものがあります。野生動物は、食べ物を煮たり焼いたりせず生で食べます。生息域に近い所にいるものを捕らえて食べます。そのとき、その場所にあるもの、いわゆる旬のものを食べているわけです。
 人間は、食べ物を安全に、そして美味しく食べるために、材料を煮炊きすることを覚えました。新鮮でない食物もこうすれば、食べる事ができるわけです。しかし、生の食材がもっている消化酵素は、加熱調理によって不活性化されるものもあります。つまり加熱調理した食べた物を消化するのには、自分の体内にある消化酵素を大量に使う事につながり体力を消耗します。たくさん食べ過ぎて「疲れた」と感じることはありませんか?それにはこのような理由があります。食後に横になると牛になると子供の頃に言われたりしたものですが、実は食事の後に身体を動かさずにじっとしていることは、消化を助けるためには大切なことなのです。そして身近なところで採れるできるだけ新鮮な食物を、火を使わずに調理することは身体に負担をかけずに効果的に栄養補給をすることにもなります。 イラスト
3. 必要なボディケア
  運動の激しさや個人によって異なりますが、運動が激しければ激しいほど必要性が高まります。放っておくと怪我や疲労が慢性的な障害へと悪化してしまうことにもなります。中高年の運動ということに限定すれば、疲労や痛みが運動後に強く残る場合は、それを我慢しないということが大切です。運動後に「ああ疲れた」と感じるときは運動強度、つまり身体にかかるストレスが大きい場合があります。さらに、運動後に2日も3日も疲労が残るようでは、明らかに運動強度が高すぎますので運動後のケアが必要です。運動した後に「ああ気持ちよかった」と終えられるようならば、自分で行うストレッチでも十分にケアできます。
 

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ストレッチで、筋肉を延ばしていくとその刺激で、コラーゲンを作る「繊維芽細胞」という特別な細胞が活性化され、古いコラーゲンを壊して新しいコラーゲンに置き換えてくれるといわれます。さらに、ストレッチにより血管の筋肉も柔らかくなり、動脈硬化が改善されるということが、最近の研究で分かってきています。

ただし、痛みが永く続く場合は、自分でなんとかしようとは思わず、早めに整形外科などの専門医に相談しましょう。

  以上のことに注意して、無理をせずにスポーツの秋をおおいに満喫しましょう。