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「心の健康と瞑想」(2014年1月)

     
 
1月のテーマ:
「心の健康と瞑想」

 瞑想と聞くと、皆さんは何を思い浮かべますか。寒いお寺の本堂で座禅を組んだり、しびれをきらした脚の痛みでしょうか。何やら辛いイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実際の深い瞑想状態を体験すると、とても心地良い感覚に包まれ、ストレスからの回復力が劇的に向上すると言われます。

現代人にとってストレスは万病の元という考え方があるくらい、高血圧をもたらし、血管や心臓を痛めつけるなど、過剰なストレスは、身体を損ねる元凶として知られています。このストレスを解消するには、歩いたり、自転車に乗ったり、泳いだりといった有酸素運動が良いとされますが、寒さも厳しくなり 、外にでるのはなかなか大変です。そこで、今回は家の中でもできる効果的なストレス軽減法である瞑想について紹介しましょう。

 
     

 

ネガティブな発想になりやすい脳を瞑想で開放する
 

 有名な元格闘家に、サクセスストーリーと健康で強い精神や身体の作り方について話を聞いたところ、朝、晩と毎日二回瞑想しているということでした。前向きな発想を得たり、創造的な仕事をするときに、瞑想をしていると良い発想が生まれ、仕事も巧くいくと言います。瞑想の何が良いかというと、考えない状態を作り出す事ができる点です。脳の中では一日に何万回も様々なことを考えていますが、その大半がネガティブな内容なのです。特に座ってじっと考え事をした場合、何事にも否定的なシミュレーションが頭を過ります。過去の経験や悪い噂をベースにしたネガティブな予想や分析が、人間の脳は得意なのです。

そうすると、新しい自由な発想が生まれる余地がなくなってしまいます。新しい事を学習しようとしても、古い情報とそれが複雑に絡んだ思考の澱が邪魔をしてしまうのです。その人が本来持っている潜在的な力を発揮しようとしても、このネガティブな思考がその発現を阻害してしまいます。新しく物事を始めるときに「よく考えてからやりなさい」と周辺の人はアドバイスするものですが、新しいことにチャレンジしようとしたとき、先に後ろ向きな思考が浮かんでしまい、結局チャンスを逃してしまうというのは、多くの方が経験する事でしょう。

ストレスを受けた状態というのもこの脳の働きが影響しています。例えば何かが巧くいかなくて叱られたり、大切なものを失った場合、脳は一日に何万回とこの巧くいかなかった状態を繰り返しシミュレーションし、それがストレスを生んでいるのです。瞑想をして、何も考えない脳の状態を作り出す訓練を行うと、少なくとも瞑想をしている間は、このストレスから開放され、また、ストレスに対抗する身体の準備ができるのです。

瞑想を取り入れたとされる成功者は、例えばアップルのスティーブ・ジョブス、マイクロソフトのビルゲイツ、京セラの稲森和夫氏など数多く知られています。スポーツマンでも、NBAで大活躍したマイケル・ジョーダン、日本人では、最近「心を整える。」という本が大ヒットした、日本代表のサッカー選手長谷部誠なども瞑想を取り入れているといいます。

   
簡単に行える瞑想
 
瞑想を誰でも簡単に行なえる方法を紹介しましょう。
 
  1. 座ります。別に固い床に座禅を組む必要はありません。自然にリラックスして楽に座れる状態であれば、椅子に座っても胡座をかいてもかまいません。できれば静かな部屋で、照明も少し落とします。背筋は伸ばしますが、緊張しない程度に。
  2. 眼を軽くとじ、眼から様々な情報が入らないようにします。いつも無意識に行っている呼吸を、意識的に行います。
  3. 鼻から息をゆっくり吸って、鼻から息をゆっくりはきます。
  4. この呼吸を感じ、そこに意識をもっていきます。
  5. この呼吸を20回以上繰り返し、呼吸数を数える事に集中します。
  6. できるだけ考えない状態を作り出します。
  7. 10分から20分程、この状態を続けたら、瞑想を終了して意識が戻ってくるのを待ちます。眼を閉じたままで数回深呼吸をして、両手で身体に触れて瞑想状態を解きます。
  8. 静かに眼を開けます。 
   
生活に瞑想を取り入れて、ストレスを軽減
 

 瞑想をサポートする小物類もあります。アロマオイルで、心のリラックスを手助けしてくれるものがあり、アロマに抵抗が無い人にはお勧めです。座る姿勢を楽にする瞑想用のクッションもありますし、瞑想用のCDとして制作されたものも沢山あります。チベットの高僧が奏でる浄化音を聞く事ができるCDなどです。こうした小物で楽しく演出して、生活の中に瞑想を巧く取り入れることで、ストレスを軽減してはいかがでしょう。

   

 

「ノロウィルス」には正しい知識で対策を(2013年12月)

 

     
 
12月のテーマ:
「ノロウィルス」には正しい知識で対策を

 この冬も、ノロウイルスなどの感染性胃腸炎が大流行の兆しがあり、首都圏の患者報告数が各所で警報基準値を超えているといいます。国立感染症研究所によると、感染性胃腸炎の報告数は例年11月に入ると増えだし、12月にピークを迎えるというパターンがここ数年くりかえされているということです。今、まさに感染症対策に最大の注意が必要な時期を迎えていますが、ノロウイルスに対する知識が不足していたり、間違った常識のために感染のリスクを膨らませてしまったりするケースが多いとも言われます。そこで、今回は正しい対策をとるための基礎知識と、多くの人がしている誤解について紹介したいと思います。

 
     

 

ノロウイルスとは
 

  2002年の第12回国際ウイルス学会で、それまで「ノーウォークウイルス」または「小型球形ウイルス」と呼ばれていたものが「ノロウイルス」と定められました。それまで、電子顕微鏡による観察ではその形態が認められていたウイルスの遺伝子解析が進んだ結果、正式な分類学上の名前がついたわけです。

このウイルスの特徴は、高齢者から乳幼児まで広い年齢層で急性胃腸炎を引き起こし、感染力も非常に強いというもので、下痢や嘔吐を引き起こします。この嘔吐された吐瀉物に含まれるウイルスが、乾燥しホコリとともに空気中に舞い上がりそれを吸入すると感染してしまうという厄介な性質をもっているのです。

 
誤解その1「アルコール消毒すればウイルスは退治できる」
 

 普段からバイ菌類は、アルコールで消毒できると言われています。傷口の痛みに堪えてアルコール消毒した経験は、どなたもあることでしょう。あの痛みも消毒のためと我慢していたはずです。ところが、ノロウイルスにはこのアルコールが効かないのです。ノロウイルスは、エンペロープ(宿主細胞の膜)と呼ばれるものを持っていないので、アルコールや少しばかりの高温では消毒することができないのです。乾燥や酸にも強く、水中でも長時間生きる事ができるという性質を持っています。集団感染に至るケースが多いのも、こうしたしぶとい性質によるものなのです。

誤解その2「一度感染すれば免疫ができて、二度と感染しない」
 

 ノロウイルスには、多くの遺伝子型があるため、一度ノロウイルスに感染してその遺伝子に免疫ができたとしても、別の遺伝子型のノロウイルスには、また再び感染してしまうことがあるのです。また、腸粘膜での局所感染なので免疫ができたとしても、その免疫の持続時間が短いといわれます。一度感染したから、もう大丈夫と思って油断していると再感染を起こすこともあります。

誤解その3「ノロウイルスは、もともと牡蠣がもっているウイルスだ」
 

 生牡蠣を食べて感染する事が多いので、もともと牡蠣の内部に生息していると思っている方も多いのではないでしょうか。しかし、ノロウイルスは牡蠣ではなく、海水の中に生息しています。牡蠣のような二枚貝は海水を常に吸い込み、吐き出しているので、海中のノロウイルスが内蔵に蓄積され、凝縮されてしまうのです。もともと人間から排泄されたウイルスが、海水中に流れこんで海水を汚染しているというのが実態なのです。

アサリや蛤、ムール貝なども同じ二枚貝ですが、生で食べないため感染源にならないのです。また、ホタテの貝柱も生で食べますが、ウイルスがいる内蔵は食べないのでこれもまた感染するリスクが少ないとされます。

   
ノロウイルスにかかった場合の対処法
 

 子供や老人がノロウイルスに感染すると、激しい下痢や嘔吐による脱水症状で重症化するケースがあります。脱水症状が進むと意識障害を起こし、最悪の場合死亡することもあります。特に幼児の場合は、自分の吐瀉物を喉に詰まらせて窒息してしまうことがあるので注意が必要です。
 脱水症状を進行させないためには、スポーツ飲料を薄めたものや経口補水液をこまめに飲ませるようにすると良いでしょう。水分補給の目安は体重1kgあたり50mlを4時間で与えます。10kgの体重の子供であれば500mlを4時間で給水というのが目安になります。病院で点滴による水分補給という方法もあるので、とにかく医療機関にまず診断を仰ぐことで、大事に至らないように注意しましょう。

   
看護による感染に注意しましょう
 

 子供がノロウイルスにかかると心配でつきっきりで看護するという場合もあるでしょう。しかし、感染予防対策も同時にとらないと家族全員が感染してしまう危険があります。
 まず、家族の一人が感染した場合、他の家族と隔離して看護する人間は一人にします。前記のようにアルコール消毒は効き目がありませんから、家族全員が流水と石鹸でこまめに手洗いするという衛生管理を徹底します。

吐瀉物や下痢便には大量にノロウイルスが含まれていますから、清掃にはマスクと手袋を着用して空気中にウイルスが舞い上がらないように注意してください。汚染物は、ビニール袋にいれて密封します。

さらに、塩素系消毒剤を使って、患者の周辺の床やドアノブ、患者が手を触れる可能性のある所を消毒します。マスクや清掃に使った布類もビニール袋に密閉して廃棄してください。

   
市販薬は使わない
 

 ノロウイルスによる嘔吐や下痢は、身体がウイルスを排出しようとして起きる症状なので、市販の下痢止め等を使う事は逆効果になります。嘔吐や下痢を市販薬で止めてしまうと体内にウイルスを残してしまう事になるので、自己判断で薬を使う事は厳禁です。市販薬に頼らず、まず医療機関に症状を伝えて、対処法を相談してください。

これからの流行する時期に備えて、勝手な判断をせず正しい対処方法を理解したうえで、ノロウィルスに対応していきましょう。

   

 

健康寿命をのばす生涯スポーツについて(2013年11月)

 

     
 
11月のテーマ:
健康寿命をのばす生涯スポーツについて

 厚生労働省の資料によると、日本人の平均寿命を平成13年と平成22年で比較すると男性は78.07歳から79.55歳へと0.97年のび、女性は84.93歳から86.30歳へと1.37年のびています。

寿命にはもう一つ、健康寿命という言い方があります。これは、介護などを受けなくても自力で生活のできる状態を保てる年齢ということです。この健康寿命を同じ平成13年と平成22年で比較すると男性は69.40歳から70.42歳へと1.02年のび、女性は72.65歳から73.62歳へと0.97年のびています。この平均寿命と健康寿命の差が、男性で8.67年から9.13年に、女性が12.28年から12.68年に広がっているのです。

つまり、不健康な状態で生きる期間がのびていることになります。これは、不自由な生活を強いられる本人も大変ですが、介護をする周囲の人の負担も増えているわけです。そこで、自分に許された生のギリギリまで元気に過ごしたいという万人の思いに応えようと「健康寿命」をのばす取り組みが様々な機関、研究者によってなされています。

今月は、先月に引き続き、そうした「アンチエイジング」と「健康寿命」をテーマに紹介していきます。

 
     

 

年齢相応にスポーツ競技を楽しむ
 

 高齢者になれば、誰もが運動機能の低下を実感することになります。しかし、低下のレベルは年齢に応じて一律というわけではありません。壮年のベテラン登山者でも難しいエベレスト登頂を、独自のウォーキングで肥満と糖尿病を克服し80歳で成し遂げた三浦雄一郎氏。60歳で剣道を始めて80歳で六段を取得したという人もいます。

過酷さで知られるトライアスロンに、60歳で初挑戦するという人も少なくありません。様々なスポーツのマスターズ大会には、毎年多くの高齢者が参加し、年齢区分ごとの記録も更新されるなど活躍の様子を耳にします。

例えば、4年毎に開催される最も大きな国際総合スポーツ大会であるワールドマスターズゲームズは、1985年のカナダ・トロント大会では22の競技が行われ、8,305人が参加。24年後の2009年のオーストラリア・シドニー大会では、28競技に28,676人が参加しています。

 国内で毎年開催される日本スポーツマスターズは、原則35歳以上と規定された言わば国体の中高年版。今年も9月13日から17日にかけて行われた北九州大会に、水泳、サッカー、テニス、自転車競技、空手道、ゴルフ等13競技が行われました。

 11月30日、12月1日に行われる水泳のジャパンマスターズには、今年も99歳まである5歳刻みの年齢区分に3000人の参加が予定されています。

マスターズ大会とはいえ、競技スポーツには、身体の柔軟性、筋力、心肺能力などが、日常生活レベルを超えて競技レベルであることが要求されます。こうしたスポーツに意欲的に取り組む人たちは、特別に頑健な身体をしているのでしょうか。

確かに、どんなに過酷なトレーニングをしても身体を壊さないという人も中にはいます。しかし、殆どの人は、どのぐらい練習するとケガをしやすくなるか、どのような疲労をためると免疫力が低くなって、風邪を引きやすくなるかという自分なりの経験知をもって、長い競技生活を楽しんでいるのです。つまり賢く自分の身体と対話しながら、日々の練習をコツコツと積み上げ、体調を管理しているのです。

 アンチエイジングという視点で見た場合、こうしたマスターズ競技から得られるノウハウは少なくありません。最も大切なことの一つは、自分の身体と対話する能力を身に付けることができるということでしょう。

世の中には、驚く程たくさんの「身体に良い」とされる健康法、トレーニングメソッド、食事法、養生法などがあります。こうしたものは、どれも身体に良さそうで次々に試したくなるものばかりです。しかし、中には、提案されている理論が真っ向からぶつかり合い、正反対のことを主張している場合もあります。

 アンチエイジングを目指す食事法でも、「健康のために肉を食べなさい」というものと「長生きしたいなら肉は食べるな」という本が、書店に並べてあったりします。「40代からの節制は寿命を縮める」と「粗食のすすめ」というタイトルの本もあります。また、バナナや納豆やトマトジュースやサバの缶詰が話題になり、食料品店の棚から消えてしまうということもありました。ブームに乗って試した人も多いことでしょう。しかし、こうしたことを試してみるということも、あながち無駄だったということばかりではないのです。そのときに自分の身体にどんな変化が起きたかということを観察することで、自分の体質や適応状況を知ることができるのです。

 身体が軽くなったり、重くなったり、胃が重くなったりスッキリしたり。寝起きが良くなったり、寝付きが悪くなったり。熟睡できたり、頭が痛くなったり、筋肉痛になったり、痩せたり体重が増えたりといった自分の身体に起きた変化を注意深く確認しておくこと、自分に向くものと向かないものを見極めて生活に取り入れて行くことが、アンチエイジングに繋がると考えられます。そういった意味で、常に身体を意識することになるスポーツを一つ趣味にしておくことをお勧めします。

   
健康寿命をのばすために
 

 先に挙げた三浦雄一郎氏の父親である三浦敬三氏は、100歳を超えても現役スキーヤーでしたが、健康寿命をのばす長寿遺伝子が活性化している例として加齢制御医学の見地からも注目されました。99歳でモンブラン山系最長であるバレーブランシュ氷河の滑走を成功させた三浦敬三氏は、オフシーズンも毎朝4キロのウォーキングをし、次のスキーシーズンに備えていたそうです。永くつき合えるスポーツを一つ身につけておくことが、健康寿命をのばすということを証明している好例ですね。

   

 

気軽にできるアンチエイジング(2013年10月)

 

     
 
10月のテーマ:
気軽にできるアンチエイジング

 アンチエイジングという言葉を、最近よく聞くようになったと思いませんか。数年前までは、アンチエイジングというと多くは美容に関するものでした。しわを取ったり、肌のシミやくすみを改善したりといったものです。その結果、見た目が若くなるというわけです。

しかし、そうした身体の表面だけを改善しても、暫くすると元に戻ったりして、本質的な問題解決にはなりません。最近のアンチエイジングでテーマになるのは、もっと本質的に身体の老化と向かい合い、改善できる点は改善し、極力老化を遅らせようというものです。

例えば、血管は悪い生活習慣や食生活によって、老化し固くなってしまいます。弾力を失った血管は血圧を上げ、動脈硬化をもたらします。動脈硬化はやがて脳梗塞や心筋梗塞の原因となり文字通り命取りとなりますが、この血管の若さを取り戻すことは可能なのです。こうした本質的なアンチエイジングについて、今回はご紹介したいと思います。

 
     

 

血管を若返らせるためには
 

 人の年齢は、血管年齢であると言われることがありますが、この血管の年齢を若返らせることは、比較的容易だとされます。一酸化窒素という血管の内皮(血管の内壁を覆う組織)でつくられる物質が、血管を柔軟にする働きをしてくれるのです。一酸化窒素は、血管の筋肉を柔らかくして拡張し、血流をスムーズにし、さらに血管内のコレステロール体積や血栓の発生を抑える働きがあります。

この一酸化窒素の生成を促すには、どうすれば良いか。「大股で歩く」それだけです。体重のせいで膝に負担のかかってしまう人は、プールでウォーキングをすると良いでしょう。息が上がる程の速度で歩く必要はありません。大股で15分程、毎日歩くようにしましょう。

さらに、もう一つ効果的なのが、筋肉のストレッチ。固くなった筋肉が血管を圧迫して血管の老化を引き起こしていることもあるからです。大臀筋や高背筋を気持ちよく伸ばすストレッチを行ってください。筋肉が伸びれば、それとともに血管も伸びて柔らかくなります。

   
ポリフェノール
 

ポリフェノールの効果が注目されるようになったのは、食道楽と言われるフランス人は、血管の病気での死亡率が低いのは何故かという疑問からでした。フランス人はポリフェノールを多く含んだ赤ワインの消費量が多く、それと関係があるとされたからです。ポリフェノールは摂取すると動脈硬化や脳梗塞を防ぐ抗酸化作用があるといわれます。

もう一つ、ポリフェノールの一種としてアンチエイジング効果の高いのがイソフラボンです。イソフラボンは、豆腐や納豆などの大豆加工食品に含まれ、更年期以降分泌が減少するエストロゲンと同様の働きをするとされるため注目されています。

   
活性酸素
  活性酸素とは、激しい運動やストレス等で体内で代謝される酸素が、より反応性が高い活性酸素に変換されたもので、身体に様々な悪さをすることが知られています。体内には、発生した活性酸素が細胞に損傷を与えるのを防ぐために、抗酸化酵素と呼ばれる活性酸素を消去したり除去する酵素があるのですが、この働きでも分解しきれない活性酸素が細胞を傷つけると老化の原因になるとされています。

また、紫外線や放射線が細胞に照射されると細胞内に活性酸素が発生することが知られています。昔は、日光浴で真っ黒に日焼けした肌が健康の象徴のようにされてきましたが、今や日焼けは老化の主原因の一つに上げられる程です。

   
心の持ち方がもたらすアンチエイジング
 

 心理学者のエレン・ランガーは、非常に興味深い実験を、70歳代後半から80歳代の老人男性を集め、二つのグループに分けて行ったのです。

一週間の実験期間中、一つのグループには、20年前の生活を回顧する話題を義務付け、もう一つのグループには、実際に20年前の小道具に囲まれた生活環境で、よりリアルに20年前の生活を体験させたのです。廊下から老人用の手すりを取り除き、重い荷物も自分で運ばせ、食事も自分たちで作らせました。

するとどちらのグループも日がたつにつれて歩調が速くなり、自信も回復し、杖をついていた老人も杖を使わなくなりました。特に後者のグループは、その効果が顕著で、足取りや機敏性、関節炎の症状、動作の速度、認識能力、記憶力、血圧、視力や聴力まで向上したといいます。

これは、老人とはこうあるべきだという通念が老化をもたらしているという一つの仮説を導きだしています。もう何歳だから、こうあるべきだと、あるいは仕方がないと決めつけていませんか? 

 アンチエイジングの第一歩は、自分の可能性を信じることかもしれません。まず十分にストレッチをして、大股で歩きましょう。目標や夢に向かって。

   

 

裸足歩行を忘れた現代人を襲う踵(かかと)の痛み(2013年8月)

 

     
 
8月のテーマ:
裸足歩行を忘れた現代人を襲う踵(かかと)の痛み

 若い頃にやっていたスポーツを、40代、50代になってからもう一度やりたくなるという人も多いことでしょう。水泳や、野球、サッカーなどのスポーツの他に、剣道や空手、柔道など、一時期懸命に取り組んでいたものは、何かのきっかけで突然やりたくなってしまうようです。ただこの時に気を付けていただきたいのは、昔のイメージで突然身体を動かしてしまい、長年鍛えられていない箇所に過度な負担をかけてしまい、故障を引き起こすということです。

今回は、中学生の時にやっていた剣道を約30年ぶりに再開したところ、踵をいためてしまったというAさんの症状について紹介しましょう。この踵の痛みは、剣道だけでなく、固い道路を長い時間走るランニングなどについても、同様に起こりやすいものです。

 
     

 

扁平足と足底筋膜炎
 

 Aさんは若い頃から、扁平足が悩みの種だったといいます。扁平足の原因は、遺伝的なものと、子供の頃に裸足での十分な運動が足りず、土踏まずの形成が不十分だったことがあげられます。8歳頃までは誰もが扁平足の状態ですが、成長とともに土踏まずが形成されていきます。ところが、Aさんは、中学生になっても扁平足のままでした。運動も苦手だったAさんですが、顧問の先生に勧められたのがきっかけで、中学1年生で剣道を始めました。最初は、竹刀を振るのもぎこちなかったといいますが、努力の甲斐があって2年生の時にはレギュラーとなって試合に臨むようになりました。

しかし、この頃から踵の痛みに悩まされ、毎日学校に歩いて行くのも苦痛だったと言います。この症状は、足底筋膜炎と考えられますが、原因はAさんの足の元々の状態と外的な要因として剣道を行なっていた中学校の体育館の床にもあると考えられます。

体育館の床は、球技など多目的に利用するため、ボールが弾むように固く作られています。クッションの入った靴で、走り回るように設計されたものなので、裸足で剣道の練習を行なうには床が固すぎてしまうのです。この固過ぎる床と、土踏まずの形成が十分でないAさんの足の構造があいまって足底筋膜炎を引き起こしたと考えられます。裸足で利用することが前提で設計された剣道場などは、床材の下にクッションが施され、床材自体も踵や膝のために衝撃を吸収する素材が使われていますので、そうした故障を引き起こすことは比較的少ないと考えられます。
 

さて、この踵痛のため中学卒業と同時に剣道をやめてしまったAさんですが、それから約30年後に、また剣道をすることになりました。運動不足を解消するために何かスポーツをやろうと考えていたときに、ご子息が剣道教室に通うようになり、それにつられて始めたということでした。

今度は立派な剣道場での稽古でしたが、残念なことに中学生のときと同様に踵に痛みが出てしまいました。毎日車で通勤し、あまり歩くこともない生活で陥った運動不足、さらに扁平足のまま大人になったAさんの場合、足底筋が人より弱く、裸足で稽古するように設計された剣道場でも足底筋膜炎を起こしてしまったと考えられます。

同様に、固いコンクリートの上を走るランニングでもこの症状は、多くの人に見られます。現在、国内に1000万人もいると言われるランナー。華麗なウエアや、派手に演出された東京マラソンなどの人気に刺激され、いきなりランニングを始めて踵痛を起こしてしまう人が後を絶たないようです。
 走る前にまず一定の期間ウォーキングを行い、歩く距離を徐々に伸ばすことで、足や膝にある比較的小さな筋肉を強化してあげることが故障を起こさないためには大切なのです。

強い負荷のもとでは、大腿四頭筋などの大きな筋肉は鍛えられるのですが、小さな筋肉を強化することはできません。ウォーキングなどの、負荷の低い運動で、小さな筋肉群を強化し関節の動きなどを安定させることが、ケガを予防すると考えられるのです。

しかし、華麗なウエアに身を包んだらまず、走り出してしまいたくなってしまうのでしょう。特に若い頃運動部に所属して、過激なスポーツをこなしていた記憶のある人は、この誘惑に勝てないようです。

 

   
足底筋膜炎の診断
 

 朝起きて、最初の一歩目に踵に強い痛みを感じ、歩いているうちに痛みが引いて行く、というのが足底筋膜炎の特徴です。これは、寝ている間に傷ついた筋膜がある程度修復され、歩き始めにまた小さな亀裂が入るため痛みが出ると考えられます。足底筋膜炎の診断は比較的容易なので、痛みが数日続くようであれば整形外科でレントゲンなどを使った診断をあおぐようにしてください。レントゲンで踵の骨に骨棘が認められることもあります。

自分でできるケアとしては、アキレス腱を伸ばすストレッチと、ふくらはぎのマッサージが有効です。ふくらはぎの上部である膝の裏側から、ふくらはぎ全体に圧痛点を揉み解すようにマッサージすると良いでしょう。また、足底筋膜炎を起こす原因となった運動は、しばらく休んで安静にすることが大切です。

痛みがなくなったら、素足の下にタオルを引き、足の指でタオルをつかむようにして足底筋を強化すると良いでしょう。足のアーチの状態も良くなることが期待できます。

この他に踵に痛みを感じる疾患として、アキレス腱滑液包炎、踵骨骨端炎、踵骨骨髄炎、単発性骨嚢腫などが挙げられます。いずれにしても専門医の診断で、適切な治療を行なうことが大切です。

   
裸足が世界最速のランナーをつくる?
 

 裸足で歩く習慣が足底筋を鍛え、形成してくれる足のアーチ。このアーチの役割は現在完全に解明はされていませんが、歩くときや走るときのクッションの役割をしていると考えられています。裸足のアベベが、始めて東アフリカの選手のスピード、強さを照明したのが1960年のローマオリンピック。それから半世紀でエチオピアやケニアの選手が、世界最速の称号を独占しています。あるデータによると、それらの選手を排出する地域の子供達は、EU圏の子供の10倍もの距離を毎日裸足で走っているということです。

日本人もそう遠くない昔は、下駄や草鞋で未舗装の道を長距離歩いていたのです。このような時代には、足底筋膜炎になる人もきっといなかったに違いありません。

   

 

ぎっくり腰にはご用心(2013年7月)

 

     
 
7月のテーマ:
ぎっくり腰にはご用心

 「ぎっくり腰」を西洋では「魔女の一撃」とも言います。なるほどとうなずかれた方も多いのではないでしょうか。それほど突然、激痛に襲われるのが「ぎっくり腰」です。経験者は、重い物を持ち上げる際には気をつけているはずなのに、腰の入らない姿勢で何かを持ち上げてしまい、また「ぎっくり腰」を経験してしまう……そうした人も多いことでしょう。

今回は、このなんとも理不尽な症状について、その原因と対策法、治療法などをご紹介しましょう。

 
     

 

ぎっくり腰の原因
 

 ぎっくり腰は、「魔女の一撃」と言われるように、急激に起こる腰痛の総称ということになります。一番多いのは腰椎のねん挫で、筋肉や筋膜の一部が切れて背骨の両脇に強烈な痛みが出ます。詳しく言うと、骨盤にある筋肉や筋膜、靭帯や軟骨が損傷して起こるもので、特に多いのが骨盤の仙骨と腸骨からなる仙腸関節に付着している軟部組織の損傷ということになります。

この軟部組織の損傷は、骨盤を支えている筋肉が弱くなり、仙腸関節の身体を支持する能力が低下したことによって生じると考えられています。骨盤を支えている筋肉が弱くなる原因は、腹直筋などの上から支えている筋肉と大腿四頭筋など下から支えている筋肉、そして前後左右から支えている筋肉が、疲労の蓄積やストレスなどで徐々に弱っているところに、急激な動きなどでダメージを受け軟部組織が傷つくのです。

また、栄養分の不足も原因の一つとなります。関節の中のビタミンCが不足すると関節の支持能力が落ちて関節がズレ、ぎっくり腰になると考えられます。特に寒い時期には、身体が寒さに対抗するために副腎からホルモンが分泌されます。このホルモンの生成にビタミンCが必要となり、食生活などでビタミンの摂取が少ない人は、身体の中の組織や細胞中にあるビタミンCが使われ、関節の中のビタミンCが不足してしまうのです。

   
ぎっくり腰の対処法
 

 ぎっくり腰になる人というと、引っ越しや力仕事を日常的に行っている人というイメージですが、意外なことにデスクワーカ-や車好きに多いというデータがあります。悪い姿勢で長時間椅子に座り続けるというのは、腰に悪影響を及ぼしますので、定期的に血液の循環を促すような軽い運動をお勧めします。

また、最近急に体重が増えたという人は、増えた分の体重の負担が腰にも来ているということを認識しなければなりません。体重が増加した後にぎっくり腰を起こしたという人は、また同じ症状を起こす前に体重を減らすことが、一番の予防になります。

一人暮らしでぎっくり腰になると、事は重大です。重傷の場合、全く動けなくなることもあるので、まずメールや電話などの通信手段を確保しましょう。同居している家族などがいない場合は、友人などに症状を話しておくと良いでしょう。

また、次のようなケースでは、内臓疾患も疑われますので、緊急性があると感じた場合は、救急車を手配します。それ以外は、動けるようになったら一度病院の診察を受けてください。

  1. どんどん痛みが強くなってきており、絶え間なく痛む
  2. 熱が出て、冷や汗がでる
  3. 排尿や排便に異常がある
  4. 足にしびれがある
  5. 横になっても、痛みの和らぐポジションが見つからない
  6. 動きと痛みが無関係である
  7. お腹を強く打つなどの大きなケガを最近した

 ぎっくり腰になって最初にすべきことは、アイシングと痛みの少ない姿勢で横になって安静を保つことです。痛みの少ない姿勢は、横向きで膝を抱えるようにします。

ぎっくり腰も手や足のねん挫と同じように障害が起きた当初は、幹部が炎症を起こし症状が悪化していきますので、アイシングが有効です。アイシングは、ビニールの袋に氷を入れて一度水を入れてから、水を捨てます。これで少し温度が上がり凍傷を起こしにくくなります。それでも凍傷予防のためには、一度に20分以上連続で幹部にのアイシングをしないでください。

痛みの起きた直後から、幹部が熱を持っていると感じる2?3日は、断続的にアイシングをします。また、安静にしなくてはなりませんが、食事やトイレなどは、動ける範囲でなるべく動くようにしましょう。完全な安静状態よりも回復が速くなります。お風呂も数日の間はシャワーだけにし、湯船で身体をあたためることは避けましょう。

   
どうしても数日の安静ができない人は
 

 ぎっくり腰は、数日の安静が何より大切ですが、どうしても仕事などで休むことができない場合、神経ブロック注射という治療手段があります。

これはペインクリニック科や麻酔科の外来通院で行われます。消毒後に皮膚の痛み止めの注射をした後、やや太めの針でブロック注射を行います。効果としては、痛む場所の近くの神経をブロックすることで痛みの悪循環を断ち切り、ぎっくり腰の痛みを早期に取り去ることが可能になります。痛みの悪循環とは、患部が痛みにより血流が悪化し、筋肉を固くしさらに痛みを増幅するという状況で、この循環を麻酔でブロックするのです。

その結果、血管の拡張を促し血流を改善し患部に溜まった乳酸、インターロイキンを排出し、痛みを取るとともに酸素や患部を修復するタンパク質を運び込み治癒力を高めてくれます。以前、オリンピック本番直前に腰を痛めた選手が、この神経ブロック注射をしたという報道がありました。安静にしていられない、象徴的な例ですね。この注射自体の痛みが怖いかもしれませんが、ぎっくり腰の痛みそのものが、注射の痛みを和らげてしまうと言います。

熟練の麻酔科医師が行う場合、副作用もそれほど心配ありません。まず、医療機関に相談してください。

   
ぎっくり腰の予防はストレッチで
 

 腰の筋肉に疲れがたまったまま眠ってしまうと、起床時やその直後にぎっくり腰を起こすリスクが高まります。1日の筋肉疲労を緩和させるためにも、寝る前のストレッチが有効です。入浴後や就寝前のストレッチ(ひざストレッチ・両ひざストレッチなど)を習慣にしておくと、予防に効果的です。

ぎっくり腰は経験者でないと、そのつらさはわかりにくいものです。ねん挫や脱臼などは同情されるのに、なぜかぎっくり腰になったというと笑いを誘うことが多いように感じます。なってからでは遅いので、普段からストレッチやビタミンCの補給など、予防にも努めておきましょう。

   
   

 

突然死の予防にはメディカルチェックを(2013年6月)

 

     
 
6月のテーマ:
突然死の予防にはメディカルチェックを

 トライアスロンという競技をご存知でしょうか。水泳・自転車ロードレース・長距離走の3種目を一人で連続して行う耐久競技で、有名なのはハワイのアイアンマンレースです。高い温度と湿度、強い向かい風という過酷な条件にもかかわらず、最高峰のトライアスロンとしてアスリート垂涎の大会となっています。

国内でも、約40もの大会が開催されていますが、申し込みが殺到してエントリーするのさえ難しい状況にあります。ある人が大会に出場して完走できたら、死んでも良いと大会関係者に冗談半分に話したところ、この関係者は烈火の如く怒ったと言います。ボランティアスタッフを含め大会運営の関係者は事故が起こらないよう、安全な大会の運営のために寝る間も惜しんで努力をしているからです。

しかし、そうした関係者の努力にもかかわらず、今年4月に行われた石垣島トライアスロンで、40代の男性が水泳の競技中に亡くなりました。これまでも競技中の死亡事故があり、その度にウエットスーツの着用などルールの変更が行われてきました。それでも大自然の中での過酷なレースには、事故など外的な要因で起こるケガや、突然死のような内的な要因で起こる死亡のリスクは存在します。前置きが長くなりましたが、今回は、トライアスロンばかりでなく、マラソンやサッカーなど、激しいスポーツに限らず、ゴルフやジョギングなど比較的軽い運動中にも起こる突然死の原因とその予防について紹介します。

 
     

 

「突然死」の原因
 

  屈強なJリーガーがサッカーの練習中に突然倒れ、急性心筋梗塞で死亡したということを覚えている方も多いのではないでしょうか。突然死とされるものには、心機能に起因するもの、脳梗塞や脳出血によるもの、呼吸系に起因する窒息死、原因のわからないものもありますが、心機能に由来する循環器疾患によるものが全体の6割以上と多くを占めています。

 この心機能に由来する突然死を心臓突然死と呼びますが、健康になろうとして行う運動にもその危険は潜んでいるのです。血液は、身体中の毛細血管から集められ、静脈に入り上下の大動脈から右側の心房、右側の心室、肺、左側の心房、左側の心室、大動脈、動脈、毛細血管という順路で流れていきます。もし心臓に血液を送る冠動脈に障害が起き、左側の心室の心筋が動かなくなると血液が、左側の心室でせき止められた状態に陥ります。このときに運動によってさらに心臓に負荷をかけると肺は鬱血状態になり、心臓は疲労し不整脈を起こします。これが心臓突然死の引き金となるわけです。

心筋梗塞で不整脈を起こした場合は、心臓に栄養と酸素を送る冠動脈の動脈硬化が進行し血管の内側が狭くなります。その狭くなった部分に血栓という血の固まりが詰まると致死的な不整脈である心室細動が起こり、心室筋が適切に動くことができなくなってしまい心臓は血液を送り出す機能を失います。脳に行く血液も止まり死に至ることになります。こうした心臓突然死は、年間約5万人と言われ、この心筋梗塞によるものが最も多いとされています。

   
スポーツと突然死
 

 ここ20年間に開催された国内のマラソン大会で、120名を超える方が主に急性心筋梗塞が原因で亡くなっています。マラソンで急性心筋梗塞を起こすことが最も多いのは、ゴール直前とゴール直後で約7割の人がここで倒れています。ゴールが見えたところで、無理をしてきた身体に最後のムチを入れてしまったことが考えられます。どんなに無理をしないように自分に言い聞かせても、長い間準備をして臨んだ大会で、最後に頑張ってしまう自分を止めることは難しいに違いありません。しかし、競技の途中で胸に痛みを感じたとき、それが心臓へ送られる血液が不足しているということを知っていれば自重できるはずです。まず、こうした突然の不調が自分にも起こりうるということを認識することが大切です。

 こうした運動中の突然死の大多数が、これまでの研究では心疾患に由来する循環器系の病変が占めているということが明らかにされています。つまり、こうした病変を運動前のメディカルチェックで見つけることができれば、多くの突然死は防げるということです。

 40歳を過ぎると喫煙、飲酒、過食、疲労の蓄積などから、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病を発生し、動脈硬化の進行に伴い心臓に栄養を送る冠動脈が狭くなっていることが少なくありません。自覚症状としては、締め付けられるような胸の痛みや圧迫感、冷や汗、息が苦しいなどです。

運動を始める動機が、こうした自覚症状により体質改善を目指して、いわゆるメタボリックシンドロームから脱出したいというものである場合、すでに心臓血管系に病変があれば、それが命取りになることもあるのです。まず、医療機関で適切な検査を行うことをお勧めします。

 心臓血管系のメディカルチェックには、通常の血液・尿検査に始まり胸部X線、安静時心電図、運動負荷心電図、ホルター心電図などの検査を含め10数項目のチェックが用いられます。一例としては、病気の既往症や家族歴、自覚症状の有無などの問診、聴診、触診の後に血液検査と尿検査を行います。心臓超音波検診で心臓の形態的異常の有無の確認し、無ければ自転車エルゴメーターなどを使って運動負荷テストを行います。ホルター心電図を24時間つけてもらいその記録をチェックすることもあります。呼吸器系の病気が疑われる場合は、呼吸器検査を行うなどの必要が生じます。これらの検査は別に痛い思いをするわけでもないので、身構える必要はありません。 

継続的にレースなどに参加していて、これまで何のトラブルも感じていないという人も、一度チェックしておくことが突然死を免れるためには大切です。

 古代エジプトでは、非常に勇敢な人には実際に心臓に毛が生えていると信じられていて、尊崇の対象だったといいます。確かに現代でも心臓が健康的で強いのであれば羨ましい限りですが、心臓に毛が生えているという表現は尊敬を集めることとは別の意味になってしまったようです。

   
   

 

成長期の子供が、スポーツでケガをしないための予防と対策(2013年5月)

 

     
 
5月のテーマ:
成長期の子供が、スポーツでケガをしないための予防と対策

 平成24年度から中学校で武道教育が必修となりました。学校が柔道、剣道、相撲の中からどれかを選択するというものですが、比較的用具の費用負担が少ない柔道を選択する学校が多かったようです。しかし、読売新聞社の調べによると昨年度は北海道だけで、12名の生徒が柔道の受け身などの練習中に骨折しています。

正しい受け身を身に付けておくことはたいへん役に立ちますが、成長期の子供の身体の特性を理解した指導でなければ、逆効果になってしまいます。とくに中学生ぐらいの年頃は、背丈が急激に伸びるため、骨折等の障害を起こしやすい時期でもあります。今回はこうしたスポーツ時のケガや障害について、その予防と対策についてご紹介します。

 
     

 

成長期の子供には特に注意を!
 

 強い外力によって突然起こる骨折などのケガと、繰り返される小さな損傷が積み重なって慢性的に発症する障害があります。この障害には、疲労骨折なども含まれます。運動による刺激が生理的な許容範囲であれば、筋肉や神経、血管などの器官は、発達しその運動への適応力が強化されていきます。しかし、この刺激の強度が生理的許容範囲を超えてしまうと、ケガや障害を起こすリスクが高まります。成長期はこの許容範囲が狭い時期にあたるため、よりケガや障害が発生しやすくなると考えられます。

個人差もありますが、平均的に女子が10歳前後、男子は12歳前後が年間における身長の伸びが最も大きな年齢です。身長の伸びが著しいということは、骨が折れやすいもろい時期でもあり、骨の成長に関係する骨端軟骨に起こる障害も多いのです。大きすぎる負荷や生理的許容範囲を超えた激しいトレーニングを続けると、この骨端軟骨がつぶれてしまう可能性があり、骨が十分に成長できなくなってしまうことも考えられます。骨端軟骨は成長軟骨とも言われ、手足の関節に近い所にあって骨の成長をつかさどっています。寝ている間に分泌される成長ホルモンやビタミンなどが影響して成長を促すという「寝る子は育つ」ということわざ通りの働きをする大切な器官なのです。

重い器具を利用したウェイトトレーニングも、この時期に行ってはいけない運動です。筋肉トレーニングは、第2次性徴期に入る16歳から17歳以降に行うなど、子供の運動には、保護者や指導者は十分に注意し、将来に障害を残さないように留意しなければなりません。

熱中症も含まれますが全国の学校における負傷のデータによると、平成22年度の負傷件数は約105万件で、児童・生徒数からみると約8%の発生率ということになります。負傷している箇所は、小学生では顔や頭、腕などに多く、中学生になると顔や頭よりも足腰の負傷が増え、高校生ではさらに足腰の負傷が増えていきます。これらの負傷が繰り返されると、スポーツ障害という故障を引き起こしてしまいます。

   
主なスポーツ障害
 
野球肩
 

 肩の傷害で多い肩関節の脱臼や亜脱臼は、高校生以上に見られるもので、中学生以下ではリトルリーグショルダーと呼ばれるピッチャーによく起こる肩痛があります。リトルリーグで使用する硬式ボールは重く、子供の柔らかい骨には負担が大き過ぎると考えられます。上腕部の肩関節に近い部位の骨端軟骨に障害が起こり、ひどい場合は骨端線難開を生じます。レントゲン写真で骨端部の開大が見られる場合は、数ヶ月の完全な安静が必要になる場合もあります。

水泳肩
 

 ストローク動作の繰り返しで、靭帯が骨をこするために痛みが出ます。早めの治療を行なえば、手術せずに問題なく治す事ができます。

野球肘
 

 投球により生じる肘の痛み全般をさします。ピッチャーに圧倒的に多いもので、全力で投げる事で肘に負担がかかり、骨、軟骨、靭帯に損傷が起こります。指導者は、肘関節の動きの悪い子供にはすぐに投球を禁止し、整形外科の診察を受けさせないと症状は悪化し選手生命を奪う事になるということを肝に銘じなければなりません。

オスグッド・シュラッテル病
 

 成長期に最も多い痛みで、飛び跳ねる動作を伴う激しい運動で膝の下の少し出っ張ったところに痛みを感じます。骨としてはとても弱い箇所なので、少し休んでも痛みが引かない場合は治療が必要になります。

   
予防に大切なのは
 

 スポーツ障害を予防するには、一人ひとりの発育状況を見極めた指導が行われることが大切です。筋力が不足していたり、柔軟性が低下している子供にとっては、運動そのものが負担になり疲労が蓄積して障害を起こす原因の一つとなってしまいます。

指導者は、子供の動きをよく観察し、痛みを訴えてくる前に問題に気づくようにするのが理想です。もちろん適切な治療と安静、ケガ直後のアイシングなども大切ですが、ケガの発生要因を前もって知っておくことが、特に成長期においてはスポーツでケガや障害を予防することにつながります。

   
   

 

中高年に必要な筋力トレーニングとは(2013年4月)

 

     
 
4月のテーマ:
中高年に必要な筋力トレーニングとは

 冬の間はじっと家に閉じこもっていても、暖かくなると誰もが身体を動かしたくなるものです。中高年のマラソンやジョギングのブームもあり、身体に良いとされる有酸素運動を毎日のように行っている人も多いことでしょう。

この身体に良いとされる有酸素運動で鍛えられる筋肉は、遅筋繊維と呼ばれるものです。筋肉には、この他に瞬発的な動きに重要な役割を果たす速筋繊維と呼ばれるものがあります。では、中高年にとってこの速筋繊維を鍛えるようなトレーニングは必要ないのでしょうか。今回はこの筋肉トレーニングがテーマです。

 
     

 

 

 Aさんは、三人のお子さんを持つお父さんです。上の二人のお子さんと公園で遊ぶのは楽しかったのに、三人目の時は身体がついていかなかったと言います。子供は、少しもじっとしていないもの。何かに興味を引かれると、急に飛び出してしまいます。Aさんは二人目までは余裕でそうした動きについていくことができたのに、少し年齢の離れた三人目のお子さんの動きには対応できなかったそうです。

あるとき、公園で走ってきた自転車に向かって飛び出した子どもを止めようと、急にダッシュしたAさんは、アキレス腱を断裂する大ケガをしてしまったのです。急に走り出したり、走っている方向を急に変える動きには、速筋繊維が主に使われます。この速筋繊維は、遅筋繊維に比べて加齢とともに萎縮し、なくなってしまう性質が強いものです。40歳を過ぎると筋肉の筋繊維数が減少し、筋繊維の消失現象が起こりますが、特に失われるのがこの速筋繊維なのです。Aさんは、普段健康のためにジョギングなどをしていたのですが、この速筋繊維がいつのまにか萎縮していて、急な動きで過度に負担のかかった筋繊維が切れてしまったのです。

ジョギングを趣味にしている人に、「長く走るのは得意、フルマラソンもタイムは遅いけれども必ず完走します。でも速く走るのは苦しくて無理」という人は意外に多いものです。これは遅筋繊維が鍛えられていて持続力はあっても、速筋繊維は萎縮してしまって力がでない筋肉に変わっているからです。速筋繊維は、それを意識した筋力トレーニングを行わなければ、維持できないものなのです。

速筋繊維は中高年であってもトレーニングで強化することができます。最近の研究では、90歳を超えた高齢者でも負荷をかけた筋肉トレーニングで、筋力が高まることが実証されています。ただし、中高年の筋力トレーニングを、安全に効果的に行うには、きちんとした指導者のいる施設を利用したほうが良いでしょう。

   
中高年の筋力トレーニングはこの点に注意
 

 まず注意しなければならないのは、過度の血圧上昇です。息を止めて力を入れると血圧が上がって危険な状態になることがあります。息を止めて力むと収縮期の血圧が300mmHg、拡張期の血圧が200mmHgといった状態になることもあるからです。最近は、洋式便器の普及で少なくなったと言われる脳出血。昔は寒い時期に和式便器で踏ん張ったときに倒れるということがよくありました。息を止めて力むとこれと同じ状況を引き起こすことになります。

これは息を止めると胸腔内圧が上がって血流を阻害し、血圧を上げてしまうのが原因と考えられます。胸腔内圧を上げないようにするには、トレーニング時に、必ず息を吐きながら筋肉に負荷をかけること、これだけで血圧を上げすぎる危険を回避できるのです。

また、筋肉に負荷をかけるウェイトリフティングなどを習慣的に行っていると、一般の健常者と比較して動脈伸展性が低くなるという報告があります。この動脈伸展性が低下すると収縮期の血圧が上昇します。逆に、ジョギングなどの有酸素運動を日常的にしている人は動脈伸展性が高いと報告されています。

つまり、中高年の筋肉トレーニングはいざというときの瞬発力の維持には必要ですが、その筋力トレーニングで血圧を上げないようにするために、同時に有酸素運動を習慣化することが大切だということです。

   
トレーニング効果は、どのくらい続くのか
 

 こうしたトレーニングは少なくとも2ヶ月程度は継続しないと効果が現れてきません。しかし、風邪を引いたり、仕事が忙しくなったりといった理由でトレーニングを休み、そのまま止めてしまうことはないでしょうか。

そうした場合、トレーニング効果はどのくらい続くものかご存知ですか。有酸素トレーニングを行うと最大酸素摂取量が増加しますが、ある検証によるとトレーニングで増加した最大酸素摂取量は、3~4週間程でトレーニング前に戻るという結果が確認されました。このことから、トレーニングで増加した筋力も3~4週間で元に戻ると考えられます。これが高齢になるとさらに低下率が増加すると言われています。

やはり、「継続こそ力なり」で、継続する工夫こそが大切だということになります。春に始めた物事は長続きすると言われますが、さらに年齢と経験を重ねた中高年には、若い人にはない知恵と自分を知っているという強みがあります。どうすれば自分のモチベーションを楽しく維持できるか、己の性格に合った方法を探し出せるのか、必ず見つけることができるではないでしょうか。

飛び越せると思った水たまりが越えられなかったり、ちょっとしたつまずきで、身体が支えられずに転んでしまうなどということにならないように、筋肉トレーニングと有酸素運動、この二つをバランスよく日常生活に取り入れることができれば、あなたはよりアクティブに人生を楽しむことができるでしょう。

   
   

 

食後にすぐ横になるのは良い? それとも悪い?(2013年3月)

 

     
 
3月のテーマ:
食後にすぐ横になるのは良い?

それとも悪い?

 昔から「食事をしたあとで、すぐ横になると牛なる」とよく言われたものです。子ども心に、牛のような姿にはなりたくない、お腹いっぱいものを食べて、ごろごろしている怠け者にはなりたくないと考えた人もいたことでしょう。

主に、行儀の悪さを戒めた躾だったわけですが、同時に、そこには食事後にすぐ横になってはいけないという健康のための古人の知恵が秘められていたようにも思います。

一方で、ある剣豪小説に、若い武芸者が食べたものを効率よく消化して身体の栄養とするため、食事の後に真上を向いて静かに横たわることを日課にしているという場面がでてきたりします。

実は、消化という作業は、生き物にとって大変な力仕事なのです。元々固体であったものを噛み砕いて、消化液で溶かし、さらに酵素で分解し、血管を通れる栄養素にするという作業を驚くほど短時間でやってのけているのです。身体の血液を消化のために内蔵、消化器官に集中するために静かに横になるというのも合理的に思えます。さて、身体にとって食後にすぐ横になった方が良いか、ならない方がよいのか、今回はこのことをテーマとしてみました。

 
     

 

逆流性食道炎について
 

 
逆流性食道炎とは、食べ物を消化するための胃酸や十二指腸液が、食道に逆流することで食道の粘膜にびらんや炎症を引き起こす疾患名で、食後すぐに横になることが、この病気の要因の一つとされています。

食後にすぐ横になってはいけないという古人の教えは、この疾患に対する戒めだったのでしょうか。では、少しこの疾患について説明しましょう。

逆流性食道炎の症状としては、胸焼けがしてみぞおちのあたりに痛みがあったり、食事中や食後に横になると喉や口の中に胃酸が逆流して酸っぱいものがこみ上げてきたりします。胸のあたりに違和感・不快感があったり、腹部に膨満感があるという症状もあります。

また喉に違和感があったり、声がかすれる場合があります。食べ物が食道を通るときに痛みを伴うこともあります。怖いのは、就寝中に逆流物が気道にはいり、呼吸器疾患を起こすことです。

要因としては、ストレスや暴飲暴食、喫煙、飲酒。噴門とも呼ばれる食道下部括約筋の弛緩や喫煙や加齢による機能低下。食道裂孔ヘルニアという胃の一部が胸腔内に入り込んでしまう病気。妊娠、肥満、便秘、運動による腹圧の上昇、消化不良などとされていますが、一般的には「高齢化などによる噴門の機能低下」が最大要因として知られています。

食べ物を消化するための胃液は、一日に1.5?2リットルも分泌されます。この強い酸である胃液への耐性が弱い食道に胃液が逆流しないように蓋をしているのが噴門と呼ばれる部位です。この噴門が緩んでしまうと食べ物が逆流してしまうのです。

噴門の機能低下は、高齢化ばかりでなく、一回の食事量が多すぎたり、食の欧米化で油分の多い食事ばかり摂りすぎると下部食道括約筋の締まりが弱まり、噴門が開きやすくなってしまうのです。最近、若い人にもこの疾患が増えているのは、この食習慣の欧米化や遅い時間の食事、肥満により脂肪で胃を圧迫するなどの原因が考えられます。これらの原因に、食後すぐに横になる習慣が重なるとリスクが高まると考えて良いでしょう。

次にその予防と治療について紹介します。

 前述のような症状が気になり、肥満している場合は、医師に相談して体質改善と減量を行うこと、生活習慣を改善することが何より大切です。辛いものや脂っこいものを好んで食べたり、遅い時間の食事は消化系に様々な負担をかけます。

治療は、生活改善とともに薬物治療を行います。症状の緩和には食道を刺激する胃液の産生を抑制する薬物を使用します。薬物での治療は中断すると発症時と同じような症状になることが多いので、症状の進行状況をみながら治療薬の増減を行います。

治療薬は、胃酸の分泌抑制剤や消化管運動機能改善剤、胃酸の濃度を中和する制酸剤などを使用します。こうした薬による治療の効果が現れない場合や、食道狭窄などによる出血があるときや食道裂孔ヘルニアが確認されたときは、外科治療を行うこともあります。

手術は機能が低下した噴門や下部食道括約筋の修復や食道裂孔ヘルニアによる裂孔した横隔膜の縫合などを行います。また、高齢者の場合、加齢により緩くなってしまった食道裂孔の縫合などを行う噴門形成術を行うこともあります。

   
食後の安静
  食後に横になって安静にするのは、高齢者の場合上半身は起こした状態で安静にするというのがベストでしょう。この姿勢であれば逆流性食道炎の予防にもなります。もう一つ肝臓という臓器にとっても食後の安静は大切だということも説明しておきましょう。

肝臓には胃や腸で栄養を吸収した血液が集まってきます。この血液が肝臓の中を通過するときに肝臓に栄養が吸収されます。この血液の量が横になると立っているときの2倍から4倍になるといわれます。食後に30分から1時間ごろ寝をすると栄養たっぷりの血液が肝臓に集まり、慢性肝炎などの肝臓病がある人に良いだけでなく、肝臓病を未然に防ぐ効果も期待できます。腹八分目に和食をいただいて、食後にクッションを背に長椅子にゴロンと横になるというのは最高の贅沢かもしれません。